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S県県警/異常存在特別捜査課  作者: 静謐の楽団
3/3

第三話 新しい朝が来た その3

「第二班、所定位置に着きました。」

「第三班、同じく。」

「第四班、セット完了。」

「第一班、了解。 第三係、配備完了。いつでも行けます。」



「第一係了解。

さて………行きますか。」


ポケットからピッキングの道具を取り出し、器用にドアの鍵をあける。

流石盗人、手先が器用だ。



「第一係、任務開始。」



僅かにドアを開け、中を覗く。

窓からはコードの類が見つからなかったため、監視カメラなどは無いと思うが、念のため確認する。ちなみにブービートラップが無い事は鍵を開けるときに確認済だ。(ある場合はこちらの行動が筒抜けと言う事になるのだが…)



「ヒカリちゃん、スキャンよろしく。」



小型の波形中継器をセットする。

人間及び異形にも感知できない特定の音波を反響させることで、コウモリの要領で建物の内部構造を把握する。


なお基本的に捜索係による下調べが済んだ状態であり、今回の場合は構造を既に取り寄せて、ある程度のルートや怪しい箇所をマークしている。

その為鎮圧係の使用する波形中継器は主に爆発物や電磁波、AGRの測定用である。



『データ来ました。以下ラップタイムを15秒に設定。

周囲にAGR異常域、及び危険物反応無し。以降確認次第報告します。』


「了解。ルートAで探索。」



そのまま予定通りのルートを通り、探索を進める。

張り詰めた空気の中、静かな廃工場に二人の足音だけが響いていた。


廃工場とはいえ数年前までは稼働していた為、設備や部屋等は意外と綺麗なままだった。特に生産プラントは機材さえ持ち込めばすぐにでも稼働が開始できるくらいには劣化が少ない。

るるかの親と同じで、「大厄災」の影響で倒産した例だろう。



1階の探索を終え、2階への階段を昇ろうとしていた時だった。




「(…………すゞ、気付いているか?)」


「(ああ、ざっと15mって所か。)」




背後からの気配。「お客様」かそれとも栽培員か。

兎に角後ろを付けられている。

潜入時は特捜課と気付かれないよう制服をカモフラージュしている(俺はそもそも元から運動着だが)ため、サツだと断定できないから様子見と言った所か。


素人か、若しくはプラントあたりのブツがあるな。そうでないなら部外者が入っているのを確認次第殺すか逃げるかのどちらかを取るはずだ。中途半端に追いかける必要はない。捕えようと敢えて近づくと言う事は、すぐに撤退の準備ができないと言う事なのだ。



「(真っ直ぐついてきている。振り返るなよ。あと10m。)」



野生の勘というか、第六感というか。俺は生まれつき周囲の気配に敏感だ。集中すればスクランブルを移動距離も含めて正確に把握することすら出来る。

現段階では気配だけだが、訓練次第では感情もある程度感知することも出来るようになるらしい。


とはいえ気配を消せる「本物」が相手では、流石に厳しいが。



階段を上がり、2階を探索する。サツだと気付かれないよう、AGRの変化が無い部屋は出来るだけ開けないようにする。後処理は第三係と鑑識係に任せよう。



「(あと5m)」



自然な足取りで速度を緩める。

足音はするが隠れてはいない。それっぽい位置にはいるが、ケアしきれない箇所で真っ直ぐ進んでいる。

恐らくカメレオン型の異形。それも素人だ。(本物のカメレオンは体温調節や感情表現、威嚇の為に色を変えるのであって、擬態の為ではないが、こちらは専ら仕事の為に色変わりするのが殆どだ。大抵は伝達か暗殺だが。)

警備…いや、そんな大層なモノでは無い。下っ端の見回りってところか。


「(3m…………2m。入った)」

「(了解。)」





俺が振り向き、るるかが消える。



『(!!!!!!?????)』



予想外の出来事が同時に起こり、一瞬たじろぐ爬虫類人間。

その一瞬の内にるるかが異形の背後を取り、スタンロッドを振り回して脊椎にあてる。

そして擬態が解けた所をすかさず頭部にデコピンを叩きこみ、脳震盪を起こした。


いくら筋骨隆々であろうと、脊髄と脳部にダイレクトな衝撃を受けると堪らず失神してしまう。例え異形であっても、人間と同じ形状になってしまった以上、それに伴う弱点も発生する。とはいえ、イカ型等の威力を受け流せるタイプのように、それを体質でもって克服する個体も存在している。


異形用の強化ロープで軽く縛り、そこら辺に落ちていた麻袋を窒息しない程度に被せて空き部屋に放置する。




「(こうしてまじまじと実物を見ても、やはり「亜人」と呼ぶには人から離れすぎてるから「異形」と呼ぶしかないんだよな。

モンスター娘みたいな人をベースとした人外ってわけじゃなく、その逆。例えるならケモナ―御用達の獣人みたいな、他の動物をベースとして人に近づけたって感じ。だから各種内臓器官や生殖器も人のそれとは違う…… まぁ、頭部構造はだいたい同じだからこれ(デコピン)は効くんだけどな。)」


「ほら、置いてくよ。」


「ああ悪い。うちの近くにはあんまりいないから、つい珍しくて。」





*



3階の探索も終えたが、これと言ったものは見つからなかった。

残る倉庫へ向かうべく1階まで降り終えた時、複数人の足音が聞こえてくる。


『AGR値上昇。戦闘型異形が3体そちらに向かってます。』



「異形が3体か。……飛びぬけて強い奴もいない、全員並の戦闘型だな。

どうする?」


「2体を無力化、場合によっては殺そうか。」


「了解ィ。」



意識を集中し、正確な位置を把握。ちなみに後始末は上のお偉いさん方がちゃんとやってくれるらしいので、俺達下っ端は特に気にせずブッ殺していいとのことだ。

(この課は最前線に出る以上応募者数も相当低く、かつその中から体力・知力テスト(+爆発物や銃器に関する取り扱いの資格の入手も含まれる)に通らなければならない為、どんな人材でも欲している。そうでなければこんなコソ泥の殺人鬼が就職出来るワケが無い)


警戒はしているが、ただ空気を張り詰めているだけだ。臨機応変さが足りない。こういう張り詰めた空気は少しのきっかけですぐパニックとして破裂する。




「ヒカリちゃんよろしくゥ。

真ん中から打ち砕く!!!! 猪突猛進だゼェ!!!!」



ガントレットを嵌めて、どこぞの猪の皮を被った美少年みたいにバカみたいな突進をする。

勿論、これでは3人が同時にこちらに気が付く。流石の俺でも異形相手に1対3は厳しいが、地の利を活かせばその限りでは無い。





ピーッ!!!!!というけたたましい音が鳴り響く。

設置していた中継器がAGR値の異常を感知しブザーを鳴らしたのだ。本来ならば侵入している事を気付かれないよう切っておくのだが、ヒカリに頼んで一時的に付けてもらった。



それも、丁度真横を通り過ぎる時点で。




緊張、焦り、苛立ち。

ピンと張った糸のように、些細なアクシデントから警戒は一気にパニックへ変わる。


全員が横に意識を向けた瞬間に、後先を考えない驚異的な跳躍力で一気に距離を詰めた。こちらにようやく気付いたようだがもう遅い。先頭の一人の顔面に、防御を棄てた代わりに全てのベクトルが集中した一撃が、ガントレットを通してぶちかまされる。圧倒的なまでの破壊力に、高い衝撃吸収能力を持つはずの外皮が砕け散った。

異形だからこそまだギリギリで生きてはいるが、人間であれば確実に頭部が破裂していただろう。



敵はパイソン型、レオ型、マンティス型だ。今撃破したのはマンティス型であり、この中では外皮をぶち抜けば済むので一番カタが付きやすい。


振り降ろされるレオ型の爪をパリィし顔面へカウンター、それと同時に攻撃を仕掛けようとしたパイソン型の顎を、後ろから隠れていたるるかが飛び出て斬り上げる。



これで一体ずつ集中して対処できる。



*


戦闘型の中でも、タフネスと攻撃性を兼ね備えているのがレオ型だ。

名前の通りライオン人間のような見た目をしているが、その身体能力も見た目通りであり、軽く数トンのパンチを繰り出す他、時速60kmで走り、さらには7mm口径の銃弾に何発かは耐え得る表皮など、攻守共に非常に優れたスペックを持つ。


しかしその余りある腕力は、却って精密動作を鈍くしている。ジョジョに出てくるようなパワー・スピード・精密動作性が共に高いと言うものは、スゴ味でなければ相当な経験と訓練が無ければ早々出来る事では無い。

増してやただ力を持て余すだけのチンピラなど。



「っおらァ!!!!」

「ガッ………!!!!! て、てっめぇ!!!! ブッ殺してやる!!!!!!!」

「遅ェんだよこのスカタンがッ!!!!!!!!!」



拳のライン、力の入り方・流し方、体軸の動きなど、接近戦に置いて必要不可欠な動作は素人とプロでは違いが一目瞭然のように、その見た目とは裏腹に非常に繊細な動作が要求される。

つまり、当然大雑把な動作しかできなければ、動作の一つ一つに無駄な動きが混ざってくるのだ。俺はそこを突けばいい。楽な作業だ。


右腕で殴ろうと振りかぶれば、腕を下から叩きコースを逸らす。自分の腕力に引っ張られるようにして無防備になった顎にアッパーを繰り出す。

よろめきながら後ずさり、今度は蹴りを出そうとするが、壁伝いに三角跳びをして、空中で錐揉みしながら回し蹴りを頭部にかます。


殴りがいのあるサンドバッグは久々で、かなり気分が良い。




「あだぁっ!!!?


……ちょろちょろと逃げ回りやがってクソがッ!!!!!

うぜぇんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



こちらのカウンターに業を煮やしたのか、その巨体を活かした突進をかましてくる。これを躱すのは流石に他の連中にバレそうだ。真っ正面から潰すしかない。




―――――――



「(…………スゥーー…………)」



目が変わる。

それまでの遊びを楽しむ子供のような目から、一切の光が消えた。ただ単に対象を破壊する事のみに特化した、慈悲亡き機械の目。




「不破式格闘術、第二刑。『転吹』」



一言でまとめると、それは手を回転させる正拳突きである。

一度右足を大きく引き、重心を後ろに下げた後、脚、腰、肩、腕、全ての力を集約し、かつ重心を前に預けると同時に手を回転させることで更に加速、地上において人間の肉体が出せる理論上の最高打点を叩きだす。


常人でさえ100点の動きをこなせば、並の異形さえ倒すことが出来るこの一撃に、更に戦闘型異形にさえ引けを取らない鳫弥の肉体が合わさることで、その拳は対物ライフルに等しい威力を誇った。



真っ正面から突進してくる異形の頭部に命中する。

いくら頑丈な身体を持つレオ型でさえこの威力には耐えきれず、頭蓋骨が粉砕され、顔が変形しあちこちから出血が起こる。


これでも体を伝って地面にいくらかエネルギーが抜けている。空中でまともに当たってしまったら顔が弾け飛んでしまっただろう。




施設を揺らさないよう力を加減するのは大変だったが、それでも苦戦することなくレオ型を撃破した。




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