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13.ヒロインの布教活動3


「刺繍が本当に好きなんだな」

「ええ、小さな頃からずっと見てきて憧れてたから……。だからこうやって自分の手で刺せるようになったのが嬉しいんです」

「そのハンカチは誰かに渡すのか?」

「え?」

「女性はハンカチに刺繍して大切な人に渡すんだろう?」

「そうだけど……でも渡す人なんていないし……」


 恋人や婚約者がいるわけでもなく、好きな人もいない。

 これはただ練習と布教を兼ねて刺したものだ。

 興味を持ってくれた人に渡したり、汚れてしまった時のために複数持ち歩いているうちの一枚だ。

 特定の誰かのために刺したものではない。


「渡す人がいないのに刺繍したのか」

「それは…………」


 さすがに布教のための刺繍です、なんて言っても理解されない気がする。

 そういえばギルバートにハンカチを渡したときも似たような話の流れで渡したんだよね。

 その効果でジェイクにも広めてくれたわけで……。

 ジェイクにも同じかんじでいけないかな。


「よかったらこのハンカチ、もらってくれませんか?」

「…………どうして俺に?」


 困惑したようなジェイクの表情に慌ててハンカチを引っ込める。


「ご、ごめんなさい! ちょっとどうかなーって思っただけで……、その、下心があるわけじゃ、あ、ちが、えっと……」


 自分で下心なんてないって言っても信じてもらえるわけがない。

 何せ下心満載なのだ。このハンカチをきっかけにオルコット男爵家(うち)にお金を落としてくれないかなーっていう主人公どころか貴族令嬢としても品位に欠けまくっている打算で心がいっぱいなのだから。

 何とか誤魔化そうとあたふたしていると、私のその様子がおかしかったのか、ジェイクは小さく吹き出した。


「別にそのような事を疑っていたわけではない。が、せっかくの申し出を断るのも心苦しいな」


 ジェイクは私の方へ手を出した。


「そのハンカチをもらっていいか?」

「えっ…………あ、はい……」


 引っ込めたハンカチを恐る恐るジェイクの手に乗せる。

 ジェイクはハンカチを受け取るとまた小さく笑った。


「……女性は俺を怖がる事が多いのだが、貴女は俺が怖くないのか?」

「え……ああ、そういえば……」


 そんな設定が確かにあった気がする。

 ジェイクは強面で身体も大きいから威圧感を与えてしまって怖がられるとかなんとか……。

 ギルバートの柔らかい雰囲気と比べるとジェイクは取っ付きにくい雰囲気があるし、何も知らない子からすれば怖いのかもしれないけど、そんな怖がるような相手じゃないと思う。

 というかいくら強面のジェイク相手だからって怖がるのは貴族令嬢としてマナー違反なのでは……。


「怖くはないです。ジェイク様は優しい方ですから」

「どうしてそう思うんだ? まだ二回しか会ってないのに」

「だって男爵家の養子(わたし)と話してくれるんですから」


 身分や親の爵位は制服を見ればわかる。校則に定められているわけではないけれど、リボンの色が違うのだ。

 それに制服の装飾も私のものはとてもシンプルだ。

 遠目ではわからなくても会話ができる距離にまで近付けばこの学園での私の立ち位置がわかる。


「…………学園ではみな平等だ」

「そうですね。でも話し相手を選ぶ権利は私にはないですから。ジェイク様が話しかけてくれたからこうやってお話ができるんです」

「それは……」

「あ、卑屈になってこんなことを言ってるんじゃないですよ? 身分や立場が違っても人の優しさの本質は変わりませんから。ジェイク様は優しい方です」


 ゲームではわからなかったけど、今の私の立場だからこそジェイクの優しさがわかる。

 ギルバートもそうだけど、ゲームの攻略対象キャラなだけあって清廉潔白というか、品行方正というか。

 他人を欺いたり妬んだりしなさそうな人達だ。




 …………私は主人公のはずなのに、彼らには釣り合わないな。

 このままでは良くない。

 二人への布教を成功させるためにも、私は主人公らしくあらねばならないのに。



 ところで、主人公らしくなるってどうすればいいのだろうか。

 さっぱりわからない。物語の主人公は人に優しくて正義感があるイメージだけど、どうやったらそうなれるのか。そう見せられるのか。


 これは早急に対策し改善しなければならない。



 そうとなったらさっさと寮の部屋に戻ろう。


 不審に思われないようにできるだけいつもの笑顔を装う。


「今日はお話できて楽しかったです。もしまた機会があれば、今度はジェイク様のことを聞かせてくださいね」

「ああ……。もう行くのか?」


 頷くとジェイクは小さくそうか、と呟いた。


「またここに来てもいいか?」

「……、もちろんです」


 これは布教成功したのかも、なんて考えがよぎったけれどなんてことない顔をして首を縦にふった。






 ジェイクと別れて寮までの道のりを足早に歩く。

 なんだかこれまでと違って順調だ。

 借金だってすぐ返せちゃうんじゃないかな。

 油断は禁物だけど、でもどうしたってわくわくする気持ちが出てきてしまう。


 


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