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防衛高の日常  作者: 兄鷹
第一章 始まりを告げるラッパ 編
4/19

3新しい日常

 自己紹介が終わった後、簡単に明日からの学校生活の流れを説明されて、初日のホームルームは終わった。

 夕食は午後七時からだそうだ。時間が厳格に決まっているらしく、遅れたら晩飯抜きだと散々脅された。


 その後は各自の寮部屋で荷解きの時間を与えられ、解散となった。

 防衛高は全寮制で、各学年に400人だから、三学年で1200人分を収容するために四つの寮棟がある。それぞれ、白樺(しらかば)寮、青嵐(せいらん)寮、赤烏(せきう)寮、常緑(じょうりょく)寮の四つだ。要するに、白青赤緑で色分けされているってわけだ。

 各学年の400人は四つの寮に均等に分けられ、一学年から三学年まで同じ寮で生活する。


『教官や先輩とすれ違ったらまずは挨拶しとけよ。さもないと、面倒くさいことになるからな』


 桑名教官のアドバイスを思い出しつつ、誠は頭の中で礼の姿勢を取った。腰を10度曲げて、目線は逸らさない。声は大きいほうがよく、ハッキリとした発音が求められる。ねっしゃさーす(お願いします)、みたいなのはダメだ。


「ここか、青嵐(せいらん)寮」


 教室のある東棟から少し歩いたところに、寮棟が立ち並んでいる。誠が入寮する青嵐もここにある。庭に挟まれた小道を通った先に、レンガ造りの外見をした青嵐寮が立っていた。ちなみにどの寮に入るかは、入学前に通達されるようになっている。なので、『スリザ〇ンはやだ!』みたいな事は起こらない。


 ここでも先輩たちの熱烈な歓迎が待っているのかと思いきや、寮に入ってみると上級生はいないようだった。新品の制服に身を包んだ新入生たちが、狭い階段に殺到している。一階には食堂、自習室、談話スペースが設けられていて、部屋は二階からだ。何人かの相部屋かと言うとそうでもなく、それぞれに一人部屋が与えられている。


 誠の部屋は二階の階段の近くだった。

 部屋の中には事前に運び込まれた段ボールが積まれていて、他には簡素なベッドしかない。そして小窓が一つだけだ。トイレも無ければ水道も無く、机も押し入れもない。

 本当に、ただ休んで寝るだけの部屋らしい。そこら辺のビジネスホテルやネットカフェの方が設備がよさそうだ。


 一つ目の段ボールを開けると、替えの制服と運動着(ジャージ)、教科書など、学園生活に必要なものが入っていた。こちらは学校から支給された物だ。

 それ以降の段ボールは誠が家から持ってきた物たちが入っているが、大したものはない。学校生活に必要のないスマホや携帯、漫画に雑誌、ゲームなどは持ち込み禁止なので、歯ブラシや下着などの生活必需品だけだ。

 学校の敷地内にATMがあるようだし、必要なものが出来たら給金で何か買えばいい。学校生活課に届け出を出せば、学校内の商業施設で売っていない物も取り寄せてくれるらしい。

 通帳とハンコは()で持ってきたし、大丈夫だろう。


 荷物自体はとても少なかったので、荷解きはすぐに終わった。腕時計を見ると、夕食までは時間がある。特にすることもないので、誠は教科書をパラパラとめくった。

 国語、数学、外国語といった一般教養科目を筆頭に、歴史基礎、理工学基礎、防衛学入門、運動概論、軍法学など、よくわからない物もある。外国語は事前の希望通り、ドイツ語の教科書が届いていた。英語は全員必修だが、選択制で第二外国語を取ることが義務付けられているのだ。防衛高の外国語は、第三次世界大戦で主要国となった仏、独、英、露、中、米のすべての言語を網羅している。さらに三年になると、アラビア語やエジプト語などの授業も取れるようになるらしい。


 歴史基礎の教科書は、紀元前から現在に至るまでの歴史を大雑把にまとめたものだった。しかし、直近の50年間は国際情勢という別冊付録に分厚くまとめてあって、日本の同盟関係や国際条約が細かく記されている。もちろん諸外国の動向も載っているが、そんな中でもよく見るのは『鬼人』に関する記述である。

 鬼人。それは今から30ほど前に出現した、一人の能力者の呼称である。当時、中東方面への影響力を強めていたロシアとそれに同調したエジプが、旧EU諸国と対立し、地中海を中心とした第四次地中海戦争が激化していた。陸と海の両方からトルコ方面へ北上したエジプトは、そのまま破竹の勢いで旧EU圏に攻め込む―――かと思われたが、最後には誰も想像さえしなかった結末を迎えた。


 エジプト軍の大敗と撤退である。


 その侵攻を阻止したのは、たった一人の能力者だったという。名前、性別、年齢不詳のその者は、自らをdevil(悪魔)と名乗った。ロシアと同盟関係にあった中国は、その能力者を『鬼人』と呼称し、一人で軍事級の能力を持つことから、国家指定A級危険人物に定めた。

 日本でも同様の呼び名が定着しており、神出鬼没の地中海の鬼人の存在は都市伝説のように語られている。

 詳しいことが何も分かっていない鬼人だが、それでも能力だけは世間一般に広く浸透している。それは空間を操るという凶悪極まりないものだった。視認できない距離から放たれた弾丸は亜空間に吸い込まれ、斬撃も打撃も届かない。逆に、鬼人からすればどれほどの距離も無に等しく、一度敵対すれば最期、文字通り逃げ場がない。


 従来は荷物運びや移動係として活躍の場を設けられていた空間系の能力者たち。それが一役脚光を浴びるようになったのは、ひとえに鬼人の活躍があったからである。



「……」


 ぱたんと教科書を閉じ、誠は目をつぶった。

 同じく空間系の能力を持つ者として、憧れが無いわけではない。しかし物を出し入れする程度の力しかない誠と鬼人では、比べるのもおこがましい程の差がある。そして、それ以上に…………。


 ふと気が付くと、時刻は六時半を過ぎていて、どれだけ夢中になって読みふけっていたのか呆れてしまった。そういえば、部屋の外から何やら声がする。早めの移動を推奨されているし、そろそろ食堂へ向かった方が良いかもしれない。


 誠は制服の襟を整えてから外へ出て、一階の食堂へと向かった。


「おお、誠じゃないか。誠も青嵐寮だったんだな」


「万もか」


「天野と三方ヶ原は違うみたいだな。でもAクラスの奴は他に何人かいるぜ」


 食堂の前にいた万は、Aクラスの友人たちと談笑していた。自己紹介の時に見た顔の様な気がするが、名前が思い出せない子がちらほらいる。万も全員の顔と名前はまだ一致していない様だが、臆せず話しかけている。

 くそ。こんな時だけ彼の軽率さが妬ましい。


「それがさ、食堂の中に何も無いみたいなんだよな」


 なぜ食堂前でたむろしているのかを聞くと、よくわからない答えが返ってきた。


「普通イスとかテーブルとかあるもんだろ、床で食うわけでもあるまいし。厨房の方にも誰もいないしさ」


「寮母さんの部屋も空だし、先輩たちも見当たらないし…………うぉっ!」


 その時、後ろからどっと人混みが流れてきた。

 食堂前にたむろしていた一学年の生徒は、全員が否応なく中へ中へと押し込まれていく。


「ちょっと押すなよ!」


「どうしたどうした、何があった?」


「足踏んでるって」


 訳も分からず食堂に詰め込まれた青嵐寮の一学年は、混乱で統率が取れていない。事情を説明できる者もおらず、時間が過ぎると共に紛糾の声は大きくなっていった。

 しかし、時計の短針が七時を指した次の瞬間……。


「全員傾聴ォ!」


 野太い声が騒乱を掻き消し、100人の注目を一か所に集めた。胸に青いバッチを付けた三学年の生徒である。声の低さもさることながら体格がよく、全く高校生に見えない。制服を着てなかったら教官と間違えてしまいそうだ。


「ようこそ青嵐寮へ。寮長の権田(ごんだ)恒興(つねおき)だ」


 慌ただしかった場の空気が豹変し、新入生はすぐさま直立不動の体勢を取って、10度のお辞儀をした。




「…………」




 ――この間は、なんだろうか。もしかして、お辞儀の仕方がなってないとか、お説教を喰らうパターンだろうか。全員で空気イスとか腕立てとかやらされるんだろうか、連帯責任で。


「……厳しい入学試験を乗り越え、よくここまで来たな。我々青嵐寮の上級生は、諸君らを歓迎しよう。だが――」


 そんなことは無かった。

 しかし、不穏な空気はまだ続く。


「ただ入学式を通過しただけの者が、防衛高校の生徒を名乗る資格は無い!

 よって只今から、お客様気分の貴様らに対して『着校式』兼『新入生歓迎会』を開催する。腕に覚えのある者は反撃しても構わん! 一人でも多く生き残ることを期待する!」


 バン!


 次の瞬間、全ての窓と扉が開け放たれた。どこに隠れていたのか、先輩たちが獰猛な笑みを浮かべている。

 ……嫌な予感しかしない。


「訳あって諸君らの学生バッチ、頂戴する。抵抗する者には容赦ないと思え。――突撃!」


 空いている場所から先輩達がわっと押し寄せてきて、近くにいた新入生の紅のバッチを手あたり次第奪い始めた。誠たちは訳も分からず、混乱する人込みに押されてもみくちゃになった。

 新入生の何人かは先輩に反抗を試みているようだが、あっけなく袋叩きにあって潰されている。そりゃそうだ。単純に考えて100対200、兵数差が倍あるのだから。個人の技量の差も相まって、食堂内は地獄絵図と化していた。


「どうしたどうした。こんなものか新入生!」


 中でも特にヤバいのが、竹刀やら薙刀やらを手にした集団だ。丸腰相手に打ちにいったりはしていないが、能力を使って抵抗する新入生相手に、容赦なく襲い掛かっている。

 新入生は知る由もないが、剣道部、銃剣道部、薙刀部、槍術同好会は、毎年獲得したバッチの数で争っているのだ。はた迷惑な話である。


 とんでもない学校に入ってしまったのかも知れない。誠はそう思った。平気で人を殴り蹴りの暴行、窓ガラスも粉々になり、ノされた生徒は端で横になっている。


「……イニシエーション」


 三好生徒会長が言っていた言葉が、頭をよぎる。イニシエーション…つまりは通過儀礼の事だ。この乱痴気騒ぎも、乗り越えるべき儀式だっていうのか?


「――イニシ?……そうか、わかったぜ」


 何が分ったというのか、隣で同じようにもみくちゃにされている万が声を上げた。


「なんてこたぁない。ただのバカ騒ぎだぜ、これは」


「どういう意味だよ」


「まあ見てなって」


 誠の疑問にろくに答えもせず、万は人混みをかき分けて上級生の前に立ちはだかった。


「今年の新入生は不作だなぁ。根性(タマ)無ししかいないのか?」


「シッ――!」


 腕を紅い炎に包んで、万は野次を飛ばしていた上級生の一人に飛び掛かった。構えを取らせる時間も与えず、燃え盛る右手で先輩をぶん殴る。まるで人間の動きではない。あの炎には身体強化のような副次効果があるのだろう。しかし、すぐさま竹刀持ちの先輩がやってきて、万は四方の退路を塞がれた。


「なんだ、威勢の良い奴がいるじゃないか」


「へへ、あざっす」


 後輩相手に殴られたというのに、先輩はちっとも怒らない。むしろ歯向かう者を称えるような雰囲気さえある。

 仲間意識、そして通過儀礼……か。


 もう誠もなんとなく分かっていた。確かに、これはただのバカ騒ぎだ。先輩後輩の垣根無く大騒ぎすることで、早く学校に馴染んでもらおうって魂胆だろう。


 実際に第二次世界大戦直後の旧制高校では、こんな乱闘が夜な夜な行われていたという。


 ぼーっとしている誠を目ざとく見つけた一人の上級生が、次の得物を見つけたと言わんばかりの勢いでこちらに向かってきた。


 ――そういうことなら。それでいいんだろう。別にこういう()()が苦手なわけじゃないんだ。


 腹をくくって、誠はゲートを開けた。何も無かった空間が落ち込み、直径10㎝ほどの穴が開く。暗闇がぽっかりと顔をのぞかせた。


「空間系か――!」


「それだけじゃないです」


 驚く先輩を他所に、誠は穴から模擬刀をとりだした。剣道部が使っているような竹刀ではなく、木を削った木刀だ。ちなみに、修学旅行先の京都で買った木刀である。

 本気で打ち合えば折れてしまいそうな見た目だが、強化で十分に硬化させてある。


 先輩は未だ、どこからともなく現れた木刀に気を取られている。


 ――(あご)……はやめとくか。足だな。


 無防備の(すね)に向かって木刀を一閃し、勢いそのままに胸元へ手を伸ばす。そこには二学年を表す緑のバッチがあり、前の防御はがら空きである。


「もらった!」


 誠は一瞬の隙を見逃さず、駆け抜けざまにバッチを奪い取った。強化の対象は木刀だけではない。自らの身体も効果範囲内だ。


 誠は鬼の首を取ったように笑った。一応、脛を思い切り打った先輩を心配しつつ振り返ると、彼も凄まじい形相で笑っていた。


「なかなかどうして、やるじゃあないか。今年の新入生も……」


 かなり強く打ったからな。やっぱり痛いんだろうか。


「大丈夫で――がッ」


 心配して駆け寄ると、瞬時に先輩の身体が沈み込んだ。次の瞬間、誠の顎を重い衝撃が襲った。全く見えなかったが、おそらく頭突きだった。つい手放してしまったバッチは誠の手を離れ、再び先輩の胸へと戻る。

 くっそ。滅茶苦茶怒ってるじゃないか。


「来いよ、バッチ取ったら終わりとは誰も言ってないぜ」


「……胸借ります」


 不意打ちではなく、今度は真正面から打ち合った。


 意外と勝負は拮抗していて、どちらも決め手に欠く戦闘が続いた。だが、木刀を持っているという圧倒的ハンデがあるのに、拮抗している時点で負けだ。

 誠は強化の能力に任せて、客観的に見ても剣道の有段者レベルの体裁きを実現している。剣筋は素人だが、速さと強さはそれだけで脅威だ。しかしそんな誠相手に、先輩は能力を発動する様子も見せず、対等に渡り合っている。

 防衛高で一年間鍛えれば、ここまで強くなれるのか……。


 不意に、背中に誰かの体重を感じた。

 そこには傷だらけの万が背中合わせで立っていて、肩で息をしながらもバッチは未だに守っていた。


「へへへ、竹刀相手にステゴロはキツイや。ちょっと代わってくれ」


 万の肩越しに後ろを見ると、竹刀や薙刀を持った先輩たちが半円包囲で取り囲んでいた。一体、何人を相手にしていたのか。

 制止の声も聞かず、万は誠と戦っていた先輩に向かって突進していった。


 誠は目の前に控える上級生の一団を前にして、木刀をもう一振り取り出して構えた。二刀流である。構えもへったくれもないが、そもそも誠の戦法は強化した身体能力に任せて、思い切り暴れる事である。不格好さなど気にしていられない。


「がぁっ!」






 結論から言うと、奪ったバッチの総数2に対して、奪われた回数は5回。それでも5回取り返して、最後には手元に自分のバッチが残っていた。

 竹刀を持った先輩たちに取り囲まれ、誠の制服の下には青あざがいくつも出来ていた。きっと万も同じだろう。

 誰も彼も疲れ果てて、騒乱の食堂内で寝始める者もいる始末だった。誰かが声を掛けたわけではないが、自然と乱痴気騒ぎは終了した。

 最後には上級生も下級生も関係なくお互いをたたえ合い、肩を組んで大声で寮歌を歌った。



 青く匂う三浦の海に 燃ゆる若き血潮


 我ら青嵐天与の守り 関東の強



 見よや凱歌を若人の 高鳴る鼓動と


 我らの翻らん寮旗  防衛の誉



 新入生は誰一人として歌詞を知らず、無論のこと歌える者はいなかった。それでも全員で肩を組み、大声でがなりたてた。寝ていた奴も気絶していた者も叩き起こされ、なんだかんだ良い雰囲気で新入生歓迎会は終わったのだった。


 汗のにおいと熱気のこもる食堂内に長机と椅子が運び込まれ、機を見てやってきた食堂のおばちゃんたちが大量のおにぎりと味噌汁を持ってきた。そういえば、今って夕飯の時間だったな。

 すきっ腹の学生たちは感謝の言葉と共におにぎりにむしゃぶりついた。

 誠も先輩たちに交じって夕食を食べていた。咥内の傷に味噌汁が染みる。


 医務室の教官や、医療系の能力を持った上級生が怪我人を見て回り、加工系の能力者は破損した設備や窓ガラスを修復していった。


 計300人が所狭しと食堂内に詰め寄り、わいわいと賑やかな夕餉だった。

 特に、先輩相手にも果敢に立ち向かっていった万と誠の周りには、学年問わず多くの学生が押し寄せていた。


「白鳥学生、いい拳だったぞ。何か武術をやっているのか」


「いえ、総合格闘技……? 的なものを少々かじっていました」


「なるほど道理で。ちなみに、空手に興味はないか?」


 空手道部の部員が勧誘を始めると、まわりの柔道部やボクシング部からヤジが飛んだ。


「何言ってやがる、勧誘期間はまだ先だろう。それはそうと白鳥学生、レスリングの試合って見た事あるか?」


 大勢の先輩相手に強気のステゴロを演じた万は、格闘種目の先輩から大きな期待を寄せられているようだった。彼もまた、最後にバッチを付けて立っていた新入生の内の一人だ。

 そして、誠はと言うと、


「櫻野学生。君は剣道部で基礎を学べばもっと強くなれるぞ!」


「薙刀最強」


「何を言うか、彼の動きは銃剣道のそれだった」


「長物は使ったことないの? なら槍術部においでよ!」


「薙刀最強」


 誠は、思い思いの言葉で自らを部に引きずり込もうとする先輩たちに対して一言、


「…………考えておきます」


 としか言えなかった。

 しかし二種持ち――しかも使い勝手のいい強化系と、極めれば最強の呼び声高い空間系を持つ誠の周りには、部活の勧誘だけでなく、より多くの学生が集まっていた。

 やはり質問されるのは空間系能力の事が多かった。そのたびに木刀を取り出して、実演してみせる。


「そこまで強い能力ではないですよ。今のところ、ただの荷物置き位でしか活用方法が無くて」


「銃弾は吸い込めるのか?」


「弾丸を視認してピンポイントで穴を合わせられれば……いや、そんなことが出来るなら身体強化で避けますよ」


「転移はどうだ」


「考えたこともないですね」


 鬼人の影響なのか、空間系の能力者に対する誤解が酷い。ひとえに空間系と言っても、鬼人は異常すぎる。そのせいで空間系に対する過度な期待があるようだが、実際、誠の能力はそこまで使い勝手の良いものでもない。


「でもさ、二種持ちってことは両親がどっちとも能力者なんだよね? 防衛軍で働いてるの?」


「いや……、――――そんな感じですかね」


「……悪い事聞いちゃった?」


「そんなことないです」


 ――いや、俺の()()は、どっちとも無能力者ですよ……。

 口から出かかったその言葉を飲み込み、誠はうつむいた。



 学生の間で着校式と呼ばれる『新入生歓迎会』を乗り越えた一学年の生徒は、これで内外共に防衛生として認められる。しかし、第57期防衛生の、真の受難はこれから始まるのだ。

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