ハートでの日常 3
雨に濡れた女の子は良い
「小雨のうちにたどり着きたいな」
ユウヒは立ち上がって、休憩を終えようとしている。ヨルカは恥ずかしそうに赤くなった顔を隠していた。
「まだ恥ずかしがってんのか?大丈夫だって、かわいかったぞ?」
「そういう問題じゃないの…」
弱々しく言葉を返すヨルカも、ゆっくり立ち上がった。
ユウヒはからかったつもりだったが、少し配慮に欠けた自分の言動を後悔したのか、向こうをむいて頭を掻いている。
深呼吸して落ち着いたヨルカは気持ちを切り替えて屋根の下から外へ出た。
「さっ、行きましょ」
小雨が柔らかく彼女を濡らし、まだほんのり赤い顔も相まって色っぽくみえる。
ユウヒは一瞬呼吸が止まり、ヨルカに見惚れてしまった。
雑念を振り切るように頭を横に振り、ユウヒもまた雨の降る地に足を踏み入れた。
空は暗くなっていくが、街灯もあり道に迷うことはなさそうだ。そうして10分ほど歩いた頃、目的地である家が見えてきた。
「師匠の家より大きい」
三人から四人程が共に生活できそうな住居だが、外観からわかるだけでも相当な時間手入れされていない物件である。
とても古くボロボロというわけではないが、住むためには大掃除が必要そうである。この家が無料で譲られたのはそれが理由なのだろう。
「な、中に入ってみよっか」
無料で手に入れた家ではあるが、さすがのヨルカも苦笑いをしていた。ヨルカは本部から預かった鍵を用いて家の扉の鍵を開けた。二人は扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。
扉は軋む音を立てながら開き、中は埃っぽく、ヨルカは咳込んでしまう。安全確認のためにユウヒが先に入る。
見渡すと、一通りの家具はそろっているようだが全て埃をかぶっている。大きな暖炉があり、その前に二人掛けのソファが置いてある。テーブルは円形で、二人で使うには少し大きく感じる。
後から入ってきたヨルカは一通り見渡した後、台所の方へと向かった。
こちらもやはり一通りの物は揃っているが、調理場として使うならばやはり掃除は必要であった。
大掃除の必要のある家の現状と1日の疲労で、2人は笑うしかなかった。
「とりあえず今日休める空間は確保しようぜ。大掃除は明日にしよう」
ユウヒの提案に頷いたヨルカは、早速暖炉の方へと向かう。
「このソファだったら休めそう。物自体はちゃんとしてるし」
ソファを触り、素材を確かめていたヨルカは満足そうにユウヒに話す。
「じゃあ、その辺を掃除するか。掃除用具は…」
ユウヒは辺りを見回し、道具のありそうな場所を漁り出した。当然に埃が舞い、すぐに体が汚れてしまう。
「私はお風呂場を掃除します!疲れたし、汚れたし、ちゃんと休むなら絶対欲しいよね!」
強い意思を示したヨルカは自分のリュックを持って、風呂場へと向かった。
「まさか、ヨルカの荷物って全部掃除道具…?」
ハートについた頃は、食料がほとんど無くなった分だけ軽くなっていたはずのリュックであったが、今日合流した時には物が詰め込まれていた。
ユウヒは、ヨルカがハートで生活するために必要なものを買いこんでいたのだと思っていた。
その中には掃除道具もあっただろう。だが、それならば道具を取り出して持って行けばいい話で、リュックごと持っていくのは非効率に思える。
だが、もしもリュックの中身がすべて掃除道具ならば、ヨルカの行動は正しい。
「…俺にも道具貸してくれてもいいのに」
ユウヒはこの家の掃除道具を探したが、見つけることができなかった。
そのため、もしヨルカが大量に道具を持っているなら是非譲ってもらいたかった。
ユウヒは今いる部屋での道具探しを諦め、ヨルカから借りることにした。
浴室の場所はすぐに分かった。水がくべられたバケツが置いてあり、ヨルカが汲んだものだとわかる。
(近くに井戸があるのか。水もきれいだし、便利だな)
バケツの水を見ていると、それとは別に水音が聞こえてきた。ヨルカがバケツを持って歩いてきた音だとユウヒは気付き、振り返りながら話しかけた。
「重そうだな。言ってくれればやったのに…」
完全に振り返ったユウヒは言葉を失ってしまった。
さて、ヨルカのリュックの中身であるが、そのすべてが掃除道具だというわけではもちろんない。ヨルカは掃除するにあたって、動きやすくかつ汚れても良い服装になりたかった。
これからの時期、ハートの気温は他の街と比べて高くなっていく。そのため、ハートでは人工的に湖が作られ、街の住民、観光客問わずに人気の場所となっている。
ヨルカはその湖にいずれ行こうと考えていた。そのために彼女は水着を買っていたのだが、当然それはリュックの中に入っていたので、道具を取り出す際に目に入っただろう。
そしてヨルカは思った。これなら汚れてもすぐ洗えるし、浴室を掃除した後にすぐ脱いで入浴できると。
ユウヒの視線は白い肌と水色の布、主に肌に釘付けになった。ごくりと唾を飲み込んだユウヒはゆっくりと自分の目を手で覆った。
「なんで下着なの?」
「み、水着だよ!!」
赤面しながら訴えるヨルカは持っていたバケツをひっくり返してしまう。
これは余計な掃除が増えそうだ。
掃除ってめんどうだよね




