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19.ヒロインの思い込み



 王都に(ノエル)と六人の職人達がやってきた。

 店舗になる予定の建物も、皆の住まいもアランが手配してくれた。

 どうしてアランはここまでしてくれるのだろう。私から頼んだ事ではあるけれど、ここまで優しくしてもらうと少し不安になる。




 七人に周辺の案内をした後ノエルにアランを紹介して一旦解散することになった。

 さっきまで賑やかだった部屋が一気に寂しくなる。まだ何も無い店舗。二週間後には開店するから 、こんなにガランとしているのは今だけだろう。

 明日からまた頑張らなければならない。のんびりする時間は終わったのだ。

 心の中で気合いをいれつつアランに向き直る。


「今日は本当にありがとう。本当に王都にお店を出せるようになるなんて夢のようだわ」

「どういたしまして。でも大したことはしていないよ。僕は場所を提供したにすぎない。大変なのはこれからだ」

「そうね……。王都で利益を出さないといけないものね」


 王都で暮らしていくにはお金がかかる。お店を経営するのならなおさら。

 フローレンスとアランに助けてもらったのだ。失敗するわけにはいかない。

 なんとかして利益を出さなければ。


「そう気負う必要はない。上手くいくよう支援していくつもりだよ」

「ありがとう」


 アランは優しく微笑んでくれた。


「ところでノエル君はリゼットとは性格が全然違うんだね。意外だったよ」

「ふふ、あの子は人見知りだから……」


 先程の弟の様子を思い出す。

 初対面のアランに対して礼儀正しく受け答えしていたものの、ずっと私の隣から離れようとしなかった。知らない人がいて緊張していたのだろう。


 幼い頃からずっと私にくっついて回っていたノエル。血の繋がりはないけれど、あの子が私を慕ってくれたからこそ、私は寂しいと思うことなく生きてこられた。

 大切な弟だ。


「でもしっかりしてる子なの。きっと大丈夫だと思うわ」

「ああ、わかっているよ。オルコット男爵がこの店の責任者としてノエル君を選んだのだからね」


 私は血縁者ではないから、これはノエルにしか出来ないことだ。

 でも姉としてあの子を助けてあげたい。責任を肩代わりすることは出来ないけれど、負担を減らしてあげることくらいはできるはずだ。

 …………といってもノエルは家族の誰よりもしっかりしているから、私は大して役には立てないかもしれないけど。


「このお店のために私も頑張るわ。アランに多くのことを教えてもらったもの。少しは役に立てると思うの」

「無理はしないようにね。君は集中すると周りが見えなくなるみたいだから」

「そんなことはない……とは言えないけど……。でも自分の限界はきちんと理解したのよ?」


 なんといっても一度倒れてしまったのだから。

 ただ、あんな無茶をしなければ大丈夫だということはしっかりと学んだ。

 力量を見誤ると自分の努力も、他人の優しさや労力さえも台無しにしてしまう。だから二度とあんなことはしない。

 しっかりと学んだからもう大丈夫。大丈夫なはず。


「それより、今後のことなのだけど……」


 気まずかったから違う話題を出すことにした。

 そんな私に気付いたのか、アランは僅かに苦笑しながら頷いた。


「そうだね。まず二週間後にここがオープンする。この通りは高級店が多く貴族もよく通るんだ。顧客を増やすことができれば借金を返済できるだろう」


 アランが用意してくれたこの場所は大通りに面していて近くに競合店もない。どう足掻いてもオルコット男爵家(わたしたち)では用意できない場所だ。


「以前も言ったように王都でセブラム刺繍を流行させることが一番の近道だ。シャロン商会と共同で商品を作る形にはなるけれど、これは上手くいくと思うよ」


 シャロン商会の新商品ならば国中の貴族が注目するため一定以上の売上が期待できる、とアランに教えてもらった。

 力を持った貴族がそれらを身につければ追従する人々が必ず出てくる。大きな流行にできるかはわからないけれど、一時的な流行であれば問題なく起こせる、らしい。


 本当に何もかもアランに頼りきりだ。

 これで本当にいいのだろうか。


「アラン、その、本当にありがとう。ここまでしてもらえるなんて……私どうやってこの恩を返したらいいのか……」

「気にしなくていいよ。オルコット男爵に手を貸すことでシャロン商会(僕たち)も利益が得られるからね。これは慈善事業じゃなくてビジネスだよ」


 アランはそう言って笑ってくれるけど、本当にそれだけの関係なら、ここまでしてくれる必要なんてない。


「でもアランが助けてくれなければこんないい場所にお店を出すことなんてできなかった」

「......偶然だよ。ここが偶然あいていただけだ」

「それだけじゃないの。何もわからない私のために色々教えてくれたし、勉強にもつきあってくれる。一緒にいて嫌な顔しないし優しくしてくれるし話も聞いてくれるし......本当に感謝してるの」


 アランは笑ってはいるけれど、その笑顔はどこかぎこちない。

 いつもそうだ。

 私が『ありがとう』と言う度に彼の表情は僅かに曇る。


「そこまで感謝されるほどのことはしていないよ。君が感謝するべき人はフローレンスだ」

「もちろんフローレンスにも感謝してるわ。でもアランにも同じくらい感謝してるの」


 感謝の言葉を何度紡いでもアランには届いていない気がする。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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今回は少し短めですが、次回は来週更新します。

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