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知らない2人と識る二人  作者: 甘井ようかん
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1年生 ー仮入部ー

遠坂と話したあの晩以降、特にこれといった言葉を本人と交わすことも無く、2週間が過ぎようとしていた。最後の言葉が少し気になったが、まあ気のせいだろうとすぐに気にするのを辞めた。

入学から2週間、学内が少し賑やかになるイベントが起きた。部活勧誘である。運動部、文化部共に新入生に声をかけ、部員集めに勤しんでいる。 俺も例外ではなく、様々な部活から声をかけられていた。しかし、あまり興味が無い俺はどこの部活にも入る気はなく、帰り支度を済ませ帰宅しようとしていた。

ふと壁に目をやると、「読書研究会」の貼り紙が貼られていることに気がついた。

「どうせ家にある本はあらかた読み尽くしてしまっているし、どうせならお金かけずに合法的に本を漁る機会があってもいいかもな…。」

「読書研究会、入るつもりですか?」

ブツブツと呟いていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには担任が立っていた。

彼の名前は菊岡(きくおか) 翔吾(しょうご)。見た目はどう考えても20代前半ほどなのに、実年齢30歳というギャップのある先生だ。

「まあ読書好きですし、せっかくならお金かけずに、合法的にたくさんの話に触れ合いたいので。」

「なるほど、確かに君はいつも本を読んでいますし、とても話と真摯に向き合っていることが見受けられるので良いと思います。」

まだ出会って2週間くらいしか経っていないのに、よくそこまで見ているな、と少し感心していると

「良ければ仮入部届け、受け取りましょうか?」

「ん、これって担任に渡すものなんですか?」

「いや、僕は読書研究会の顧問代理なので。始業式の時にお話しましたよ?」

「そ、そうだったんですか…」

しまった。これでは話を聞いていないと自白しているようなものだ。しかも担任なので、普通に申し訳ない。

「そうなんですよ。まあ僕も教師そこそこやってるので、始業式の担任紹介なんて、あまり学生が気にしてないのも理解していますけどね。」

菊岡先生は、そう言って少し苦笑した。

「じゃあ仮入部届を取ってくるので、ちょっとだけ待っててくれますか?」

「先生が持ってるわけじゃないんですね。」

「いや、実は去年部員が卒業してしまって。今は、存在しているだけの幽霊部活なんです。だから、正直仮入部だけでもしてくれそうな学生がいて、少し嬉しい気持ちです。」

先生は、そう言ってまた少し笑った。読書研究会に、思い入れがあるのだろう。

「ここで待ってればいいですか?」

「はい、すぐ取ってきますね。」

そう言って、職員室に紙を取りに行った。


「じゃあ神崎くん、これが仮入部届です。」

そういうと先生は、1枚の紙を手渡してきた。

「ありがとうございます。」

「渡すのはいつでも構わないので、書き終えたら渡してください。もし面倒なら、僕が一応仮入部を認知しているので、渡さなくても大丈夫ですよ。」

「いや、今度はちゃんと聞いたので渡します…。」

そう言うと、先生はまた少しだけ笑い、会議があるからと言って職員室に戻って行った。先生の言い方的に、多分今日はこのまま行っても構わないのだろうと考え、図書室へと向かった。ここの図書室は少し変わっていて、部員証明がないと30分以上滞在しては行けない、というルールがある。それとは別で、図書室の奥に部員専用の部屋もあるという、なんとも不思議な学校だ。なぜ部員が集まらないのか。

そうこうしているうちに、図書室へと着いた。まあ仮入部と言っても今日は本を読みに来ただけなので、特に何も考えないまま、図書室へと足を踏み入れた。

図書室の中には誰もいない。入学して2週間、みんな部活を探しているので、それもまあそうだろうと思い、本を探すことにした。まずは読んだこと無さそうなミステリーの本を探していると、隣に人が立っていることに気がつき軽く会釈をすると、

「こんにちは、神崎くん。」

聞いたことのある声が聞こえた。


声の主は遠坂だった。

「こんにちは、遠坂さん。」

「今日は図書室にいるんですね、人が図書室に来ているの久しぶりに見ました。」

「そうなんだ。部活ってかまあ仮入部で、読書研究会の。」

と、特に聞かれてもいないことを話してしまった。すると、

「読書研究会?なんですか、それ?」

と、遠坂にしては少し珍しい、驚いたような反応を見せた。

「あー、なんか図書室を自由に好きなだけ使っていい権利と、図書室奥の小部屋を使えるっていう部活かな。」

我ながら雑な説明をしたものだ。だが、要点は伝えているし、質問の答えにはなっているだろう。

「そんな便利な部活が…。仮入部と言ってましたよね。どこに行けば貰えますか?」

「担任の菊岡先生が顧問代理らしくて、張り紙見てたら教えてくれたんだ。会議が終わる頃に、職員室に行ってみるといいんじゃないかな。」

「わかりました。ありがとうございます!」

なるほど。確かにこれは、見た目がいいと感謝されるだけでも悪くないな、なんてこと考えていると、

「部員は何人いるんでしょうかね…。いや、図書室を時間制限無しは魅力的…。」

遠坂の独り言が聞こえた。教室で見た印象や公園で話した印象と随分違っていて、勝手な印象を持ってしまっていたことを少し反省する。

「部員はいないらしいよ。去年卒業した人が最後の部員だったみたい。」

「そうなんですね、じゃあ今のところは2人だけってことですね。」

もう入る気でいる、そして俺も頭数に入っていた。まあ元々入るつもりだったし、別にどうということは無いのだが。

「もうそろそろ会議も終わるし、職員室に行ってきたら?」

「そうですね、行ってきます。これからよろしくお願いしますね。」

律儀に挨拶をして、部屋を出ていった。扉を少し見つめて、探した本を読み始めた。本の内容とは別に、少しだけわくわくしていることに驚きながら。


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