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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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ヤイチは焦る

「では、この事件の主犯は老人とキゲツという女だと?」


目覚めたヤイチは諸々の検査の後、クランベルから今回の件に関して事情聴取を受けていた。


「はい。老人は分かりませんが、キゲツに関しては衛星くらいの立場の人間だと思います」


その場で話を聞いていたヨルカはキゲツという名前に反応した。


「そのキゲツって人、もしかして白くて綺麗な人だった?」


「知ってるのか?あぁ、たしかに気味悪いくらい白かったけど…」


ヤイチは目を閉じて、キゲツのことを思い出してみた。


白くて不気味に笑う女。だが、その女の言葉に心が開いた事実を思い出した。


「まさか、キゲツさんが『月』の衛星だなんて…」


「もしかするとそれ以上かもしれないね」


クランベルはキゲツという人間に特別危険を感じていた。


亡くなった騎士2人には目立った外傷は無く、ヤイチの見た通りならば2人は急に意識を失ったということだ。


キゲツがなんらかの能力を使ったのだとクランベルは考えていた。


「ほかに何か気付いたことは?」


クランベルの問いかけにヤイチは、自分がキゲツに心を開いたことを打ち明けた。


「能力か?だが、どの属性にも該当しない効果のようだな」


三人は少し考えてみたが、納得いく結論は出なかった。


「聴取はここまでにしよう。あまり無理もさせられない。それと…助けるのが遅くなってすまなかった」


クランベルが頭を下げてヤイチへと謝罪する。上司に頭を下げられて居心地の悪いヤイチはすぐに「顔上げてくださいよ」と言った。


「たしかに危なかったけど、おかげで掴んだものもあるんすよ。まだうまく扱えないけど、へへ、ユウヒより進んでる気がする」


後半は独り言のようで、ヨルカは首をかしげている。







クランベルが去り、部屋にはヨルカとヤイチだけになった。


「さっきの…」


話を切り出したのはヤイチであった。


「キゲツって奴に会ったことあるのか?」


ヤイチの質問にヨルカは頷く。「そっか」とヤイチが小さく呟くと、ヨルカの手をギュッと掴んだ。


「変なことされてないよな?もしまた現れたらその時は私が…」


そこまで言って、ヨルカの顔が複雑そうに見えたヤイチは一度言葉を切った。


「どうしたの?」


「悪い人に見えなかったから…その、信じられなくて」


ヨルカはキゲツが主犯であること、『月』の人間であることがショックだった。それが感じ取れたヤイチはヨルカをそっと抱きよせたのだった。


「や、ヤイチ、苦しいよ」


「なんか久しぶりに会った気がして嬉しくて。もうすこしこうさせて」


ヨルカは抵抗せずにそのままヤイチの言うとおりにさせた。頭を撫でられ、なんだか恥ずかしかったが拒む理由はなかった。


「でもたしかに久しぶりかも。ヤイチ、一週間も眠ってたから」


「そっか、そんなに…」


ヨルカを撫でる手がピタリと止まる。何か思い出したようにヤイチの手が震え始めた。ヨルカは異変に気付きヤイチの顔を覗く。


顔は青くなっていて、目線が泳いで定まらない様子。どこか体調が悪いのだろうか?


「ヤイチ大丈夫!?どこか悪いの?」


必死に声を掛けられたヤイチは震える手でゆっくりとヨルカの肩を掴んだ。


「ヨルカ…いまどこに住んでらっしゃるの?」


「え?」


ヤイチの顔は精一杯の笑顔である。笑顔ではあるが、とても安心できるようなものではなく、明らかに無理をしているのが分かる。


「あいつと一緒に住んでるの?」


「ユウヒ?もちろんだよ。三人で住むのにとってもいい家でね、ヤイチの部屋も掃除してあるんだから」


「そそ、そっか、私の部屋もあるんだ。はは、嬉しいなあ」


ヤイチの頬を涙が伝う。それは嬉しさから来る涙ではなかった。男女が同じ家で過ごす、それも二人きりで。ヤイチは最悪を想像していた。


そんなヤイチのことなど想像できるはずもなく、ヨルカはにこやかに首をかしげるのであった。





それからすこししてヤイチが完全に回復し、騎士団の仕事に復帰できるようになった日のこと。ヤイチは一週間以上滞在した部屋に名残惜しさを感じながらも別れを告げ、本部へと向かった。


復帰したといえど病み上がりの人間に任せられる仕事は限られていた。書庫の整理を頼まれ、キリの良いところで進捗を報告した。


ヨルカの住む家の住所を受付で聞き出し、自らの住居も同じだと告げた。


中心街から離れた場所であったが、風を使って移動するヤイチにとっては距離などはさほど問題はなかった。


ヤイチが気になっていたことはただ一つ、自分のいないところでのあの二人の生活である。ヨルカがユウヒを意識しているのはとっくに知っている。


問題は、ユウヒがどう思っているのかである。ヌスでのユウヒは鍛錬に没頭していたが、住居が同じになったのなら話は変わるかもしれない。所詮ユウヒは男で、あんな美少女と一週間も二人で暮らしていたら間違いがあってもおかしくない。


ヤイチは急いだ。


病み上がりだというのに自分の能力を最大限使って移動していた。結果、本部から20分もかからずに家に到着することが出来たのだった。


急いで扉を開けようと手を伸ばすが、その時頭の中で声が聞こえた。


(待つんだ私。ここは窓から普段の様子を観察すべきだ)


一理あると思った。直接問い詰めてもいいが、はぐらかされる可能性もある。ヤイチは扉から離れ、静かにかつ迅速に窓へと向かった。


窓に向かいながらヤイチは思った、もしも二人が良い感じだったらどうしよう。ヤイチはユウヒにヨルカを盗られたくない。だが、もう全部手遅れだったら?


急に鼓動が速くなる。急いできたからではない。取り返しのつかない状況に対しての恐れ故のものであった。


恐る恐る家の中を覗く。ヤイチは目を見開いた。


「ふっ!!!!?」


とっさに口を押え、叫ぶまいと堪える。


(な、並んでソファに座ってるうううう!!!!!)




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