ガールズノウエブリシング
午後3時45分ごろにマックでバーガー食ってる奴は、宇宙人らしい。びっくりだ。流石に。どんな事情があって、あんなランチタイムともディナータイムともなれない微妙な時間帯に飯食ってるのかと疑問であったが…いや、はや、まさかこうだったとは。
「ウニエルシタス先輩は…」
「ウニでいいよ」
「ウニ先輩はなんで地球にやってきたんです?」
「ウニちゃんでいいよ」
「…ウニちゃんはなんで地球にやってきたんです?」
そうだ。なんで宇宙人が地球に用があるってんだ。資源が豊かだからか?と考えてみたが、なんとなく違う気がする。地球へ来れる移動手段を持っている時点で、地球の絞りカスみたいな残されたエネルギー資源に興味はないだろう。むしろ地球に資源を分けてくれ。
「地球に来た理由…ね、」
地球の資源目当てじゃないとすればなんだ?綺麗な緑の自然か?まさか地球人を奴隷にして労働力に……
「…」
ごくり。生唾を飲む。
「…あんな、カネモちゃんが考えてるようなんとは絶対ちゃうから」
顔に出てたらしい。
「じゃあなんなんですか?」
「技術の伝授」
「え?」
ウニちゃんはえっへんと胸が張るように体を反らし、続けて説明をする。
「うちの母星に比べて文明レベルの低い地球に、うちの技術を段階的に伝える。そして、宇宙の中でうちらの所属してる体系の、文明レベルを “ならす” の」
わかるような、わからないような話だ。
「うーん」
「地球の中でも地球人が似たことやってるよ。先進国による、発展途上国の手助け…。これに該当すると思う」
「なるほど…」
いつの間にか左膝の痛みは消えていた。もしかして、ウニ先輩に巻いてもらった包帯も、超文明的なあれなやつですぐに傷を癒してくれたのだろうか?…考えすぎか。
ウニ先輩は続ける。
「…ま、地球人に与えてばっかってわけでもないけど。文明を与える代わり…ってわけではないけど、地球の文化をもらってる。たとえば、フレンチトーストという料理は、地球から母星に伝わった瞬間からすぐ大ブームになったなあ。あれ考えたやつすごいわ」
ウニ先輩はそう言って遠くを見つめた。フレンチトーストに思いを馳せてるんだろう。
「……侵略とか考えないんですか?人類は愚かですよ」
「物騒なことゆうなや!」
「ご、ごめんなさい」
とりあえず、しばらくは地球が侵略されるようなことはなさそうだ。
「別の質問とかないのん?」
「うーん。…じ、じゃあ、さっきから地球…地球人って言ってますけど、ウニ先輩の母星はなんていうんですか?何人なんですか?」
「地球語…日本語で発音すんのはむずいんやけど……」
「はい」
「ロウテリア、かなあ」
その後私たちはLINEだけ交換して別れた。連絡先を得た。ロウテリア人の、ウニエルシタス先輩の。
「……変なアイコン。アダムスキータイプのUFO…って、この人隠す気ないだろ」
……まさか実際にこれに乗ってきたのだろうか?
それから次に会ったのは、そう間隔の空いていないときであった。
というかそれから2日後の金曜日だ。金曜日、私は授業が昼からあるので、遅くに家を出る。午前10時30分ごろ…あのマックの前を通ったとき…いた。ウニ先輩がいた。
はあ。もう、だいたいわかるっちゅーねん、といいたい。どうせ朝にお腹が空く時間も、地球人から4時間うしろにズレてるんだろう。
息を吸う…はあ。すう…
「(ロッテリア星人の、ウニエルシタス先輩ーーーーっ!!)」
…うむ。
やっぱり、思いっきり叫んだつもりなのに、声を出したという手ごたえはなく、そこらを行き交う人々は誰も反応しない。
やっぱりただ一人、ウニエルシタス先輩だけがこちらを見ていた。びっくりした顔で。目を丸くして。
マクドナルドの店の中に入る。コーヒーとアイスクリームを単品で注文する。ウニ先輩の近くに近づくと、先輩はガッとこちらの肩を掴む。
「ジブン、ほんまエグいことすんなあ!マジでビビるから!」
「あははウニ先輩、ああいうときに私の声が周りに聞こえなくなるって本当なんですね」
「あのなあ。…あと、ロッテリア?って何?ロウテリアやから。他人の母星の名前でイジったらあかんねんで」
「朝もマックなんですね」
「……いや、うん。ジブンは?これから授業?」
「はい」
ウニ先輩は照り焼きチキンフィレオを食べていた。
「私も。ちょっと待って今食べ終わるから。一緒に行こ」
私は、授業も少なく、だいぶ自由時間の持てる学部にいるのだけど。ウニ先輩は医学部だったはずだが、医学部というのもそう暇なのだろうか?
「そういや、カネモちゃん、左膝の傷はもう大丈夫なん?」
「はい。昨日はありがとうございました」
「んーん。いいって。じゃ、行こ」
「さっきのはやっぱり朝食だったんですか?」
モノレールに乗ってがたごとと揺れながら、会話する。モノレールは6、7分くらいで大学へ着く。
「うん、そうやな。察してる通り、私らの同胞らのメシの時間は、地球人から4時間くらいうしろにズレてる」
「そうだったんですね」
なぜか、ウニ先輩とは気さくな会話ができている気がする。まさか大学に入って最初に仲良しになれた人が、宇宙人だったなんて。
「私のことばかりじゃなくて、そっちの話も聞かせて」
ウニ先輩が、私の心臓の埋まっているあたりを、トン、と人差し指で触れる。
「私のこと?」
「そ、カネモちゃんの生い立ち経歴などなど」
「ええ…出生からですか…」
それから私は自分の生い立ちを話した。ウニ先輩は相当な聞き上手で、私の会話にも脂が乗り、ウニ先輩もフンフン頷いて楽しげに話を聞いてくれた。私が小学4年のころにあった、給食プチトマト紛争まで話したところで、大学最寄駅に着く。最寄駅とは名ばかりで、この最寄駅()から大学までさらに20分も歩かなければならないのだが。そして私が高校2年のころにあった、修学旅行パンツ出汁事件まで話したところで、大学の中心の棟に着く。
「また話聞かせてー!じゃあまた!」
「はい、また。ウニ先輩」
あれじゃ友達もさぞ多かろう。そう思った。
もしかして、ウニ先輩との会話は、地球人の生活・文化などの調査も兼ねられているのだろうか?
午後4時50分、今日取っている最後の授業が終わる。授業に関して特筆することはない。
早く家に帰らねば。片道2時間。家に着く頃にはもう6時50分前後だ。
「いそげ いそげ…」
駅のマックは賑わっていた。部活終わりの中高生、早めに仕事を終えたサラリーマンたち。ウニ先輩はいなかった。偶然ではなく必然的にいないのだと言える。地球人より4時間早く体内時計の短針が走っているロウテリア星人は、(地球人は午後6時半ほどに晩飯を食べると考えて) 午後10時半前後に晩飯を食べるのだろう。
それからも、ちょくちょく会った。というより、毎週の水曜日と金曜日に必ず会った。
三時限目で授業の終わる水曜日は昼ごはんを食べている先輩を、三時限目から授業がある金曜日は朝ごはんを食べている先輩を、見かける。
「おはよう、カネモちゃん」
「おはようございます、ウニ先輩」
私は、いつしか水曜日の午後3時45分と金曜日の午前10時30分に、マックのコーヒーを飲むことが習慣化しつつあった。
「もう夏学期ですね」
地獄の試験週間を乗り越え、今日は6月14日であった。水曜日。暑い。日差しがうざったいが、梅雨で雨の続く中、晴れてくれただけでも感謝するべきだ。
「んー」
医学部の試験は、自分が受けたものよりもずっと難しいのだろうな、と思う。しかし、ウニ先輩は試験期間なんの焦りも見せることなく、逆に試験から解放された喜びも見せていなかった。
「先輩、試験、どうでした?」
「簡単やったな。そっちは?」
「クソむずかったです」
「あはは、お疲れ様」
絶対、先輩の試験の方が難しかったはずである。医学部の医学科、それも二回生の試験である。…ウニ先輩は超絶に賢いということか。それか、ロウテリア星人という種そのものが、地球人よりもはるかに賢いということだろうか。実際、惑星ロウテリアの文明レベルは地球よりも数十段上にある(と話を聞いている)。
「ねえ先輩、やっぱりロウテリア人は地球人よりずっと賢いんですか?」
「いい質問やなあ。ちょっと長くなるけど、めちゃ納得する説明をしたるか」
「お願いします」
「よしゃ。で……結論から言うと、ロウテリア人と地球人の賢さに、差はない」
「え!そうなんですか!?」
「そ。…じゃあなんで文明レベルにこんな差があるのかって言うと、ただ単に年季が長いからってだけ。地球の人類史は、現時点で500万年ほど。ロウテリアの人類史は、620万年。やから、つまり、ロウテリアも人類史が500万年くらいのときは今の地球と同じくらいの文明やったってわけ」
「なるほど…?」
「地球の歴史的偉人で例えようか。16世紀より20世紀の方が文明のレベルはずっと高い。…でも、16世紀のガリレオと、20世紀のアインシュタインは、同じくらい賢い。…つまり、高い文明レベルの住人は、低い文明レベルの住人よりも賢いとは限らんってこと!」
「ああ、なるほど」
すっきりした。ロウテリアの方が高い文明である分だけ、知識量こそ多いが、つまり地頭はロウテリア人と地球人とで差はないということだ。
「ビッグマックのソースの調合レシピ、公開してくれへんかな〜」
それはつまり、ウニ先輩がロウテリア人の中でもかなり賢いということでもあった。
「先輩みたいな、地球にロウテリアの技術をそれとなく教える係の人って、それなりのエリートなんですか?」
「そう!」
えっへんと胸を張る。
ぱちぱちと拍手をしながら、「おー」と言う。
「あ、そうや。土日どっか行かん?」
「私はいいですけど…先輩は土日に予定ないんですか?友達多そうですけど」
「や…医学部は女子少ないから、友達はそんな多くないよ。滞りなく会話できる仲ってだけやな」
「彼氏は…」
「ごふっ、がふっ エホッ、カッ」
彼氏はいないらしい。そもそもロウテリア人と地球人の間に恋愛は成立するのか?生殖構造とかも違いそうだ。
って、考えてる場合じゃない。キムワイプみたいに硬い紙質のマックの紙で、先輩の吹き出したコーラを拭き取る。
「ごめんなさいごめんなさい。土日ですね、行きます、行きます」
「あ〜びっくりした」
「ほんとごめんなさい、デリカシーなかったですね」
「まあそれは普段から…」
「何です?」
「いや…」
というかウニ先輩は普段、どんな休日を過ごしているのだろう?
「どこ行きます?地球の遊園地とか、文明レベルが低くて楽しめないんじゃないですか?」
「いやそんなことないって。でもまあ、むしろ地球人こそ、地球の遊園地に飽きてる説はあるな…?」
「どういうことです?」
やばい、ぞくぞくする。
「分かってるくせに」
宇宙飛行士志望のスーパーミラクルエリートのみなさま、ほんとごめんなさい。
先に、宇宙に行ってきますね。異星の遊園地に、行ってきます。