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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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騎士団認定試験 2

しばらくヤイチは出てこないかも?

「なあユウヒ、お前の心配は分かるけど切り替えろよ」


ヨルカは、医療分野での協力者として適性があるとされ、門番から紹介状を書いてもらった。それが書き終わるころには、ヤイチ、ユウヒの書類に対しての返答を書いた書類を咥えて、例の鳥が戻ってきていた。


二人の通行は無事許可され、こうして二人並んで協会本部へ歩いていた。ヨルカはというと、先ほどのユウヒたちと同じように、門番からの紹介状が受理されるのを待っていた。


二人はヨルカと一旦別れ、予定通りに試験へと向かっていた。


「わかってる。絶対安全な場所なんて無いし、誰しもが大なり小なり危険に晒される世の中になりつつある。…でも、それでも…」


そこまで言って、ユウヒは頭をクシャクシャにしてから走って行ってしまった。


「難儀な奴だなまったく」


ユウヒの後を追うようにヤイチも軽く走っていった。








ユウヒとヤイチでは、行われる試験の内容に違いがあった。ヤイチは基礎体力試験を行った後に入団が認められ、騎士団員となった後に多くの訓練、研修が行われる。


対して、能力使用免許発行試験、ユウヒが受けるこの試験はより厳しいものとなっていた。基礎体力試験、戦闘試験、各種審査、これらを経て仮免許の取得となる。そして、騎士団の任務に同行して問題が無ければ免許取得となる。


体力試験では、一周およそ5バロットもある本部の周りを一時間で何周できるかというものだった。正確には、何バロット走ったのかを細かく記録するのだが、ユウヒは19バロット、ヤイチは20バロットを走った。


記録係によれば、走っている最中ずっと言い争いをしていたらしい。後半、徐々に離れていく背中に向かってユウヒは騒ぎ続けていたが、それだけ元気ならば頑張って追いつけたのではないかと思ったらしい。





基礎体力試験を終えたユウヒは戦闘訓練場へと案内された。土を敷き詰めて均されたこの場所では普段、団員たちによる模擬戦が行われている。


「ヌスの闘技場より狭いかな」


ユウヒは感想を呟いた。しばらく待っていると、先ほどの記録係が入ってきた。


「あんたが戦闘試験の相手?」


「まさか。私はただ記録するだけさ。君の相手はえーと…」


首を振って否定した後、手元の資料をめくり始めた。今日の段取りのすべてが書かれているのかもしれない。


「あー、なんというか、頑張れよ」


資料を確認し終えた記録係は、目をそらしながらユウヒを励ました。それが何を意味するのかは分からなかったが、ユウヒは純粋に応援されている気分にはならなかった。


ほどなくして、試験開始の時間となった。訓練場の入り口から一人の男が現れ、まっすぐこちらに向かってきた。


「彼が、カイナ副団長の手紙をもって受験しに来た男か」


その男は歩きながら記録係へ聞いた。記録係は緊張しながら、「はい」とだけ答えた。その様子から、それなりに立場が上の人なのだろうとユウヒは想像した。


「私は、クランベル隊隊長のクランベルだ。君のことは副団長から聞いている。今日はよろしく頼む」


「隊長?あぁ」


さっきの記録係の緊張はそういう意味だったのか。ユウヒはそれを理解して、記録係を一瞥した。


「それで、具体的に戦闘試験って何をするんです?」


「簡単だ。私と君が闘う。その様子を記録係の彼が見る。適当なところで彼が止めるから、最初から全力できたまえ。出し惜しんで後悔はしないようにね」


「むっ」


ユウヒは、自分が苛立ちを覚えたことに気付いた。自分は強い。絶対に負けない。そう思っているからこそ、クランベルからも同じような思いを感じ取り、苛立ったのだ。


「そ、それじゃあ始めますから、位置についてください。試験ではクランベル様は木刀を使用します。十分だと思ったらこちらで止めますが、もしも君が木刀を折ることが出来たら、その時点で試験終了とします。能力の使用はもちろん許します。降参も認められています」


係の言葉を、所定の位置に向かいながら聞いていたユウヒは、木刀を折ることを考えていた。それ自体はあまり難しくはない。問題は、()()()()()()木刀をどうやって折るかであった。


彼は自らを隊長だと名乗った。ユウヒは隊長という肩書が、騎士団の中でどれだけの価値があるかを知らない。それだけでは彼の強さを測れないということだ。


だが、こうして相対したとき、ユウヒは確信した。このクランベルという男は間違いなく強いと。所定の位置についた二人の距離はだいたい30ティバロットほどだ。だが、クランベルは一瞬で首を刺しに詰めることが出来る、そう感じたのだ。



クランベルの装いは軽く、騎士団だと言われなければ分からないほどだ。右足にだけ防具を装備しており、それ以外は一般人と変わらなかった。


彼は右足を前に出して、姿勢を低くすると、腰に差している木刀に手を添えた。その光景を見て、ユウヒも構える。


「…」


「…」


互いに集中力を高め、思いきり息を吐く。ユウヒはクランベルよりも早く息を吐き終えた。しかし、呼吸しなおすことは無く、そのまま息を止めていた。クランベルが息を吐き終わるのを聞き逃さないためだ。


ほどなくしてクランベルも息を止めた。沈黙が訪れたが、この空間にピリピリとした静電気のような緊張感が走った。


「始め!」


記録係のやや上擦った声で試験開始が告げられ、その瞬間にユウヒの体が宙を舞って吹き飛んでいた。


(速っ!!)


タイミングを合わせていたユウヒは防御を何とか間に合わせた。しかし、攻撃を防ぐために出した両腕はビリビリと痺れ、地面に落ちる時に受け身をとることが出来なかった。


地面に強く叩きつけられたユウヒは、衝撃で意識が揺らいだが、なんとか起き上がって次に備えた。備えると同時に、光の衝撃波が飛んできた。防御は間に合わず、その攻撃をもろに喰らってしまう。


先ほどとは比にならないほどの痺れが体中に走る。そこでユウヒは、クランベルの扱う力が雷であることに気付いた。


「最初の攻撃は防御されることは分かっていた。君の目を見れば、その警戒がこちらまで伝わってきたからね。だから一発目でその防御を完璧に崩し、二発目に本命をぶつけさせてもらった。だが、君は頑丈だね」


彼らの闘いは、記録係の号令よりも前に始まっていた。クランベルの構えを見て警戒したユウヒは、完全に対応できたと最初思っただろう。だが、実際にはユウヒが警戒した時点でクランベルの二発目までは決まっていたのかもしれない。


クランベル隊は、騎士団の中でも戦闘経験が豊富で、その隊長を務めるクランベルはカイナにも引けを取らない実力者である。ユウヒとは場数が違ったのだ。


戦闘開始から5秒ほどでユウヒは全身に傷を負い、力なく立っていた。


ユウヒの体は、自身の力の都合上、痛みに対して耐性があった。しかし、隊長ほどの実力の持ち主から力のこもった攻撃を立て続けに二度も受け、そのあまりの痛みにユウヒは数秒ほど動けなかった。


(意識が飛ぶかと思った。速いのはもちろん、本当に痛い。てか、そっちから来るんかい!)


先ほどのクランベルの言葉を思い出し、ユウヒは舌打ちした。


クランベルは自身の所定の位置ではなく、ユウヒの最初の位置に立っていた。ユウヒが受けた一回目の攻撃は、彼が木刀によって直接切りつけたものであった。つまり彼の言う本命とは雷の力であるが、腕に受けた一撃由来の痺れをいまだに感じているユウヒは、それが本命と遜色ない威力であったことに恐怖した。


「顔色が悪いね。降参するかい?」


無表情のままでクランベルは提案した。しかし、提案した直後にユウヒが勢いよく突っ込んできた。


「っ!?」


虚を突かれたように歯を食いしばるクランベル。顔面に飛んできた拳をギリギリのところで木刀で受け止める。


「防ぐかよ!?」


自分の攻撃が通ることを確信していたユウヒは、クランベルの反応の速さに驚愕した。ユウヒは手を自分の後方に向けて炎を噴射することで、素早く前方に移動することが出来た。今回の攻撃もそれを利用したものであったが、「速さ」においてはクランベルのほうが圧倒的に勝っていた。


木刀に触れている方とは逆の手でクランベルに向かって炎を吐く。その隙に大きく距離をとり、体勢を整えようとしたユウヒだったが、一呼吸もさせんとばかりに雷が襲ってきた。


なんとか炎の壁を作り攻撃を防いだが、炎と雷の衝突で爆発。ユウヒの視界は舞い上げられた砂と埃によって遮られてしまった。


「ゴホッ、目に入った、くそ」


片目でクランベルの攻撃を警戒するが、姿すら捉えられない。砂埃の中から抜け出そうと一歩踏み出した刹那、その砂埃を切り裂く一本の道が現れた。


その瞬間、ユウヒは大きく目を見開いた。それは道が現れたことへの安堵でも驚きでもなかった。なぜならそれは道などではなく、光の槍であったからだ。それが現れた瞬間、ユウヒは危険だと分かったが、分かったときにはもうその槍はユウヒを貫いていた。

当たり前のようにkmを使うつもりでしたが、距離の単位を創りました。バロットはキロメートル、ティバロットはメートルと同じだと思ってください。

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