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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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ヤイチは見た

ヤイチの覗く窓からは、こちらに背を向けてソファに座る2人が見える。


暖炉からは火が見える。夕方の外は少し冷え、室内はさぞ暖かいだろうことが分かる。


ヤイチはガクガク震える膝をなんとか落ち着かせ、深呼吸を何度もした後もう一度室内を覗いた。


ユウヒは全く動かない。呼吸していることは肩の上下で分かるが、それ以外に動きが無い。


寝ているのだろう。ユウヒが騎士団の任務に参加していることはヤイチも聞いていた。任務といっても街の見回りや些細なトラブルであるが。


それがどれだけの仕事かは分からなかったが、まあ疲れるだろうなとヤイチは思った。


だが、それを言うならヨルカも毎日医療班で仕事をしているはずだ。ヨルカを差し置いて寝るな、とも思った。


ヨルカはというと、ユウヒが寝たのを確認すると何やらソワソワし出した。


やがて、眠るユウヒに身体を寄せると右手を伸ばす。数秒後、その手にはカップが握られていた。


なるほど、ユウヒは何かを飲んでいる途中で眠ってしまったようだ。たしかに、そのまま放置していたらユウヒはカップを落としてしまうかもしれない。


では、回収したカップはどこか机にでも置けばいい。


だが、ヨルカはそうしなかった。ヤイチからはヨルカの後ろ姿しか見えない。だから、ヨルカがそのカップをどうしたかは推測するしかない。


ヨルカの首が少し上を向いた気がする。


ヤイチは思った。彼女はユウヒのカップに口をつけたのではないか?


もちろん、ヤイチの位置からは実際の行動は分からない。だが、カップを取るときの落ち着かない様子、カップを持った後の動作、それらはヤイチに「口をつけた」と認識させるには十分だった。


ヤイチは窓から離れ、勢いよく正面の扉を開けた。バタンという音に驚いたのか、ヨルカは目を丸くしてこちらに振り向いた。


「ヨルカ、帰ってきたよ!」


声を裏返してヨルカの名を呼ぶ。少し涙目になっていたかもしれないが、誰も気づかなかっただろう。


「え?や、ヤイチ?おかえりなさい」


ヨルカはソファから立ち上がると、驚きつつも笑顔でヤイチを迎えた。


そして、その手にはやはりカップが握られていた。ヤイチはそのカップを見ながら


「の、喉乾いちゃったぜ。それ、私にもくれないか?」


と、ぎこちない笑顔で言った。


ヨルカはカップとヤイチを交互に見た後、頬を赤らめてキッチンへと小走りで向かった。


「こ、ここ、これは()()()()全部飲んじゃって空だから、新しいの入れるよ。ははは」


その反応でヤイチはわかってしまった。


(最後に飲んだのヨルカだ!ぜったいヨルカだ!)


その確信はつまり、ヨルカがユウヒと間接的にキスをしたというものだ。もちろん確信といってもそれはヤイチの中での話だ。


それの真偽を確かめるのならヤイチはヨルカに問わねばならない。口をつけたのかどうかを。


…ヤイチにはできなかった。自分で思う分には思い込みだ。だが、もしもヨルカが直接「飲んだ」と言えば、事実として認めなくてはならない。


その事実をヤイチは認めたくなかった。ユウヒとヨルカは多分お互いに思い合っている。だが、この街に来てから急激に関係が進んでいたら、自分がいない間にどこまでも進んでいたのなら…


(私がユウヒに勝てなくなる。自分から自分の心を削るのは良くない!)


ヤイチはヨルカを諦めていなかった。その愛が友人としてなのか恋愛的なものなのかはヤイチ自身にも分からなかったが、それでもユウヒには負けたくなかったのだ。


「そっかー、出来立てを飲めるのかー。嬉しいなー」


ヤイチの声に空っぽの元気が込められる。


「ただのココアだけどね」


(甘いひとときだったんだねヨルカ)


ヤイチは泣いた。もちろん心の中で。

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