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ガールミーツガール

 午後3時45分くらいにマクドナルドでハンバーガー食ってる人って、なんなんだろう。昼ごはんには遅すぎるし、晩ごはんには早すぎる。部活終わりの腹ペコティーンエイジャーというわけでもないと思うんだ。だって、実際にティーンエイジャーをこの時間帯のマックで見かけることはないし、そも午後3時4時に終わる部活なんてないし。

 って、毎週の水曜日には確定で考える。なぜなら水曜日は、大学の授業が三時限目で終わるため、午後3時過ぎに大学を出るのだ。その帰りに、駅に内包されてるマクドナルドの前を通り過ぎるのだけど、午後3時4時というのは、まあ人がいない。お持ち帰りを注文している人はちらほら見かけるが、店内で食べている人はレアだ。レアモンスターだ。いや、もしかしたらエイリアンかもしれない。体内時計の狂ったエイリアンは、午後3時45分に昼飯を食べるのかも。

「…は、」

ばかばかしい。だいたい、失礼だ。モンスターだとか。


 2ヶ月前、合格発表のサイトに自分の番号が載っていたときは、多少喜んだ。無事に女子高生ブランドを捨て、女子大生ブランドをゲットできたのだ。大学デビューというわけではないけど、その際に髪を切った。伸び放題になっていた髪がいい加減にうざかったってだけだ。ボブにした。小麦色の肌に短いボブ。さぞスポーティーな少女なのだろう、と勘違いされるかもしれないがそうではない。長髪がうざくてボブにしたし、小麦色の肌だって外で昼寝するのが好きだったからいつの間にか焼けた。そういうやつなのだ私は。

 自分の住んでるとこより一つ西にある都道府県で、一番頭のいい大学の、一番頭のよくない学部。両親とも学歴に詳しくないので、賢いことで有名な大学の、比較的入りやすい穴場の学部に入った。これが、どんぴしゃり。案の定 両親は大喜びで、私は家庭の中で覇権を手に入れたと言っても過言ではなかった。あのカスの弟も私に尊敬の念を抱いているに違いない。

「ぐわははは、父よ母よ、私はそんなたいそうなものではないよ」

実際たいそうなものではないのだが、両親は自分達が天才を産み育てた と狂喜乱舞した。お小遣いも月6000円になった。

 それが、どうだ。大した志もなく入学したために授業はくだらなく、優秀な周囲は自分と友人になってくれない。2週間くらい前にあった初めての学園祭は、ぼっちであった。ようは、大学つまらねー、と思い始めてきたのだ。

「ふあ…」


 今日は、水曜日であった。朝から90分の授業が3つ。二限目と三限目の間にぼっち飯90分。終わる頃には午後3時だ。これから2時間かけて家に帰る。

「大学最寄り駅が、徒歩20分ってのはどういうことだよ」

 最寄り駅の中には、マクドナルドが内包されている。今日もその前を通り過ぎる。

 …やっぱり、今日も、店内は誰も何も食べていない。店員がカウンターから、お持ち帰りを注文した人にハンバーガーを渡しているだけだ。

 これがたまにいるのだ、午後三時四十五分という微妙な時間帯に、昼飯だか晩飯だか分からんもんを食べてる客が、たまに。

「次の電車間に合うかな…」

 と右に曲がった首をなおしてまた前を向こうとする、その直前、“そいつ” が目に入る。赤色の髪の毛をしたそいつが。どうして気づかなかったんだろう。


 なんだ、あの人。

「マジか…」

 左腕にしていた腕時計に目を落とす。15:47。午後3時…47分!

「こんな時間帯に…」

は、

「ハ、」

まっ、

「マックでハンバーガー食べてる…」

 その赤髪の子は、店内のカウンター席でビッグマックを頬張っていた。コーラとポテトも端に置いてある。あのセットは千円超えるんじゃなかろうか。つーか、この時間帯に腹に入るか?

 見とれていると、目が合った気がした。さっと目を逸らす。……見とれている?なにに?あの綺麗な赤色の髪か?あの子の食べていたビッグマックか?

 ともかくこの場を去らなければならぬと感じ、身体を前へ倒す。身体を前へ倒すように、ぐっ、と一歩踏み出す。

「お゛っ…」

 間抜けな声とともに、私はころんでしまった。ずざ、という擬音が脳内にだけ響く。左の膝にでかい擦り傷ができる。熱した鉄の鉤爪を、じゅう、と押し付けられたような痛みが走る。

「っ、つ〜〜…」

 どばどばと血は流れ、地面に爆誕した血の川が、黄色い点字ブロックにまで届きそうになっている。誰かの白杖を汚してしまったら申し訳ない。


 ころんだ人間が一番最初にすることは、その場を去ることである。

 心理学的法則にしたがって、私もまたこの場を去ることとする。じくじくと痛む左脚に手を当てがい、立とうとする。すると、その瞬間、

「大丈夫か?」

 天から手が差し伸べられる。さっと見上げると、そこには赤髪のあの子がいた。利発そうな顔だ。色素を全部髪に移してるのか、と思うほどに肌の方は色白であった。

 ありがたく、その手を借りることとする。豆腐のような純白な肌は脆さが連想され、手を掴んだときに当然の弾力があったことにやや驚く。

「ん……」


 パンくず…バンズくず?(いや、ビッグマックくず?)が手にちょっと付く。まさかあの子が助けてくれるとは。礼を言おう。

「あ、あの…ありが

「すっごい転んだな。ちょっと待っといて」

 お礼を遮り、その子は鞄から何かを取り出した。絆創膏か?と思ったが、絆創膏ならやめてほしい。並大抵のサイズの絆創膏では、この左膝のでけえ傷を完封することはできず、むしろ粘着質な部分が傷と接触して更に痛くなってしまうだろう。

 が、その子の取り出したものは絆創膏ではなかった。それは包帯であった。

「ほ、ほうた

「そ、包帯や。動かんとって」

 なんで包帯なんか持ってるんだ?

いや、それよりも、

なんでそのナリで関西弁なんだ?

いや、それよりも、



なんで午後3時45分あたりにマックでハンバーガー食べてたんだ?






 人生で最も特別な日となる気がした。






 消毒された包帯でぐるぐる巻きにされた後、私はマクドナルドの店内へ連れてゆかれた。

「あの…ありがとうございます」

「ええって、大丈夫?」

「おかげさまで…」

「てか、大学生?こんな時間になにしてんの?」

「あ、はい。今年度から一回生です」

「あっ、うわ、もしかしてここ?」

するとサッと彼女は何かを取り出した。それは、私と同じ大学に通う者にだけ授けられる…学生証であった。

「…!一緒の大学です」

 学生証には、様々な情報が書いてある。まず真っ先に飛び込んだのは、『医学部』それから一行下に『医学科』と書いてある。うちの大学でも、ぶっちぎりで頭のいいやつだということだ。それから名前を知る。上の名前は普通のありきたりなもの (確か田中とか山田とか中村とかだったと思う) で、ありきたりすぎて逆に覚えられなかった。問題は下の名前だ。『ウニエルシタス』。それが目の前にいる赤色の髪の女の名前であった。

「うにえるしたす…?」

「そや。宇宙を連想させるええ名前やろ」

そうか?

「変わった名前でござあすね、げへへっ」とは言えるわけがないので、口を固く結び、変な言葉が飛び出さないように気をつける、きっとキラキラネームってやつなのだ、最近流行りの。

「まさかこんなところで、同じ大学の先輩に出会うとは…」

「私も、こんなとこで後輩に出会うとはビックリ。びっくりビッグマックや」

「………」

「……」



 そうだ、これもいい縁だ。もう聞いてしまえ。

「あの…」

「ん、なに?えーと…」

「あ、金持です。」

金持。それが私の名前だ。

「え…カネモ?変な名前やなあ」

「はい、将来お金持ちになれますようにって親が名前付けてくれました」

「変やなあ。でなにかな、カネモちゃん?」

そうだ。聞いてやる。つーか、ウニエルタシス先輩と出会ってまだ十数分なのに、聞きたいことが多すぎるのだ。


なぜ、


「なぜ…こんな時間にマックでハンバーガー食べてたんですか?」


それもビッグマック。

 謎だ。謎が膨らんで…頭がバンするどころかむしろクランチしそうなのだ(ビッグバン理論アンチギャグ)。

 はやく教えてくれ、先輩。なぜあなたはこんな時間帯にマックでハンバーガー食ってたのか。


 この客観的に見てくだらない質問に、げらげら笑われるか冷笑されるかどちからだと思っていたが、ウニエルシタス先輩の反応は意外なものであった。

「えっ…と、なんでそんなこと気になんの?もっとあるじゃんほら、なんで髪赤色なんやとか、なんで包帯持ってんねんとか、なんでそのナリで関西弁やねんとか、なんでそんな変な名前やねんとか」

…なんと、汗をたらたら流していたのだ。この感情は人がよく知るもの…焦りだ。もしや、犯罪的な経路を経て、この時間帯にマックでバーガー食べる事態に繋がっているのだろうか?であればこの質問に焦っているのも頷ける。

「教えてください」

白状してください、と同じニュアンスで言う。

 ウニエルシタス先輩は「ちい」とも「はあ」とも…舌打ちとも溜息とも取れる音を口から漏らしたあと、両手をへにゃへにゃと挙げて、降参だと言わんばかりに口を開く。

「ビッグマックを食ったせいで血糖値は爆上がり、眠気が邪魔をして頭は回らず、現状を打開する言い訳も思いつかん…。白状するわ…」

「…」




「あんな、私、宇宙人やねん。母国…いや母星?もな、地球と一緒で太陽は回っとるし、一日はほぼ24時間だけど。ただ違うのは、飯の時間が違うくてなあ。体内時計が違うてことやな。うちの星やと、太陽が南中を迎えてから4時間後くらいに腹減って昼飯食うねん。カネモちゃんら地球人は太陽がいっちゃん高く昇ってるくらいの時間に腹減るやろ?うちらはそれから4時間後くらいに腹減んねん」


「………は?」

なにをいっているんだ、ウニエルシタス先輩は。

「あ信じてないな?それもそーか。…これ機密事項やねんけどな。まあしゃーない、私が宇宙人やっちゅう証拠見せるついでに、口封じさせてもらおか」

状況が飲み込めない。

 宇宙人やっちゅう証拠を見せられるついでに、口封じされる…?

「え?」

私、殺される流れにいないか?宇宙人っぽい光線銃で存在ごと抹消される?

 さっ。宇宙人・ウニエルタシスが手をこちらへ向ける。私は「ひっ」と情けない声を上げ、両腕のクロスを額の上に作りガードの姿勢をとる。それをウニエルタシスは払い、親指で私の額をピトリと触る。

「にぷしん そうふあつあせうわいぴやう…えーと、わんいつえがせうしやんそうふあすうほう にいでせんせいどおぷていんどん」

「…?」

訳のわからんことをごちゃごちゃとつぶやいていた。

 へんな…呪文?ようなものを呟いているようであった。宇宙人語か?

「はい、終わりや。これが私が宇宙人やっちゅう証拠やな」

「…なんですか?」

 なにをされたのか分からない。これがどう、ウニエルシタスが宇宙人であるという証拠になるのだろうか。

 ウニエルタシスは言葉を続ける。

「カネモちゃん、ウニエルシタス先輩は宇宙人です、って私に小さい声で言ってみ」

「う、ウニ エルシタス先輩は 宇宙人、です…?」

「うん。次に、大きい声で叫んでみて。あそこのマクド店員、そこら通ってるサラリーマンらにも聞こえるように、とびきり大きい声で」

普通に嫌なんだけど…。

 仕方ない。とにかく叫んでみるか。ここに敵性宇宙人がいるぞって我が同胞・地球人のみんなにバラしてやる。

「(ウニエルシタス先輩はぁっ 宇宙人でえーーっす!!!)」

「うるさっ」

「……え?」

 くそでかい声で叫んだつもりだったのだが、ウニエルシタスしか反応を示さなかった。あそこのマック店員もそこらのサラリーマンたちも、誰も何もなかったかのようだ。まるで私が、なにも叫んでいなかったかのようではないか。

 ウニエルシタス…先輩、だけが、私を見ながらニタニタ笑っていた。


「もし、私のことを宇宙人や って他人にバラそうとしたら、声出されへんようにした。そういうときの発言は私にしか聞こえへん。…ていうのを私とカネモちゃんの間に特別な約束として結んだ」

「…」

「私の母星の住人に特有の能力や。コミュニケーションの方法の一つで、この方法によるコミュニケーションでは約束の効力が非常に強力になる。地球人にはできん芸当やろ?」

…私は、今日、宇宙人に出会った。午後4時直前のマクドナルドで。




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