「プロローグ」
――“神”は、全知全能である。
そう、定義されている。
事実、大なり小なり、ましてや主義信条に関わらず。
ひとまず“神”といえば“全知全能”だと、誰もが同じく認識していることだろう。
それは確かな事だ。
――ところで。
こんな話を知っているだろうか。
粒子と波の性質を併せ持つ「量子」を用いた乱数発生器は、「0」と「1」を等確率ではじき出す。つまり、その比は常に1:1。
だが、とある条件下では――例えば、興奮した人間が大量にいる場所などでは、その確率に不自然な偏りがでる、という話だ。
つまり。
1人ひとりは取るに足らない存在であったとしても、それが集団となれば――。あるいは一心に何かを望んでいれば――。
それは、何らかの変化を、世界に及ぼしているのではないか……?
で、あるならば、全知全能の“神”も、あるいはどこかに――。
そんな妄想も現実味を帯びてはこないだろうか。
何しろ、今や地球上のホモ・サピエンスはおよそ80億人。蟻や菌類、その他の生物には後れをとれど、高等生物としては呆れるほどに地上を満たしているのは間違いない。
で、あれば。
その80億人が共通して認識する存在が、この世界の外側にいたって、それほどおかしい話と言えないのではないだろうか。
――とはいえ。
この推論を確かめる術はどこにもない。
第一、ヒトに“全知全能である”と定義された“神”が、実際に世界の外側に生み出されていたと仮定しても。
それが一体、どんな影響を世界に与えるというのだろうか。
いや。ほとんどの生命には全くと言っていいほど関りはないだろう。
だが――。
その生み出された“神”の方は、果たして何を成そうとするのだろうか?
第0話「プロローグ」