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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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捜索 1

大掃除が終わり、ひと段落ついた頃には太陽は頂点から傾いていた。2時間もすれば空はオレンジ色に染められるだろう。


「ヤイチはもう見回りから帰ってきてるかな?」


「さあな」


ユウヒはそっけなく答えた。隣でヨルカが頬を膨らませているが、ユウヒはそれに構わず何か準備をしている。


「街に買い物に行こう、食材が無い。そのついでに本部に寄ってみよう」


ヨルカは嬉しそうに笑うと、自分も外出の準備にかかった。




中心街に着くと、食料を中心に生活品なども買い歩いた。そうして騎士団本部に近づきながら用事を済ます彼らは本部に近づくにつれ、団員らしき人々とすれ違うことが多かった。


彼らの表情は強張っていて緊張感を感じる。それだけなら騎士団の威厳で説明できるが、それとは別に慌ただしくしているような印象を受けた。


本部の入り口まで来ると、先日同様に門番が立っていた。ユウヒたちが試験を受けた時と同じ門番の騎士たちだった。


「おや、君たちは昨日の…、合格したそうじゃないか。おめでとう」


彼らの表情も、道行く騎士たち同様に強張っていたが、ユウヒたちを見ていくらか和らいだように見えた。


「ありがとうございます。昨日はお世話になりました。何度か騎士の方々とすれ違いましたが、皆さん忙しそうに見えました。なにかあったんですか?」


ヨルカの問いかけに、門番の二人は顔を見合わせる。理由を話していいかどうか判断しているのだろう。やがてヨルカに向き直り、説明を始めた。


「昨日見回りに出た団員が戻ってなくてな。予定ではどんなに遅くても今朝には戻るはずだったんだが…。騎士団は時間に厳しい。だから見回りから戻る時間も少し余裕をもって申請することが多いんだ。遅れてしまわないようにね」


騎士団の活動は、必ずではないが話し合いで解決しないものが多い。「月」のことだって、話し合えるならヌスがあんなことになる訳がない。


治安維持を担う騎士団は、争いの中に進んで入っていくことがある。


見回りひとつでも、時間に遅れたとあれば何かに巻き込まれた可能性が考慮されるのは当たり前であった。


つまり団員たちは、彼らが事件に遭遇したと考えていた。


「捜索は始まっているんですか?」


ユウヒには嫌な予感があった。それは、ヤイチがその戻らない団員の一人ではないかというものだ。


いや、予感というよりも確信に近かった。


ユウヒの質問に門番は頷く。そして、門番はハッとした。


「そうか、捜索対象の1人、新人というのは昨日君たちが一緒にいた…」


門番は後悔した。ヤイチが行方不明だという情報をユウヒたちに与えてしまった。


「え?え?どういうこと?ヤイチが…行方不明なの?」


ヨルカは混乱した。まさか昨日の今日でヤイチが危険に晒されているかもしれないと思えば、こうなるのも当然である。


「…確認させてくれ。君たちと一緒にいた彼女はヤイチという名前で間違いないか?」


ユウヒは頷いた。門番は息が詰まりそうになり、弱々しく息を吐いた。


「すまない。君たちに教えていいものではなかった」


それを聞いてヨルカは膝から崩れ落ちた。目には涙を浮かべ、本当は声だって出したかったろうが、口を押えて堪えていた。


ユウヒは跪いて、ヨルカの背中に手を置いた。


「だが…、気休めにしかならないと思うが、捜索隊は優秀な人材が揃っている。クランベル隊長が志願してくれた。こんなに頼もしいことはない」


それは確かに気休めだった。クランベルは確かに強くて優秀だ。だが、ハートの外という広い空間の捜索においてどれだけ役に立つのかは分からなかった。


「その捜索、俺も行きます」


ユウヒは顔を上げて言った。門番たちもその返答は予想できていた。


「もうすでに捜索隊は出ている。君が今から行っても合流は難しい。捜索隊を信じて君は引き下がってくれ」


ユウヒの志願は却下された。ユウヒの実力を彼らは信用していなかったし、何よりも二次災害を恐れていた。


クランベルたちならば必ず帰ってくると彼らは考えていたが、ユウヒが無事に帰ってくるかどうかについては確信が持てなかったのだ。


だから、彼らはユウヒを止めることで仕事を果たそうとしていた。ユウヒを傷つけないように言葉を選び、慎重に説得しようとした。


意外なことにユウヒは何も言い返さなかった。門番たちが配慮して説得しているが、力不足なのかもしれないとユウヒ自身も思っていたからだ。


手加減していたクランベルに歯が立たなかった。その事実がユウヒを思いとどまらせ、過剰に自信を奪っていた。


「…わかりました。騎士団を信じます。お願いします」


ユウヒは頭を下げ、ヨルカを立ち上がらせようと支える。ヨルカも震えた声で「よろしくお願いします」と頭を下げ、二人はその場をゆっくり去っていった。


残った門番たちは二人の姿が完全に視界から消えるまで動けなかった。


「迂闊だった。彼らも関係者だからと、慎重さを欠いていた」


「我々も修行が足りないな」


門番の二人もヤイチが無事に見つかることを心から祈っていた。








さて、ユウヒたちと門番はヤイチの状況について深刻にとらえていた。行方不明という状況は実際に起こった以上、確かに深刻な事件だ。


だが、この状況を面白いと感じていた人物もいた。話はクランベルが朝、本部に戻ったころまで遡る。


「戻っていない?それは本当かね?」


クランベルは、慌てている団員に再度確かめた。


「ええ。戻っていないのは三名。内一名は昨日入団した新入りだそうです」


「昨日…、その新人の名前は?」


「ヤイチというそうです。それが何か?」


クランベルは考えた後、こう切り出した。


「クランベル隊の人間に伝えてくれ。私の今日の職務を任せたいと」


「しょ、承知しました。隊長はどうされるおつもりで?」


「もちろん、捜索に向かうのさ」


クランベルは回れ右して本部を出ていこうとした。


「おーいクランベルくーん、遊びに来たよお」


入り口からクランベルの名前を呼びながら女が入ってきた。酔っているのか顔は赤く、ふらふらと歩く姿は危なっかしい。


「あなたは…、スミレ殿じゃないですか?なぜここに?」


スミレ。風の魔女である。


「良さげな子に出会っちゃってさあ、あたしはもう惚れちゃったよ。また会いたくてここに来たの」


「…すみませんがそんな理由で人探しはしていませんのでお引き取りを」


クランベルは呆れながらも冷静に対応する。


「ヤイチって子でえ、女の子なの」


お構いなしに話を続けるスミレであったが、クランベルはその名前に反応した。


「ヤイチ…、いまヤイチって言いました?」


「うん。もうど真ん中。早く会いたいの。クランベル君頼むよお」


クランベルは心の中で、自分が幸運であると確信した。


「スミレ殿、実はいま行方不明者が出ていまして」


「知らなーい」


スミレは爪をいじっている。


「ぜひあなたに協力してほしく」


「興味なーい」


スミレは髪をいじり始めた。


「ヤイチという団員なのですが」


「よし行こう!!あたしにかかれば人探しなんて余裕なんだから!」


スミレはクランベルに飛びついた。先ほどまで人探しを頼もうとしていた人物とは思えないほどやる気を出してきた。








「なるほど、ハートの外ね。まあ余裕だよ」


「よかった。では他にも人手を募って…」


「必要ないよ。あたしだけで過十分」


スミレは手で振り払う仕草をしてさっさと歩いていく。


「まじか」


スミレのはったりでない発言に思わずひきつった笑いが、らしくない言葉遣いが出てしまう。


「ヤイチは面白いなあ。入団してすぐに何かに巻き込まれるなんて」


にへら、と笑うヤイチの後ろをクランベルは追いかけ、たった二人での捜索が始まろうとしていた。

けっこうスミレ好きです

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