4なんだかんだ、元気です
――パッパラッパパッパパラー、パッパラッパッパッパラ~
防衛高の朝は早い。起床のラッパと共に全員が六時には起きねばならない。
どんなに朝が苦手な奴でも、三日と経つ頃にはラッパが鳴る前に起きる体になってしまっていた。少しでも遅れれば、地獄の空気イスや腕立てが待ち構えているのだから。
そんな状況では安心して熟睡も出来ない。だが人間は意外と図太く出来ているもので、最初の一週間が終わる頃にはグッスリと眠れるようになっていた。安心ではなく、極度の疲労からである。それでも起床ラッパで飛び起き、与えられた五分という時間で身支度を済ませる。ラッパの音で一日が始まるのだ。
一学年の朝は忙しい。
午前六時、起床。そして六時五分、部屋の外へ。それから寮の掃除をしなければならないのだ。上級生部屋の廊下や共同トイレはもちろんのこと、当番制で東の教室棟の掃除もある。掃除機などという文明の利器はない。雑巾一枚で全ての床を磨き上げる必要がある。
一学年の生徒が掃除をしている間、上級生は朝食を食べる。上級生になったばかりの二学年は、ついこの間まで自分たちがそうだったように、汗水たらして働く一年を感慨深そうに眺めている。
ちくしょう。俺も二年になったら、モーニングコーヒー片手に優雅な朝を送ってやるぅ!
ようやく掃除を終えた一年が朝食にありつけるのは、七時直前である。しかし七時からは外庭で国旗の掲揚があるので急がなければならない。固形物は汁物と一緒に流し込み、よく噛まずに飲み込む。消化に良いようにか、あまりゴロゴロとした具材はない。どんな野菜も肉も、細切れにしてあるのだ。有り難いような、そうでもないような……。
国旗掲揚時には、全員整列して直立不動の体勢で臨む。吹奏楽部の一部の生徒たちが君が代を演奏し、それに合わせてゆっくりと国旗が昇っていく。曲調が遅いからと言って、うつらうつらと舟をこいでる奴は、皆まとめて仲良く腕立て伏せだ。
その後は続いて朝の点呼が始まる。点呼は朝と夕の二回行われ、ここにいないと塀越え(脱走の事)と見なされる。本当に脱走したかどうかにかかわらず、一度でも塀越えと見なされると、『脱走兵』という大変不名誉な称号を得ることが出来る。厳しいことで有名なあの先輩やこの先輩もその称号を持っていることが多く、一年としてはなんともリアクションのしづらい事である。ちなみに脱走兵の称号を五回以上獲得すると、脱獄王という称号に変化し、むしろ逆に尊敬を集めるようになるらしい。
その後もなんだかんだあって八時半に授業が開始し、教室を転々としながら十二時半に昼食休憩。午前中に座学で、午後に実習系の科目が多い傾向がある。もし逆だったら座学の授業は全員寝てしまうだろう。
今日の誠の授業は、午前に数学ⅠA、英語基礎、歴史概論、総合ドイツ語である。普通の高校生が行う授業も、もちろんある。そして恐ろしいことに赤点も存在する。テストは学期末に一回だけなので、皆それに向けて必死だ。
そして午後、ようやく能力者らしい授業があるのかと言うと、全くそんなことは無い。入学してから今まで、思う存分能力を行使したのは新入生歓迎会の時だけである。
なら何をしているのかと言うと、ひたすらに集団行動だ。バラバラの状態からの素早い整列、行進、駆け足、分隊への移行。これをひたすら反復する。頭がおかしくなりそうだ。
午後五時。よやく全ての授業が終わり、上級生は部活動や同好活動にいそしむ。仮入部もまだ始まっていないので、この時間一年は何をするかと言うと、何もすることがない。―――嘘だ、何もしないわけにはいかない。防衛高において、『休み時間』という概念は存在しないのだ。授業と授業の間の時間、授業が終わってから就寝するまでの時間は『自習時間』であり、各々勉学や鍛錬にあてる時間となる。もう発狂しそうだ。
しばらくして国旗降下、そして入浴。これに関しても時間はシビアで、割り当てられた時間を逃すと風呂に入れない。もしそうなってしまった場合、運動場の横にあるホースで、真っ裸の行水をすることになる。ほぼ滝修行といってもいい。ちなみに女子はどうなるかと言うと、そもそも人数が少ないので、割り当ての時間も男子に比べて長いのだ。風呂の時間を逃すことはほぼ無い。先輩たちの話によると『ほぼ』ない…………。おっと、いかんいかん。
夕食は、心が休まる数少ない時間だ。学生同士で談笑しつつ、味の濃い食事を嚙みしめる。白飯はお代わり自由で、お腹いっぱいになりたかったら白飯をたらふく食うしかない。防衛高に入って変わったことは何かと聞かれたら、白米の甘みが分るようになったと答えると思う。
寮の一階には洗濯スペースがあり、そこはコインランドリーのようになっている。夕食の後は列に並び、汗と土ぼこりにまみれた運動着と下着を洗濯する。たまに女子の下着が無くなる事件が起こるらしいが、そうなると疑わしき者全員の部屋に捜索が入るので、面倒を避けたい男子同士での相互監視が出来上がっている。本当に極まれだが、男子の下着も無くなるらしい。男子の下着を盗むのって、女子だよね? そうだよね?
そうして全ての日課が終わると、再び自習時間がやって来る。十時の消灯まで自習室が使えるので、熱心な生徒はそこで勉強をしている。
自習時間と言っても、過ごし方は自由だ。勉強してもいいし、友達と談笑してもいい。多分一番多いのは、早めに寝ている人だろう。
そんな中、一部の生徒たちは暗い夜に寮の外へ出て、中央棟の端にある広場へと向かう。防衛高の厳しい日常に耐えかね、塀越えの計画――――ではない。
チリリリリン…… チリリリリン……
そこでは自習時間になると、呼び出し音が鳴り止むことがない。設置された五台の公衆電話ボックスの前に学生たちが列をつくっている。その列もまた、消灯時間寸前まで無くならない。
学生は、外部と通信可能な機器を校内に持ち込んではいけないことになっている。スマホや携帯など論外だ。だからこうして、学校の中に公衆電話が設置されているのだ。
「…………うん、じゃあまた一週間後に。じゃあね」
誠の前に並んでいた先輩の電話が終わり、ようやく順番が回ってきた。
透明のガラスに囲まれた四角い電話ボックスの中に入り、受話器を片手に数字のボタンを押していく。
『チリリリリン…… チリリリリン…… チリリ、ガチャリ』
「もしもし? 誠だよ」
『ああ誠! 元気にしてる!?』
一週間ぶりに聞く、母の声だった。もうすぐ九時になるというのに、電話に出るのがとても速かった。受話器の向こう側でずっと待っていたのだろうか。
防衛高の入学式には保護者の参列が許可されていない。そのため、母と最後に会ったのは入学式へ行く前、家を出た時だった。
『……なんでだろう。まだ一週間なのに、とても長く感じるの』
「大丈夫だよ母さん。俺のいない生活にも、その内慣れるって」
『先輩方とは上手くやってる?』
「……まぁまぁかな。先輩は厳しい人ばかりだけど」
新入生歓迎会で先輩たちと殴り合った事、その後に皆で肩を組んで歌を歌った事、質問攻めになりながら食べた夕食。話したいことは沢山あるが、防衛高内で起きた事を外部に漏らすのは規則で禁じられている。ちょっとくらいならいいじゃないかと思うかも知れないが、そう思う奴は機密情報でも簡単に漏らす様になる。
母もそれを知っていて、あまり深くは聞いてこなかった。
『それで、もう友達は出来た?』
母の声は少し震えていた。普段通りの発声を心掛けているのだろうが、心配が隠しきれていない。隠していることを悟らせないようにするための心遣いが、余計に心に刺さる。
「大丈夫。うるさい奴とクラスが一緒でさ、そいつとは寮も同じなんだ」
受話器の向こうで、ほっと息をつく音が聞こえた。
――友達は出来たよ。だから、もう気に病むことなんて無いんだよ、母さん……。
そう伝えようとしたが何となく躊躇われて、言葉が喉の奥へ引っ込んでしまった。
「和人は元気にしてる?」
『うん。あの子ももうすぐ14歳だからね。……昔の事を気にしてるなら、心配しなくて大丈夫よ』
――心配しないで。
本来なら自分が母に掛けるべき言葉だ。だというのに、逆に気を使われている。
「父さんは?」
『お父さんも超元気。誠がいなくなって寂しがってるけど、皆元気でやってるよ。まだ仕事から帰ってきていないけど……そっちの時間の都合もあるだろうから、無理しないで』
たわいもない話が出来る時間が貴重に思えて、誠たちは五分間ずっと話し続けた。大体は母が和人と父の最近の出来事を語って、誠はそれを聞いているだけだったが、それでも防衛高の日常とは違う時間を味わうことが出来た。
公衆電話を使える時間は一回五分と定められている。誠は受話器を置いて、蒸し暑い空気のこもった電話ボックスを出た。電話待ちの列はまだ続いていて、当分終わりそうにない。
日はすっかり落ちて、闇の中に虫の鳴き声が響いていた。
「櫻野学生、ここにいたか」
青嵐寮に戻った誠を待ち構えていたのは、胸に緑のバッチを付けた二学年の先輩だった。体格のいい先輩が多い中、この人は比較的小柄に見える。しかし、シャツに隠しきれない太い首から、尋常ではない鍛錬を感じさせる。たぶん着痩せするタイプなのだろう。
「島村先輩……お疲れ様です!」
何を隠そう、島村先輩は最初に誠に目を付けて襲い掛かってきたあの人である。彼の頭突きを喰らった顎は、未だに少し痛む。
「明日の0900に寮の前へ来れるか?」
誤解を防ぐために、自衛隊では時刻の読み方を24時間制に統一しているらしい。防衛軍でも正確さを担保するため、時刻はこのように発音する。
まだ入学して日も浅い誠は、一旦考える時間が無ければよくわからない。
「……午前九時ですか? はい、大丈夫だと思います」
それだけ確認すると、島村先輩は二学年の階へ戻ってしまった。
「明日って……土曜日だよな?」
そう。今日でちょうど始まりの一週間が終わった所で、明日は土曜日である。
――あ、そうか。明日は、ようやく外出許可が下りる日だ。
たった一週間だが、とても長い一週間だった。そして時間や場所に制限はあるものの、土日の外出は許可されている。ようやく娑婆に出られるのだ。そんな記念すべき日だというのに、先輩からさっそく呼び出しを喰らってしまった。怒らせるようなことはしていないはずだが、一体……?
翌朝。
起床ラッパへの恐怖からか、誠は六時きっかりに目を覚ました。ラッパが鳴らないことに胸をなで下ろしつつ、ゆっくりと着替えた。いつもは着替え時間が五分ほどしかないので、素早く脱ぎ着できるよう事前にベッドの下に服を置いておくが、今日はそんな心配は必要ない。制服の袖に腕を通し、紅の学生バッチを付ける。一応、学生帽も持っていくか。
一人で早めに朝食を済ませ、すれ違う先輩たちに挨拶しつつ中央棟へ向かった。ここには文房具や小物を置いている売店がある。一度来てみたいと思っていたが、なかなか時間を作れなかったのだ。
小物と言っても、別におしゃれな雑貨屋ではない。制服の替え用のボタンや、各サイズのシャツ、女子学生の為かヘアゴムや髪留めも置いているが、基本的に地味な物ばかりだ。それに、防衛高では女子も男子も、乾かすのに時間を取られるだけなので髪を伸ばす者はいない。無能力者で組織される自衛隊にも学校があるが、そちらは坊主頭が基本らしい。そう考えると、防衛高はまだ寛大なのだろうか。
「あれ、三方ヶ原さん……?」
「――おはよう、櫻野くん」
売店を出ると、三方ヶ原みゆきが一人で歩いていて、思わず声が出てしまった。
「……一人でどうしたの?」
「お、櫻野くんこそ、何か買ってたの?」
「いや、別に見てただけで」
「そうなんだ」
「うん」
「……ふーん」
「…………」
ちくしょう。これだから女子との会話はキライなんだ。
「三方ヶ原さんは、その靴持ってどこへ行くところなの」
「え、えっと。これは何でもないよ」
「……そうなんだ」
「そ、そうなの」
「…………」
会話が弾まない。こんな時こそ、万の様なコミュニケーションスキルが欲しい。
話題が無いので仕方なく、誠は昨日先輩に呼び出されたことを話した。彼女はずっと聞いているだけだったので、本当に会話が成立しているのかよく分からなかった。
「……そんなに心配することじゃないと思うけどな。寮の前って言われたんでしょ、人が多いところで喧嘩は無いと思うけど……」
「俺も喧嘩だとは思ってないけど。でもちょっと怖いんだよな、初日に殴り合った先輩だから」
ニコニコの笑顔で頭突きをかましてきた島村先輩を思い出し、誠は無意識に顎をさすった。
「そういえば、白樺寮でも『新入生歓迎会』ってやったの?」
「ああ~。一応あったけど、私はバッチ取れなかったよ。誠くんと万くんは沢山取ったんでしょ? 凄いなぁ」
謙遜するのも悪いかと思って、照れを笑ってごまかした。
――ん? 取れなかった? それはつまり、取られなかったという事か? 反撃する余裕があったのだろうか。
青嵐寮でも上級生に反抗できたのは数人だけだった。みゆきは笑い話として流したが、彼女も先輩相手に戦ったのだろうか。
そういえばこの一週間、同級生が能力を使う場面をあまり見ていない。午後の授業はずっと行進や整列などの集団行動を練習していたし、能力者らしいことはまだ何一つやっていないのだ。
一瞬、みゆきが悪い笑みを浮かべながら屈強な男たちを蹂躙する絵図が浮かんだが、すぐに考えるのを止めた。
「そろそろ、私行くね」
「あ、ごめんね引き留めちゃって」
静かに遠ざかっていくみゆきの後ろ姿を見ながら、ちゃんと会話出来ていたか気になる誠だった。一応彼の名誉の為に言っておくと、誠はまだ15歳になったばかりの男の子なのだ。
西門近くにあるコンビニや食料品店も見て回りたかったが、気が付けば約束の時間が迫っていた。
青嵐寮近くの植え込みからそっと頭を出すと、島村先輩と万と、その他大勢の先輩と同級生たちがいた。険悪なムードは無い。上級生たちはむしろ、私服姿で楽しそうだ。一体どういうことだ?
「おい、先輩を待たせるとはいい度胸だな。櫻野学生」
九時まであと三分あるが、誠は先輩相手に言い返す度胸を持ち合わせていない。それに、誠が最後の一人だったようだ。既に十人ほどが集まっている。
「さて、では行くか!」
坊主頭の寮長、権田恒興がそう言うと、待ってましたとばかりに上級生から歓声が上がる。
「どこに行くんだ?」
「誠、お前まだ聞いてなかったのか。外だよ外」
こっそりと万に聞いてみると、どうやらこれは青嵐寮の上級生が企画したイベントらしい。思っていた以上に健闘した一年を称え、お昼を御馳走してくれるそうだ。
「ちなみに、櫻野学生の奢り担当は俺だ」
そういって島村先輩が顔を出す。
「例年なら、一人ひとり気に入った新入生に声かけて、そいつに一食分奢るっていう青嵐寮の伝統があるんだが、今年は折角だし一緒に行こうって事になってな。もちろん言い出しっぺは寮長先輩」
島村先輩が指さしたのは、大勢に囲まれて騒いでいる権田先輩だった。新入生歓迎会では一年を投げ飛ばして回っていた柔道部の部長で、青嵐の寮長でもある。人望の厚い人で、彼の周りにはいつも誰かがいる。
上級生になると休日の外出時に限って私服を着る事が許されているが、権田先輩は制服だった。学生帽を目深にかぶり、振り返って言った。
「番号!」
悪ふざけに乗った上級生たちが番号を叫び出して整列した。まだノリきれない一年もその横に整列した。
「全員装備は持ったか?」
「おう!」
「では出発! 目的地は駅前の商店街だ、地元に期待の一年をお披露目せねばな!」
先輩たちは各々財布を掲げ、颯爽と歩き出した。歩幅が合っていない一年に対して、上級生たちはぴったりとそろっている。もし無意識にやっているとすれば凄いことだ。訓練の賜物だろう。
青嵐の寮歌にもあるように、関東防衛軍高等学校は三浦半島の付け根、横浜に門を構えている。鎌倉と横須賀のちょうど真ん中あたりで、少し歩けば海も見える。第三次世界大戦の中期まで横須賀に基地があったことからも分かるように、東京湾入り口の守りという意味でも重要な場所である。
防衛高を出て学生たちが向かう場所と言えば、まずは駅前の小さな商店街だ。規模はそこまで大きくないが、休日は防衛生でにぎわっている。
――入試の時は、この駅から歩いてきたんだよな。
二ヶ月ほど前の事だが、誠にはもう遥か昔の事のように思えた。
商店街のおじちゃんおばちゃんは優しい人ばかりで、コロッケや唐揚げも学割料金だと言って安く売ってくれる。
「日本の為に戦ってくれるんだ。安くしとくよ」
まだ入学して一週間の身には、その言葉は不釣り合いだった。そして、その言葉が持つ重みもまだよく分かっていなかった。
誠たちは先輩に連れられて、何故か街の外れの方へ来ていた。ここまで来ると人も少なくなってきた。
しばらくすると市民公園の中に入っていき、ランニングコースをぐるっと一周してから、公園の入り口近くにあった公衆トイレに戻ってきた。一体何が始まるのだろうか。
「島村学生」
「はい、権田先輩。周りに敵影は在りません!」
「よし、全員公衆トイレの中へ入れ」
「えっ」
「何をぼさっとしている。早くしないと人が来るぞ」
えっ。
――公衆トイレの中へ入れ。
聞き間違いかな?
誠は万と顔を見合わせて、何かヤバいことに片足を突っ込んでいるのでは無いかと心配した。流石に、尿意を催したからトイレに寄っただけだよな。きっとそうだ。
「さぁ。服を脱ぐんだ」
アッー! 不味い状況ですよコレは。
さしもの万も絶句している。この現状、もはや俺がツッコむしかないのか。いや、ツッコむって、決してそういう意味ではないが。
誠はおずおずと挙手した。
「…………あの、権田先輩。俺、別にそういう趣味を否定するわけじゃないんですが、流石に公共でするのはちょっと……。いや、私的な場所なら良いという訳でも無くてですね。流石にちょっと、困るというか、なんというか…………」
しかし先輩たちは顔を見合わせ、ぽかんとしていた。
「櫻野学生。流石に制服を着たままカラオケに行くのはマズいだろう」
「えっ」
「えっ」
「…………カラオケ?」
「もしかして、学則破りは絶対ダメの真面目君だったか……?」
また俺だけ知らなかったのか? いや、同級生たちを見ても、全員魂を抜かれたような顔をしていた。
「……いえ、御一緒させてください」
「そう来なくては! さあ、私服は用意してあるから早く着替えるんだ!」
ともかく、こうして誠たちの貞操の危機は守られた。
というか、ここに連れてこられた一年って、そんなに不真面目に見えたのだろうか。学則順守の意識くらいありますよ。