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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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捜索 3

「ヤイチが手っ取り早く強くなるには実戦が必要だと思うんだ。それも危険を伴うやつが」


クランベルは黙って話を聞いていた。というより、言葉が浮かばなかったのだ。


スミレは目を閉じて何かを確かめるように頷くと、立ち上がって声をかける。


「ヤイチの風、少し弱くなってる。そろそろ頃合いかもね」


その言葉の意味をクランベルは瞬時に理解した。スミレはヤイチの正確な居場所を掴んでいる。そのうえで、すぐに向かう気が無かったということに。


「場所が分かるんですね?弱くなっているというのはまさか…」


「風の能力の痕跡をあたしは辿れるからね。ヤイチは能力を使って戦闘しているらしいけど…クランベル君の想像通り、そろそろ限界かもしれない」


「いくら彼女の成長のためとはいえ、危機的状況を傍観するような真似をするなんて理解できません。早く居場所を教えてください」


クランベルも立ち上がり、スミレの肩を掴む。その手には力が入り、スミレはそこからクランベルの感情を読み取った。


「クランベル君、居場所を今から教えるけど約束してほしいことがあるんだ。あたしの許可なしに手を出しちゃだめだからね」


クランベルはその言葉に明確な怒りを覚えた。


「あなたは…」


反撃の言葉を口にしようとしてさらに詰め寄ろうとするが、スミレの瞳が先ほどまでの楽しげなものではない冷たい印象を与え、クランベルは黙った。


そしてクランベルは思い出す。目の前にいる女がただの人間ではなかったことを。その瞳は魔女のものであったことを。


肩を掴む手からは力が抜け、全身に脱力感を感じたクランベルは一歩引きさがる。スミレの言葉に一言「わかりました…」とだけ答えて、それ以上は何も言わなかった。


「クランベル君」


スミレから声をかけられる。恐る恐る顔を確認すると、その顔は乙女のようで、もじもじと体を揺らしている姿は素直に気色が悪いとクランベルは思った。


「肩、ギュってされるとなんか、男の子なんだなって思えて…好き」


絶句。クランベルは理由のない純粋無垢な殺意を覚えた。きっと彼でなければ、手が出ていたかもしれない。それほどに今のスミレはウザったらしかった。


「私はあなたのことを嫌いになりそうです」








ヤイチの居場所は思ったより近かった。というか、この小屋の地下に彼女はいるらしい。


スミレが迷いなく小屋の隅の床を剥がした。そこには穴があり、スミレの胸くらいまでの深さがあった。


スミレはそこを屈んで進んでいく。真っ暗な道を迷わず進んでいく彼女の後ろを、クランベルはなんとか付いていく。


少しすると、普通に立って歩けるほど広い空間に出た。松明の明かりが薄暗く空間を照らし、道が何本か続いていることが分かる。


スミレは迷わず道を選び、クランベルもあとに続く。


地上からどれほど離れたかわからないくらい深くまで下ったあと、先ほど以上に広い空間を見下ろせる場所にたどり着いた。


「この臭い…」


クランベルは空間に漂う臭いに覚えがあった。魔獣の血の匂いである。


この広い空間でも漂ってくるとは、どれだけの数の獣がこの場所を満たしているのだろうか?


「いいねぇ。ヤイチ、君はやっぱり最高だ」


スミレは、にへらと笑うとただ一点を見続けていた。そんな不気味な彼女の視線を追うと、うっすら人影が見える。


件のヤイチである。だが、たった1人だけでそこにいるという訳ではないようだ。彼女は絶えず、何かを振り回している。


恐らく刀だろう。耳を澄ますと、その刀を振り回すたびに悲鳴のようなものが聞こえた。


「…見ていられない!」


ヤイチは魔獣と戦っているようだ。何時間それを続けているかは分からないが、スミレの言う()()()はたしかに近づいていた。


状況を理解したクランベルは剣を握り、今いる場から飛び降りようとする。


だが、当然とばかりにスミレがそれを許さなかった。強い風がクランベルを押さえ付け、その場から動くことを禁じた。


「クランベル君、約束したよね?まだダメだよ?」


スミレは興奮を抑えられない様子で、顔を見ずとも声色で表情が分かった。


「ぐっ…、か、彼女はもう限界です。早く助けねば!」


必死の訴えはスミレには届かない。


「さあヤイチ、ここからが本番だよ」

スミレは変態です

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