捜索 2
クランベルとスミレが捜索に出たのとほぼ同じ頃、彼らとは別に捜索隊が編成された。
今回の事件、民の不安を煽らぬように捜索隊は大規模には編成されなかった。
彼らは、行方不明の3名が予定していた巡回ルートを辿るように捜索を進めようとしていた。
そうして、諸々の確認や準備を済ませてハートの門をくぐった時であった。
風が吹いたのだ。
その風は捜索隊の前方の草原を撫でるとすぐにおさまった。
彼らはそんなことを気にするそぶりもなく、目的を果たすべく歩き始めようとした。
「違う。そっちじゃないよ」
いつの間にそこにいたのか。捜索隊の先頭には先程まではいなかったはずの人間がいた。
「あ、あなたは…いったいどこから?」
捜索隊の隊長は突然現れた女に驚き、距離をとった。
「あたしはスミレ。君たち捜索隊だろう?もう居場所は特定したから帰っていいよ」
この女は何を言っているのだろうか?隊長は自分たちの任務内容を知っていると思われるこの不審者を明らかに警戒していた。
「なぜ捜索隊のことを?スミレ、貴女はいったい?」
「そっか、あたしと会うのはじめてか。じゃあ…」
スミレはポケットから何かを取り出し、それを隊長に渡した。
それは手紙であった。折れたり曲がったりしているが、つい最近書かれたものである。
隊長はそれを受け取り、中を確認した。
手紙はクランベルが書いたものであり、そこには行方不明者の居場所を特定したこと、手紙を渡した不審者は信用できる実力者であること、民に事件が知れ渡る可能性を限りなく0にするために捜索隊を撤退させたいことが書かれていた。
「これは…クランベル隊長の筆跡だ。騎士団照明の押印もある。ここにある不審者というのが貴女か。…行方不明者は無事なのか?」
隊長の質問にスミレは少し悩んだ。
「2人は死んだよ。あと1人はまだ分かんない」
スミレは悩んだにしては平然としてその事実を告げた。
「そ、そんなバカな…、優秀な騎士たちだ。そのうちの1人が亡くなるなんて…」
「何言ってんのさ?生きてる可能性があるのは新人の子だよ」
「それもまた…信じられない話だ。…いや、そうじゃないな。スミレ殿、我々が撤退したとして最後の1人を助け出す手だてはあるんですか?」
「ある」
スミレに即答され、隊長は気圧されてしまう。
「…だが、しかし…」
隊長は目を閉じ、しばし考えたあとに部隊に振り返り深呼吸した。
ほどなくして彼は撤退の指示を出し、隊の騎士達は多少ざわつきはあったものの、その指示に従った。
「聞き分けが良くて助かるよ。それじゃああたしはクランベル君のところに戻るよ」
「待ってください。もし仲間の遺体が残っているなら連れ帰ってやりたい。私もクランベル隊長の所へ連れて行ってください」
隊長の訴えにスミレは「うーん」と唸った。
「たしかに遺体は残ってるし、クランベル君だけじゃ運べないなぁ。けど、君を案内していたらヤイチが時間切れになっちゃうかもしれないし…」
「おおよその場所を教えてください。自力で辿り着けるだけの土地勘はあります」
「隊長」
ふいに、撤退命令を出された仲間数人が隊長のもとへ戻ってきた。見ると、一頭の馬を連れている。
「今残っている馬で1番速いヤツです。スミレ殿、我々は足手纏いかもしれませんが隊長は冷静でお役に立つと思います。どうか同行を許してください」
スミレは溜め息を吐いて顔を上げた。
「わかったよ。場所は教えるから急いで来るように」
スミレが隊長へ教えた場所は、当初の捜索ルートから大きく外れていた。
もし彼らが予定通りに捜索をしていたら、こんなに早く特定できなかっただろう。
というのはあくまでスミレの情報が本当に正しければの話。隊長はスミレを未だ警戒している。
「それじゃ、今度こそ行くね」
スミレは次の瞬間、疾風とともにその場から消えた。隊長はただただ呆然として、数秒硬直したあと我に返り、出発した。
行方不明者の居場所の特定が早かった理由を隊長は見た気がした。
「スミレ…まさか風の魔女?」
もしそうだったなら…。隊長は自身が高揚しているのを感じた。
魔女、その称号を持つ者は4人しかいないという。彼女らと行動できる機会など常人には訪れないと思ってた。
だからこそ、隊長はその気付きが事実であることを願い、馬を走らせた。
ハートの外は自然が広がっており、近くに村は無い。
1番近い町でも一日はかかる。
そんなハート周辺には、草原が広がっていて見晴らしがいい。かと思えば、森や山なんかも点在している。
その点在する森のひとつ、かつて使われていたであろう木こり小屋の中に騎士の死体はあった。
屈強な騎士の2人には目立った傷は無かった。ただし、防具は外されている状態であった。
口のまわりには血が付いている。付着の仕方からして、彼らが吐き出した血の痕だろう。
状況から推測すると彼らは毒によって殺された。
クランベルは、持っていたハンカチを彼らの口元を拭う為に使い、苦しみを訴える目を優しく閉じ、安らかな眠りを祈る。
クランベルの内では静かな怒りが燃え、その手は震えていた。
「クランベル君おまたせ。捜索隊の子が1人来るよ」
捜索隊との話を終えたスミレが気楽そうにクランベルに話しかけた。
「貴女は楽しそうですね。何がそんなに面白いんですか?」
「あたし?そんなに楽しそうにしてた?」
自分でも楽しんでいることに気づいているだろうに。
「捜索隊を撤退させるように指示させたのは貴女だ。こんなに早く居場所を特定できたなら、確かに捜索隊は不用だ。私と貴女なら今回の事件の原因を取り除くのに十分な戦力だ。だが…」
クランベルはスミレの顔を確認する。スミレは相変わらず楽しそうで、こちらのことなど気にしていない様子だ。
「…だが、貴女は私に手紙を書かせる際に言った。捜索隊に邪魔されたくない、と。どういう意味なのか説明していただけますか?」
スミレが目だけクランベルに合わせる。その後、観念したようにクランベルの隣に座る。
「あたし、ヤイチに惚れちゃったんだ」
突然何を言い出すかと思えば、スミレは自身の恋を告白した。
クランベルはさすがに虚をつかれ、その言葉を頭の中で反復させた。
ようやく意味を理解できた後、この状況でする告白か?と疑問に思い、スミレの顔を覗く。
本人は顔を赤らめ、先程の楽しげな表情では無くなっていた。
とはいえ、これだけコロリと表情を変えるのは、それはそれで楽しげではあるのだが。
「…え、えぇ、それは本部でもお聞きしました。それがどう関係するんですか?」
逆に冷静になってしまったクランベルは話を進めるべく、スミレに関連性の説明を求めた。
「だからあ、ヤイチのこと好きだから、強くなってほしいの!」
そうやって大きな声で訴えるスミレは魔女というより、どこにでもいる恋する女性といった表情で、再びクランベルは冷静さを失った。
がんばれクランベル




