0思春期
「パパ、ママ! 早く来て写真撮ろうよ!」
元気に走りまわるその子供は、大きな制服に身を包み、胸には花の飾りを付けていた。
「危ないから、走るのはやめなさい」
今日は小学校の卒業で、まわりには人が多い。しかし母親がどれだけ言っても聞かず、子供は走るのを止めない。
「……元気な子に育ってくれたな」
「ええ」
「俺たちの子は、元気に大きくなってくれた」
父親はそう言って妻の肩を抱き寄せた。
無抵抗に抱き寄せられるままの妻の顔を見ると、少し悲しそうにしていた。
「だけど、いつまでもこのままじゃいけないんだ。誠も、俺達も」
「ええ、分かってる」
母親は無言で夫の服を握り締めた。いつか言わなければならない事だとは理解しているが、それが今日である必要は無いのだ。散々話し合って決めた事ではあるが、最後にほんの少しの恨みを込めて、しわが出来るまで夫の服を握り締めた。
「せめて、写真は取っておかないと。笑顔でいられる内がいいわ」
「そうだな」
子供は母と父に挟まれ、無邪気に笑いながら写真に写った。
「誠」
父親は、親元を離れて友達の方へ駆け寄ろうとする息子を呼び止めた。いつもとは違う声色に驚いたのか、息子はすぐに立ち止まった。
「大事な話があるんだ。ちょっと歩こう」
賑やかな小学校を出て、親子三人は静かな河川敷へとやってきた。子供特有の直感で何か重大な話が待ち構えていると理解した息子は、文句ひとつ言わずについてきた。
「ねぇ。どうしたのパパ」
「――お前の、本当の父さんと母さんの話だ」
「……本当の?」
「あのね誠、これだけは覚えておいて欲しいの。パパもママも、誠の事ずっと大好きだからね。誠の事が大好きだから、本当の事を話すの」
子供の頭の中はじんと痺れていて、言葉が上手く入ってこなかった。
「誠、お前は……、パパの弟の子供なんだよ」
「……パパの子供じゃ、ないの?」
思わず口から洩れた言葉だった。
「ああ、誠……!」
純粋すぎる質問に耐え切れなくなった母親は、息子を深く抱きしめた。
「そう、だったんだ。僕はパパとママの子供じゃ…ないんだね」
「ずっと言えなくてごめんね、誠……」
子供は、自分に縋り付いて泣きわめく母親をうるさいと思った。もう言葉が信じられなかった。
12年間ずっと嘘をつかれていたのだ。その考えが頭を支配した。と同時に、体の中で何か熱いものがこみ上げるのを感じていた。
「……嘘つき」