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闇の章
払暁―夜明け前。
襲撃に最も適した時間帯と言われている。
1995年1月17日 5時46分52秒。
日常から非日常へ変化した境目の時だった。
夢から一気に連れ戻されると、何もかもが無くなっていた。
何を失ったか、順に思い出してみる。
まず光を失った。
そして時間を見失い、床はない。
動きを封じられ、安全も情報もなかった。
文字通りに「地は混沌であって、闇が深淵の面にあり」だ。
目を開けても何も見えない。
さっきまで目をつぶって見ていた夢の中の方が、まだ景色が見えていた。
闇の中だが、なぜだか一つわかったことがあった。
天井に光源としてあったはずの物が、そこにない。
停電以前の問題だった。
築20年ほどの自宅の天井にあった照明は吊り下げ式だった。
日常であれば。
いつも在るものが、そこにない。
たったそれだけでこれほどの恐怖を呼ぶとは思わなかった。
何も無い天井が心理的に闇をさらに深く見せた。
懐中電灯があれば。
以後29年間、枕元にライトを欠かすことはなくなった。