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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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騎士団認定試験 1

騎士団協会本部。ハートの中心に建つそれは象徴であり、街づくりの基準でもある。ハートの主要な道は全てこの協会本部から伸びており、騎士団が街を巡りやすいように出来ている。


しかしながら、その主要道のうちハブック通りだけは、毎年増える人口の影響でその機能を失いつつある。


ユウヒたちの宿泊した宿は残りの主要道の一つ、ガーバム通りの近くに位置している。そこは人通りこそ多いものの屋台が存在せず、ハブック通りよりも比較的歩きやすくなっている。


三人が横並びに歩けるほど余裕のある道は石畳でできており、遠くの方までしっかり整備されているようだ。宿のあたりからでもわかるくらい協会本部の建物は大きく、これからそこに向かうのだと思うと、ヨルカは緊張を覚えてしまう。だが、試験を受ける当の本人たちはそういったものを全く感じさせず、いつものように、時折二人でにらみ合っていた。


30分ほど歩いてようやく協会本部の入り口が見えてきた。入り口には門番であろう二人の騎士が立っており、三人が近づくと、道を遮るように話しかけてきた。


「ここから先は関係者しか入れない。観光客なら引き返したまえ」


高圧的ではない彼の物言いは、人々を混乱させないように配慮されたものだろう。ユウヒとヤイチはそれぞれ、カイナの手紙とヌスの長の紹介状を取り出すと、内容が見えるように門番へ手渡した。


「志願者だったか。少し時間をいただこう。上に確認しなければな」


そう言うと、いつの間にか騎士の傍にいた鳥に二通の手紙を咥えさせた。その鳥は騎士団の印の入った布を巻かれていて、手紙を咥えると飛んで行ってしまった。


「あいつが本部に届けてくれるんだ。そんなに時間はかからないだろうから、そこで座って待っているといい」


指をさされた方に長椅子がいくつか置かれていた。ヤイチとユウヒはそちらに向かっていったが、ヨルカは気になることがある様で、門番に話しかけていた。


「あの、私もここを通ってもいいですか?」


ヨルカは二人と違って、ここを通るために用意した書類などはなかった。門番は少し考えると、本部の方を向いて話した。


「君は騎士団に入団しに来たわけじゃないんだろう?あの二人の付き添いだろうと、我々からしたら観光客とみなすしかない」


観光客というのはまだ優しい言い方かもしれない。もっと直接的に言えば、身分の不確かな人間を通すことはできないということだ。


「そう…ですよね。ごめんなさい」


ヨルカは落ち込んで、ユウヒたちのいる長椅子の方へと向かい始めた。


「あー、待ちなさい」


そんな彼女を門番は呼び止めた。ヨルカは不思議そうに振り向く。


「君、なにか特技はあるか?できれば我々の役に立ちそうなもので」


突然そんなことを言われたヨルカは「えっと」というように混乱していた。あたふたしているとヤイチが駆け寄ってきた。


「ヨルカは人を癒すことが出来ます。傷とか…心も」


「ヤイチ…」


それを聞いた門番は目を丸くした。


「君、医療の心得があるのか!?」


ハートの人口は年々増加の傾向にある。それはただ住む人が増えただけでなく、騎士団員も増加していることを表していた。


「月」が活動を活発にしたことで彼らの戦闘行為は増す一方であった。だが、怪我人に対して医療を施せる人員は圧倒的に不足していたために、ヤイチの言葉は門番を惹きつけた。


「もし君に騎士団を支援する意思があるのなら、私が紹介状を書いてもいい」


それはつまり、今すぐ協会本部への来訪を許可することであると同時に、騎士団の人間になれというようにも聞こえた。少なくともユウヒはそう捉えた。


「待った。それは、場合によってはヨルカが戦場で団員を治療することもあるってことか?」


駆け寄りながらユウヒが口をはさんだ。騎士団にヨルカが関われば、彼女を危険に晒してしまうかもしれない。それは避けねばならないことだった。


「もしも騎士団の医療班に所属したならそういうこともあり得るだろう。だが、現在の騎士団は外部の医療従事者たちに適宜協力を仰ぐ形が多い。それだけ内部の医療班が人手不足だということだが…。彼女にそれだけの力があったとしても我々の意思で彼女を医療班に所属させることは無い。必要な時に協力者たりえる人材を増やすことが目的なんだ」


「だとしてもやっぱり、ヨルカを危険に晒す可能性は低くないじゃないか」


ユウヒの言葉に熱がこもる。そして、そんなユウヒの肩にヨルカがそっと手を置く。


「ヌスでの事件を思い出して。危険が全くない場所なんて無いわ」


その言葉はユウヒに深く刺さった。以前、ヨルカが「月」に狙われる可能性があることをヤイチと話した。ヤイチもユウヒも騎士団に協力していくのなら、彼女を傍で守れない状況はきっとある。


その時、ヨルカが騎士団の協力者だったなら危険はむしろ低くなるのかもしれない。結果は分からない。だからユウヒは言うべき言葉が見つからなかった。


「お前の気持ちはよくわかるよ。でも、ヨルカは人のために何かしたいんだ。これはヨルカのやりたいことなんだよ」


ヤイチが珍しくユウヒに寄り添うように語りかける。そんなヤイチに視線を向け、そのあとヨルカを見た。ヨルカの目には不安こそあったが、この場を乗り切るためだけに無茶苦茶言っているわけじゃないことは痛いほど分かった。


「ユウヒは私を守ってくれるって言ったけど、ただ守られるだけなのは辛いよ。二人に何かあったときにすぐ駆け付けられる場所に私もいたい」


ヨルカの言葉に、ユウヒは今度こそ言葉が出なかった。彼女を止めようと考えていた言葉のすべてを飲み込んで、黙ってうなずくことしかできなかった。



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