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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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ハートでの日常 2

雨好きです

「雨止まないね」


治療を終えたヨルカが屋根の外を覗いて呟いた。雨足はいっそう強くなり、待てば止むというようなものでもなかった。


ユウヒはというと、痛みが無くなった体を動かして、問題がないかどうか確かめている。


「どこか変だった?」


ユウヒの行動を見て、ヨルカは自身の治療にミスがあったのかと心配した。


「いや、治療は問題ないさ。そうじゃなくてこれは…」


ユウヒには、試験を終えてからずっと違和感が残っていた。それは体の痺れである。特に腕と胸のあたりに残っているようで、治療を施された今も少し感じるようだ。


クランベルの雷の影響なのだろうが、ヨルカの治療でも取り除けない事実がクランベルの高い実力を再認識させていた。


「痛みじゃなくて痺れが残ってるんだ。今日の試験の相手の影響だな」


ヨルカは「もしかして」と呟き、さらに続けた。


「光の特徴かも」


「なにそれ知らない」


即答されたヨルカは少しうなだれた。能力の記述のある書物はレオルのもとに多くあったし、ユウヒがそれを見る機会は十分にあったはずだが、この様子である。


「お師匠泣いてるよ」


「なんでさ」


本当にわからないといった様子のユウヒは眠くなってきたのかあくびをしている。


「えっとね、光はとても強くて消えにくいの。その痺れが光由来のものなら、私の力で除去しきれなかったのも納得だよ」


「じゃあ俺ずっとこのままなの?」


その問いにヨルカはゆっくりと首を振る。


「どんなに強力なものでも匂いと同じで、洗ったり上書きすれば消えるはずだよ」


「上書き…、能力使い続ければ消えるってことか。…洗う?」


能力は服についた匂いや汚れとはワケが違う。それを洗うとはどういうことだろうとユウヒは思った。


「他人の能力の特性なんかで身体に異常が出るのはね、その魔力が身体に馴染んでないってことなの。水や食料は魔力の源でもあるから、それらを取り入れると余分なモノが外に出ていくの。洗うっていうのは入浴のことだね」


「なんか魔力って老廃物みたいだな」


「多分この話もお師匠がしてくれてたはずなんだけどなぁ」


話を聞いた後でユウヒは立ち上がり、何か閃いたように雨の降る空を見上げた。


何を閃いたのか、ヨルカはそもそもなぜユウヒが立ち上がったのかも分からなかった。


「なあヨルカ、入浴で余分な魔力が外に出るのは、水分が身体に付着することで起きる効果なんだろな」


ヨルカは少し考えて、概ねその通りだろうと首を縦に振った。


「ヨルカ、この大量の雨を浴びたらすぐに痺れがとれると思わないか?」


その時のユウヒの顔は、何かとんでもない大発見をしたというようなものであった。しかし、そんな頭の悪い発言を心の底から真面目にしているユウヒに、ヨルカは力が抜けた。


「なんでえ?」


絞り出した言葉は純粋な疑問であり、その言葉は力なく震えていた。


今にも飛び出していきそうなユウヒの服の裾を掴んで説得を試みる。


「か、風邪ひいちゃうよ。何もしなくたって2日もあれば痺れはとれるし、熱出したら結局同じ時間かかっちゃうって」


ヨルカの顔は困惑の二文字。それを見てようやく自分が馬鹿馬鹿しいことを口走っていることに気付いたユウヒは10秒ほど固まり、そして、静かに座り直した。


落ち着きを取り戻したと判断したヨルカは、安堵して服から手を離した。


それからしばらく雑談をしていた2人であったが、試験の疲れもあってか眠ってしまった。


雨の音とお互いの存在が心地よかったのだろうか。互いに体を預けて静かに眠る2人が目を覚ましたのは、街灯に明かりが灯り始めた頃だった。


ハートの街灯は長い柱に四角形の透明な箱が吊るされて出来ている。


夜になると一斉に魔力が通され、密閉された透明な四角形の空間に光の雷属性の小さな玉が射出される。


密閉空間に閉じ込められた魔力の玉は自然に消えることなく、絶えずその空間を反射し、辺りを照らしている。


自然に消えないので魔力を通し続ける必要がなく、少ない魔力で運用ができる。


運営はハートの中心街にて行われているが、詳しい場所は知られていないようだ。


当然、ユウヒたちはそんな技術がハートにあることなど知らないので、目覚めた時に明かりのついた街灯を見て


「こんな雨の中でも明かりつけに来てくれるんだ。ハートってすごいなぁ」


と感動していた。


雨の勢いは弱まり、多少濡れても大丈夫なくらい小雨になっていた。


ユウヒは隣で寝ているヨルカの肩をそっと揺らして起こした。


「うぅ、ふきゅ」


謎の言語を発しながら起きたヨルカはまだ意識がはっきりしてないようだ。


口からヨダレが垂れていたので、ユウヒが袖で拭ってやる。


徐々に覚醒したヨルカは恥ずかしそうにユウヒに聞く。


「ヨダレとか出てなかった?」


よそよそしさすら感じるヨルカにユウヒは思わず笑った。


その様子に、恥ずかしさで顔を赤らめるヨルカは顔を見られまいと、ユウヒの服に顔をうずめて隠そうとしている。


「まあ落ち着けよ。まだ何も言ってないじゃないか?」


ユウヒの言葉に、ヨルカがピタリと動きを止める。


「じゃ、じゃあ?」


ユウヒはもう子供ではない。女性が恥ずかしさを感じていたなら、優しくフォローするだけの紳士らしさを兼ね備えていてよい年齢である。


「めっちゃ垂れてたぞ、ヨダレ」


ただし、紳士らしさは年齢と共に身につくものではないことを彼の満面の笑みが示している。




魔力はエネルギー、資源ですね。

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