居酒屋吉五郎小景
クリニック増殖
「お富、駅前に診療所ができるぜ」
「またかい。こう矢継ぎ早に病院建ててどうしよってんだろうね」
「どこも患者であふれけえってるぜ」
「そういや『贋酒場』の跡地も皮膚科医院になったっていうよ」
「マッチポンプで儲けようってんだろう。うちもあやかって屋号変えるか。『惑珍亭』てのはどうでい。繁盛するぜ」
「やめとくれ。祟られるよ」
マスクの下1
「吉ツあん、もう一杯」
「ほいよ」
「ところで吉ツあん」
「なんでがす?」
「マスクしてると口裂け女なるの知ってる?」
「またまたご冗談を」
「だから外すとヤバいんだよ」
「そんなバカな。へい、らっしゃい」
「一人なんだけど」
「へいどうぞ。あ、うちはマスク禁止なんで」
「え。どうしよう・・・しかたない。外すわ。ほい」
「わ」
マスクの下2
「ところで吉ツあん、マスクの下で何が起こってるか知ってるかい」
「え。鼻と口がどうかするんで?」
「時々上下が入れ替わってるらしいんだな、これが」
「またまたご冗談を」
「いやあくまで噂だからさ」
「そんな福笑いみてえな。へ、らっしゃい。あ、うちはマスク禁止なんで」
「そうかい。じゃ外そうか。ほい」
「わ。ははは」
マスクの下3
「吉ツあん、いまマスクの下で奇妙な現象が進行中だって知ってる?」
「え。またその話ですかい?」
「鼻も口も急速に退化しちまってるそうなんだ」
「秘部扱いの日陰モンですからねえ」
「いまや、のっぺらぼうなんだと。小せえ穴三つだけでさ」
「え、まさか。あ、らっしゃい。うちはマスク禁止なんで」
「(ボソボソ。ボソ・・・ほい)」
「うわぁ」