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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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騎士団認定試験 3

暑いよ

 光の槍に貫かれたユウヒはその場に膝から崩れ落ちた。全身が硬直し、指一本も動かせない状況の中で、目だけはクランベルを捉えていた。


「素晴らしい精神力だ。かなりの威力だったはずだが、まだ意識と戦意を保っている。精神面でなら君に合格を出せるな」


クランベルはそう言うと、記録係に声をかけた。試験は終わりだという旨が伝えられたであろうことはすぐに分かった。


当然、ユウヒがそれに納得するはずはなかった。全身の魔力を右腕に集め、祈るような思いで腕を動かそうとする。


それに気づいたクランベルが木刀を構える。


「やめておきたまえ。無理に動かしても勝機はないし、たった一発放ったところで君の合否は変わらない」


聞く気はないとばかりに徐々にユウヒの腕が持ち上がる。やがてユウヒの口が動くようになり、ぽつりぽつりと言葉を発した。


「一発じゃ…ない。こっからが…勝負」


言い終えると、全魔力を込めた炎の塊が放たれた。その凄まじい威力にユウヒは吹き飛ばされ、記録係は安全な場所まで逃げだした。


ただ一人、クランベルだけがその炎と向かい合っていた。


「往生際が悪いのは個人的には好印象だし、威力も中々だ。だが、相手は私だぞ?」


雷が木刀を包み、それはもはや木刀ではなく一流の剣のようだ。それを構えたクランベルは迷わずに真正面から炎に斬りかかる。


接触した場所から四方に炎が飛び散り、訓練場のあちこちを焦がしていく。クランベルは表情を一切変えずに、剣を握る腕に力を込めた。


光の剣は炎の塊を断ち、形を保てなくなった炎の塊は爆発しながら周囲をさらに焦がした。爆発の煙の中、クランベルはゆっくりと歩く。


「さあ、もういいだろう。実力もやる気も中々だったが、合格をやれるほどでは…」


ユウヒが飛ばされた方へ向かっていたはずだが、そこに彼はいなかった。次の瞬間、何者かが背後にいる気配を感じた。厳密にいえば殺気に気付いたのだ。


とっさに振り向き、剣で防御する。殺気の正体はやはりユウヒであったが、魔力を使い切り、あれだけ消耗していた男がこれだけ動けたことにクランベルは動揺した。


動揺のせいか、剣を握る腕の力が一瞬抜けてしまった。と同時に、ユウヒの拳が叩きつけられる。一番最初に喰らったユウヒの攻撃よりも格段に威力が高く、防御しきれなかったクランベルは先ほどのユウヒのように吹き飛んだ。


訓練場の壁に激突したクランベルは、衝撃で剣を落としてしまう。主の手から離れた剣は光を失い、元の木刀の姿を取り戻した。


「なるほど…灰状態は盲点だった。…その状態で闘える者は少ないからな」


ゆっくりと立ち上がり、落とした木刀を拾う。


「こっからが本番…」


力強い一撃を繰り出したユウヒだったが、体はふらついている。なんとか戦闘の体勢を整え、攻撃の準備をしている。


「試験は続行だ。私も気を引き締めるとしよう」


木刀を握りしめ、再び力を注ぐ。先ほど同様の光の剣が完成し、こちらも攻撃の準備をする。


数秒の静寂。記録係の呼吸が遠くで聞こえるほどに静まり返った訓練場であったが、その空気は重く、息が詰まる様であった。


それを断ち切るように、ユウヒとクランベルが踏み込んだ。まったく同時に動いた彼らの速度はほぼ互角。繰り出した拳と振り下ろされた剣がぶつかりあい、あまりの衝撃にその場が強く揺れた。


ユウヒが力を込めれば込めるほど体中が焼け焦げていく。


「その力、ただ鍛錬しただけじゃ使えないだろう?命に関わってくる力だ。なんて…」


なんて覚悟だ。と言いかけて言葉を飲み込んだ。クランベルはユウヒの覚悟を褒めようとした。しかし、それは同時に負の状態で戦う者を、命を簡単に懸ける戦い方を肯定することになる。


騎士団の人間は時に危険をかえりみずに行動しなければならない。だが、積極的に危険に陥ることを良しとはしていないのだ。


騎士団の人材は貴重であり、その中でも部隊を率いるクランベルにとっては、負の状態は簡単に認められないものなのだ。


「くっそ…、押し勝てない」


(正の状態で負けるなら納得できるけど、灰状態は切り札だぞ!?どんだけ強いんだこの人!!)


「君が本気をいまになって出したように、こちらも力を加減していたのだよ」


「まだ余裕ってことかよ!?」


剣で薙ぎ払われたユウヒは宙を舞って着地する。と同時に、次の攻撃を仕掛ける。今度もクランベルの死角からの攻撃であったが、完璧に防がれてしまった。


そんな攻防が続き、クランベルにも疲れが見えてきた。ユウヒの攻撃を確実に防いでいるが、威力を殺しきれずに後ずさってしまう。


(もう少しで崩せる!でも、こっちもそろそろキツイぞ)


「うむ。私も攻撃に転じるべきかな」


二人の距離が離れた時、クランベルは片腕を上げ、そこに集まった雷が槍の形を形成していく。それは紛れもなくユウヒを貫いた光の槍であり、それを確認したユウヒは瞬時に身構えた。


(あの槍はとんでもなく速い。ただ撃たれるのを待つだけじゃ、避けるのも防ぐのも難しい。なら…)


ユウヒはまっすぐにクランベルに向かって走り出した。


(なるほど、自ら向かってくることでこちらの撃ちたいタイミングをずらそうということか)


「だが!それで君が対応できるかどうかは別の話だろう!?」


走ってくるユウヒの右足が地面に接した瞬間、その槍は放たれた。それは地面と平行に放たれ、ユウヒの胸に向かって飛んでいく。


直撃の瞬間、ユウヒは上体を思いきり後ろに反らし、地面に倒れこむことで槍を躱した。倒れて止まるかと思いきや、体をぐるりと回して起き上がると、一気に距離を詰めた。


(これはさすがに…!!)


槍を投げた体勢のクランベルの懐にはすでにユウヒが潜り込んでいた。剣を無理やり体の前に挟み込み、攻撃を防ごうとする。


「う…らあああああああ!!!!!」


ユウヒの渾身の拳は、充分な防御が整っていない剣に思いきり刺さった。無理やり防御の姿勢をとったクランベルの体は軋む。


「ぐっ…、見事だ」


ユウヒは初めて、クランベルを剣ごと殴り飛ばすことに成功したのだった。

溶けたら冷蔵庫の中で過ごしたい

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