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ガールズインテラプトラップトップ

 あの後、遊園地近くのホテルへ行った。先輩は「かなり安めのとこでスマンな」と言っていたが、それでもかなり綺麗で、サービスも良かった。何より新鮮であった。地球のホテルもそんなに多くは知らないのだけど、ロウテリアのホテルというやつがとても新鮮だ。

 割と驚いたのは、歯ブラシが置いてないことだ。代わりに洗口液…つまるところ液体ハミガキが置いてあった。洗口液っていえば、歯ブラシ+歯磨き粉で歯磨きした後に行う、補助的なやつのイメージなのだ。だが、ロウテリアでは洗口液だけで済ませるようだ。それだけ、殺菌効果に自信があるのだろう。

「…」

 使ってみることにする。こういったホテルに置いてあるグッズは、どうせ無料なのだ。くちゅくちゅ。途端に、シトラスの香りが口中に広がる。辛さは全くない。不思議と誤飲は絶対にできないような感じがする。ただの心地のいい液体でうがいしているようだ。ぺっ、と吐く。…ものすごい爽やかな感じだ。口を開いて、鏡の中を覗くと、歯は一本残らず真っ白に輝いていた。これが私の歯の本来の輝きか…。

「なにしてんのー?」

「先輩、この液体ハミガキすごいですね」

「あ〜、まあそう感じるか。なんか新鮮な感じやな。私らにとっては普通のものやから、言われてやっと、そういやスゴい技術やねんなって気づくわ」

 程度の差こそあれ、ロウテリアも地球も、どこも同じような感じなのだろう。地球でも、普段の生活を支えてくれる生活用品のことを当然だって思っている地球人は多いだろうけど、実はスゴい技術ばかりなのだ。当たり前を当たり前だと思うな、てやつだ。当たり前のことだけど。

 考えてみれば、私ら地球人がいつも使ってるスマホだってすごい。…まあウニ先輩が左手首に巻いてるミサンガみたいなやつは、もっとずっとすごいんだろうけど。

「…そのミサンガみたいなやつ、なんなんですか?」

「現在の地球でいうスマホみたいなもん。携帯電話であり、カメラ機能やカレンダー機能や検索機能や何でもある…ってやつやな」

「ああ、やっぱそういうことですよね」


 明日の予定は特に聞いていなかった。ウニ先輩はどうするつもりだったのだろう。窓から見える日は傾いていて、空は一面に濃い赤に染まっている。散り散りの雲は地球でよく見かけるそれと全く同じで、異星に来たという感じがしない。

 ロウテリア人は平均的に午後10時半あたりに晩の食事を取るが、それまではまだ3時間以上ある。ホテルのベッドはフカフカだが、そのベッドがフカフカなのも含めて、地球と大差ない気がする。ただテレビが見当たらない、くらいか。

「テレビとか無いんですか?」

「あるで」

 ウニ先輩はベッドからピョンと降りて、壁の近くへ歩いてゆく。そして、壁に埋まっている、カジノのチップくらいの大きさの、プラスチックっぽい謎の塊に薬指を触れる。すると、そのプラスチック塊の近くにやはり空中ディスプレイが現れる。それを少し操作したかと思うと、その空中ディスプレイは200倍くらい広くなり、一面の壁を埋めるくらいの空中を占領した。インチ換算だと何インチだ?途端に、さっきまで眺めていた無機質な白い壁は、クソデカインチのテレビジョンとなった。

「でっっか」

「私は逆に、地球に来たときにテレビの画面の小ささに驚いたわ。画面が小さいと目に悪いから、気をつけてや」

「医者みたいなこと言いますね」

「健康は気をつければ気をつけるほどいいからな」

 …しかし、やっぱり、ウニ先輩は医者なのだ。ロウテリアの教育カリキュラムがどうなのかは知らないが、地球の基準で考えれば、医者になるには大学の医学部で6年間学んだあとに医師国家試験に合格してそれから臨床研修ってやつもいる……と道のりは長い。それらを経て医者になるのだけど、ウニ先輩はもう既に医者ではあるとのこと。

「…ウニ先輩って何歳なんですか?」

 地球にいるときの設定では、大学医学部の2回生ってことで、最低でも19歳以上ってことになるが。

「それは、実年齢ってこと?」

「ハイ…。よければ教えてください」

 どこのどんな生物だって、歳を取れば肉体はそれ相応に老いるはずだが、ロウテリア人は見た目年齢と実年齢にどれくらい開きがあるのだろう。ウニ先輩はむしろ大学生にしては幼く見えるが、実際は1000歳とかだったりするのか?

…。

「……じ、16」

「ん、え…え!?………万ですか?」

「ち、違うわ!16歳!誰が16万歳かっっ!!」

「いや、え〜〜…16歳。私より年下じゃないですか」

「まあそういうことになるな」

「…変な感覚ですね、先輩って呼んでるが人が自分より若いって」

「いや別に先輩呼びは強要してないが…」

「いやいや、ウニ先輩って呼びますよ、これからも」


 それから、動画の構成について話をしたりして過ごした。結局、壁一面大の空中ディスプレイのテレビはほとんど見ることはなかった。最初の動画は、マックのハンバーガーの食レポをすることに決まった。あの、一番安いやつだ。ずっとハンバーガーの話をしていたので、先輩はすっかりハンバーガーの舌になったらしく、しかしやはりロウテリアでハンバーガーを売っているお店はないらしくて、ハンバーグを食べることで我慢していた。吸血鬼が血の代わりにトマトジュースを飲むみたいなものか、と考えたがそれは適切な例えではない…そう、人間の血の代わりに牛の血を飲むみたいなものなのだろうか。そういうわけで先輩の晩ごはんはハンバーグで落ち着いた。私も付き合って、その店でハンバーグを食べた。私が頼んだやつは、中を開くとチーズがトロリと出てきて、「ハンバーグに対する造詣が深い…」と感心してしまった。…どうでもいいか。

 もうロウテリアに来てからけっこう経つ。経過時間は “日” ではなくて “時間” を単位に表現される程度ではあるものの、かなりロウテリアという星の雰囲気は掴めてきた。

「そういや、風呂やけど…どっちが先に入る?」

「え?狭いんですか?」

「風呂?いや、狭くはないけど、なんで?」

「じゃ、一緒に入りましょうよ、ウニ先輩」

「いや…う…まあ、そうするか」

…?

 どうしたんだ、ウニ先輩は。まあいいか。ロウテリアのホテルのお風呂…お手並み拝見といこうか。水回りというのは、技術の差が如実に現れるのだ。地球よりも更にハイなテクノロジーが見れるはずだ。

 風呂はトイレの一つ隣の場所にあった。ユニットバスじゃなくてよかった。風呂とトイレを一緒にするなど、気が確かではないのだ。異星人のみんな、地球に来る際は是非気をつけてほしい…地球にはユニットバスという狂った文化がある。あれにすると何故か家賃は安くなるが、ユニットバスとは幽霊みたいなものなのか?

「おおー…意外と地球とは変わりませんね」

 でっかい浴槽、そしてシャワー、イス…。ん?

「どーした?」

「いや、フツー…、というよりは、地球では、風呂場のイスといえば、真ん中に穴の開いたツルツルのプラスチックっぽいイスなんですが…」

 ロウテリアでは、いや、このホテルでは、違った。ソファーみたいなのだ。

「ふふん、文明の発展した先にはな、これほどの防水が存在すんねん。防水を極めたら、ソファーでくつろぎながら体洗えるってことや!」

なんと。こいつはすごいや。防水性は高そうではない。ツルツルもしてないし、レザーっぽくもない。ふかふかの、天使が休息の際に使いそうな極上のソファー。

「これが、防水性が高いというのですか」

「実際に使えばわかるで。もう、フロ入ろか?」

「そうですね」

 服を脱ぐ。小麦色の肌が、日の出のようにだんだんと露わになってゆく。

「わっ わーーーーッ!」

「うわ、ビックリした。なんですか急に」

「いや、急に脱ぐなやあ…心の準備ってもんが…」

「ウニ先輩もはやく脱いでくださいよ。…いや、私の配慮がたりませんでしたね。やっぱり別々に入ります?」

「い、いや、一緒に入りたい」


「ロウテリアの人って、地球人と身体の構造は似てるんですか?」

「んー?そうやなー、人間の構造はどこも一緒やね。星の違いって、国の違いみたいなもんやで。アメリカ人、オランダ人、日本人、モンゴル人…同じやろ?」

「ええ、ですね」

 ウニ先輩は、“一切濡れない”ソファーに深々と腰を下ろしながら

“目に全く染みない”シャンプーで、頭を洗っていた。どうもこのシャンプー、洗顔料にもなっており、また制汗の機能を持つボディーソープでもあるらしい。なんでもありかよう。

「やー、なんか動画でも見る?」

 そうか、当然、動画を再生する機材も防水性はめちゃめちゃに優れているのか。

「見ましょう。なんか好きなチャンネルでもあるんですか?」

「特にないけど、料理系は好きやなあ。地球の料理動画も見るで!YouTubeで。あ、そうや、人気の食レポ動画でも見るか」

「宇宙どこでも食レポは人気を集めるんですねえ…」

「どこの人間も三大欲求は同じやからなあ」

 そういって、ウニ先輩はめちゃ防水性の高そうな腕のリングをいじった。ヴン。空中ディスプレイがバッと広がる。ノートパソコンの二倍くらいの画面が風呂場の宙に浮いている。半透明の画面の向こうの風呂場がくっきりしていて視界がうるさかったが、ウニ先輩がそのリングをいじると不透明度が上がり、見えやすくなった。

「すっげ」

「地球もすぐできるようになるって」

 スス、と、ウニ先輩が宙に静止している画面に触れて操作する。ちなみに、リングは、画面を映しているというよりも、画面を生み出しているといったほうが似合っていた。だからリングの装着された腕をブンブン振り回しても、宙に浮く画面がつられて動くことはなかった。

「どういう紹介動画が、ロウテリアではバズるんですか?」

「地球と変わらんで。うまそうなメシをうまそうに食って、ポエティックな食レポするのがバズる」

「先輩、ポエティックな食レポはできそうです?」

「…いや」

 体まですっかり洗い終えたウニ先輩が、先に浴槽で湯に浸かっていた私の隣に、申し訳なさそうに入る。先輩が入りやすいように、少し横にずれる。二人でならんで、ロウテリア人の食レポ動画を見てみる。再生回数780億の、子豚のエネリア(ロウテリアの熱帯地域に生える大きなヨモギのような植物の幼葉に包んで特殊な銀のフライパンで低温で焼く調理法)を、若い男女の二人が食べている。

「話題の…子豚の、エネリア、二人で食べてみた。…地球、日本の食レポ動画と変わりませんね」

「どこもそういうもんなんやな。じゃ再生するで。5ヶ月前くらいの動画やけど、今でも再生回数が伸び続けてる。すごいよなあ」

「いや、すごいって次元じゃないですよ!780億再生って!単位が万じゃなくて億ですよ!」

「ああ、この動画投稿サイトは、一応ロウテリアを基盤にしてるんやけど、地球のYouTubeとちがって、全宇宙のネット上にアクセス権があるからな…。まあ、実際にこのサイトにアクセスすんのは全宇宙のなかでもロウテリアから0.02光年以内の近所の住民さんくらいらしいけど」

「えええ…宇宙ってバカ広いですね、やっぱり」

「うん」と言いながら、ウニ先輩は動画を見ている。私も視線を動画に戻す。子豚のエネリアは初めて見たが、うまそうだ。…宇宙は…「宇宙は、広いな。君の想像できるよりも、なん兆倍も」

 視線がふいに先輩の横顔にいってしまう。ウニ先輩は、たまに実に詩的だ。この動画にでてくる二人よりも、ずっと。




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