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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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騎士団認定試験 4

ぼくクランベル好きかもしれないです

 全力をもって殴ったユウヒは今度こそ倒れこんでしまった。光の槍を食らった後に無理やり動かしていた体は、灰状態によって酷使され、今度は指一本動かせなかった。


(やばい…、これで倒せてなかったらどうする?立てないぞ)


殴り飛ばされたクランベルは訓練場の端の方で倒れている。やがて、ゆっくりと立ち上がるクランベルは多少ふらついたものの、問題なくこちらへ歩いてくる。


「まじか…」


ユウヒは今度こそ負けたと思った。ため息をついて天井を見上げる。なんとなく自分の意識が遠のく感覚を覚えた。


しかし、クランベルからは意外な言葉が出てきた。


「見事だったよユウヒ。負の状態での戦闘は手放しに褒められるものではないが、君は自身の力を示した。誇りたまえ」


そう言いながら、クランベルは自身が持つ木刀を見せた。木刀は持ち上げられた瞬間に中ほどから折れ、武器としての機能を失ってしまった。


この試験の合格条件である木刀の破壊、それをユウヒは達成していた。


「…」


唖然とするユウヒをよそに、クランベルは満足そうであった。倒れているユウヒの横にしゃがみ込むとゆっくりと起き上がらせる。


「君のように負の状態で戦う者は深潜者(ディーパー)と呼ばれている。騎士団ではあまり好かれない者たちだが、私は君を認めよう。合格だ」


ユウヒは安堵したのち、少し悔しそうにする。


「木刀を折っただけです。合格点ギリギリなのは悔しいです」


もしこれが本気の勝負なら、先に動けなくなったユウヒは誰が見ても負けていたと言わざるを得なかった。


ユウヒの体はいまだ灰状態であり、絶えず体が焼けていく。それを見たクランベルは助言する。


「その悔しさは忘れるな。それと、ゆっくり深呼吸して。酸素を全身に巡らせるイメージだ」


突然そんなことを言われたユウヒは驚いたが、すぐに言われたとおりに深呼吸し、何とかクランベルの言うようにイメージしてみた。ゆっくりゆっくり、ユウヒを灼く炎は収まっていった。


「すごい。いつもより早く収まった」


普段のユウヒは、灰状態は自然に治まるものだと信じ、長い時間、痛みに耐える必要があった。こんな簡単なことで治まるとは信じがたかっただろう。


なぜこんなことを知っているのか?そう聞こうとクランベルの顔を見た。そんな意思を感じ取ってか、クランベルが口を開いた。


「昔私も苦労したからな。負の状態は陥るのは簡単だが、脱するのは難しいからな」


「それってつまり…」


「私も深潜者なんだ」


ユウヒは今日一番驚いただろう。この試験で闘ったクランベルは実力の半分も出していたか怪しかったのだから。


騎士団では不必要に命を危険に晒してはいけない。だから、クランベルが負の状態で戦う機会は騎士団ではなかっただろう。


故に、仮にユウヒとの戦いで彼が負の状態に陥ったとしても、正の状態同様かそれ以上に脅威だったかは分からない。それでも、


ユウヒは、疲労とは違う脱力感を味わった。






時間は流れ、諸々の検査を終えて、ユウヒは騎士団本部のロビーで座って呆けていた。手当されたユウヒはあちこちに包帯やらを巻いており、近くを通る団員たちがちらりと見ていく。


しばらくすると、知った顔の人間が声をかけてきた。


「ユウヒ大丈夫?」


心配そうにヨルカが顔を覗き込んできた。


「ああ…ヨルカか。そっちは終わったのか?」



ユウヒとヤイチはヨルカよりも先に試験に向かったため、彼女の動向に関して全く分かっていなかった。ヨルカは胸に書類を抱えていた。おそらく彼女の試験は無事に済んだのだろう。


「うん。能力を使用する試験があって、医療で充分役立つことが証明できたの。この先応援要請とか来るみたいだよ?」


「そうか…」


ヨルカの能力は正直に言って優秀だ。同系統の能力者が見ればそれはすぐにわかるはずだ。だから、騎士団に頼りにされる機会は多いだろうとユウヒは思った。


深いため息をついて、ユウヒは立ち上がった。


「そろそろ俺も結果出たと思うから行くよ」


「うん。ユウヒなら大丈夫だよ」


励まされたユウヒは軽く笑うと、受付の方へと歩いて行った。


受付に着くよりも前にユウヒは声を掛けられ、そちらを振り向いた。そこにはクランベルが立っていた。クランベルは手招きし、ユウヒはそちらに向かっていった。


「クランベル…隊長。何か用が?」


「隊長はつけなくていいさ。いやね、君がなぜこの試験に挑戦したのか聞いていなかったと思ってね」


「副団長から聞いていたんじゃ?」


「ああ。面白いのがいたってね。それだけさ。私が知りたいのは理由だよ」


騎士団に所属せずに力を行使できるようになるためのこの試験であるが、ただ力を示せばよいというわけではない。


信用するに足る理由も重要である。ユウヒに関していえば、副団長の言葉によってある程度の保証がされていた。が、だからといって、不明瞭でもよいというわけでもない。


ユウヒは短く息を吐いた。


その後、自分の母親が「月」の関係者だったらしいこと、「月」の人間に殺されたことを伝えた。


「俺は、なんで母さんが殺されたのか知らなくちゃいけない。アイツらを追いかければ何かわかるかもしれないんです」


クランベルは何かを言おうと口を開いた。しかし、言うはずの言葉を押し込めて、別の言葉を伝えた。


「辛い旅路だな」


その表情は微笑みではあったが、憐れみと同情が混在していたように思えた。

ヤイチは座学してます

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