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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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星空を灯す都 2

呼吸面倒だから、酸素には体に常駐していてほしい

 合流できたことで気が抜けたのか、三人の足は急激に動かなくなってしまった。展望台にたどり着いた彼らは、街の夜景が一望できるように設置されていた椅子に座ると、疲労のすべてを吐き出すように深いため息をついた。


しかしながら、そんなことをしても当然疲れが消えることは無く、むしろ強まる疲労感に三人は無言になってしまう。


そんな中、せっかく展望台に来たのだから景色を楽しまないともったいないと感じたヨルカは何とか立ち上がると、落下防止の柵に近寄る。街を見下ろすと、さっき見た空よりも輝いているのではないかと思えるほど、あちこち光る灯りが街を彩っていた。


「綺麗だわ」


ヨルカの声に反応してヤイチも駆け寄る。ヨルカに肩を寄せて密着するヤイチは少し嬉しそうだ。


「ヨ、ヨルカも負けないくらい綺麗だよ」


ヤイチが照れながら褒める。言われたヨルカも少し照れながら「ありがとう」と返すが、ヤイチは顔を真っ赤にして視線を空に逃がした。それがおかしくて、ヨルカは笑った。


そのやり取りを見ていたユウヒはなんとなく機嫌が悪くなった。それを自覚したのか、落ち着くために深呼吸をする。立ち上がって呼吸を整えると、ヨルカの隣、ヤイチとは反対の方に近寄った。


ヤイチと違って、控えめに肩を近づけ、軽く触れるくらいの距離を保つ。


「たしかに綺麗だ」


「だよね」


ユウヒの言葉にすぐ反応するヨルカ。きっとヨルカはユウヒの言葉を、街への言葉だと捉えていただろう。


「…そうじゃないんだよなあ」


ボソッとユウヒがつぶやくが、それがヨルカに聞こえることは無かった。ヤイチだけがユウヒの言葉の意味を理解し、勝ち誇った顔を向けていた。


それが目に映った瞬間、ユウヒは苛立を感じてその場から離れた。


「そろそろ行こうぜ。なんとかして宿を探さないと」


本来であれば、この日のうちに騎士団を訪ねる予定であったユウヒたち。ヤイチは入団のため、ユウヒは力の使用の許可を得るためにそれぞれ試験に臨むはずであった。


レオルの話によれば、騎士団の団員および騎士団に認められた者は格安で家を借りることができるということだった。つまり、当初のユウヒたちの計画では、本日中に騎士団の試験を突破し、家を手に入れる予定であった。


だが実際は、食べ歩いてはぐれ、そこから合流するのに一日を使ってしまった。今からでは試験は受けられないので宿を探さなければならなかった。


「そうだな。だが、適当な宿を選ぶわけにはいかないぞ。ヨルカには快適に過ごしてもらわないと」


ヤイチが腰に手を当てて、これは譲れないとばかりに意見する。


「いや、試験受ける二人が過ごしやすい宿を選んだ方が良いわよ。私はどこでも大丈夫」


「そんなこと言ったらこの馬鹿が適当なところ選んじゃうんだよヨルカ。こいつはそれでもいいかもしれないけど、私たちは人間なんだからちゃんとしないと」


悲痛な表情でヨルカを抱き寄せるヤイチ。


「おい、その顔やめろ。おれも人間だぞ」


(なに抱擁してんだこいつぶっ飛ばすぞ)


(羨ましいんだろ?異性には難しいよなあ?見せつけてやるよ私とお前の差ってやつをよお!!)


ヤイチの腕に力が入り、先ほどよりも強くヨルカを抱く。


「そ、そんなに強く抱きしめられたら苦しいよ」


その光景が仲睦まじく見えたユウヒは握った拳に力が入った。嫉妬である。


三人は展望台を離れ、宿を探すために街へ戻った。街はいまだ活気に溢れているが、徐々にその賑わいは落ち着いてきた。露店の半分は店じまいの準備をし、酒を飲む客も、千鳥足で帰路に就く者が増えてきた。


この日はハートの外からの客がいつもより多かったのか、部屋の空いている宿は簡単には見つからなかった。


宿を探すこと一時間、丘の上に建つ年季の篭った宿にたどり着いた。建物は古く、街中にある宿と比べると見劣りはするが、街を見渡せるような立地のため、人は入っているようだ。


運良く二部屋借りることができた。ユウヒは一人部屋で、もう一部屋は二人用の少し広い部屋だそうだ。この二つの部屋は宿の東側と西側に位置していて、受付で鍵を受け取った後にユウヒは二人と別れた。


別れ際、ヤイチがニコニコしながらヨルカを引っ張っていったので、ユウヒはろくにヨルカと会話できなかった。


ユウヒは部屋に着くと、荷物を降ろしてベッドに腰かけた。一日の疲れがドッと溢れ、そのまま倒れこむ。このまま寝てしまおうかとも考えたが、考え直して起き上がる。


部屋の窓を開けると、先ほどの展望台ほどではないがハートの煌びやかな街を一望できた。


「おお」


思わず声が出て、そのまま見続けていた。


いまごろヨルカたちも見ているだろうか?そんなことを考えていると、一つ、また一つと街の明かりが消えていった。


こんな街でも眠るんだなあ、とユウヒは思った。そして、それに応じるようにユウヒはあくびをした。


なんだか、さきほどの賑やかな光よりも今の街のほうが綺麗なようにユウヒは感じた。なぜなのかと天を仰ぐと答えはすぐに出た。


「ああ、そうか」


まるで星の浮かぶ空を写す鏡のように存在するハートの街は神秘的とさえ思えて、そんな光景を最後にユウヒの記憶は途絶えた。


眠気が限界であったのだろうユウヒはベッドで眠ることなく、硬い床の上で夢に落ちていった。





ユウヒが気絶するように眠りについた頃、もう一方の部屋では夜景を楽しむ二人の姿があった。ユウヒの部屋と違って、ベッドに腰かけたまま窓の外を眺めることが出来る構造になっていた。


「この街、本当に綺麗だわ」


ヨルカはいつも通りの様子で景色を楽しんでいた。時折あくびをしていたが、ユウヒのように突然に眠ってしまうことは無いだろう。


そんなヨルカに対して、ヤイチは頬を赤らめ、緊張して落ち着かないようだ。


「よ、ヨルカ、この街は確かに綺麗に見えるけど油断しちゃいけない。この街が物騒になっているのは本当らしい。今日だって酔っぱらいに絡まれて大変だったんだ。でも、私がいれば大丈夫だから。きっとヨルカに迫る脅威を取り除いて見せるからね」


ヨルカをまっすぐ見れないヤイチは立ち上がり外に向かって決意を表す。ちらりとヨルカを見ると、面白そうに「ふふ」と笑っていた。


「そんなに緊張してたら明日の試験が心配だわ。ヤイチは強いんだから堂々としていてよ」


ヨルカは、ヤイチが騎士団の試験のことで緊張しているのだと思った。


「意外。ヤイチは緊張しないと思ってたもの。ヌスの時もそうだったし」


「私は…」


試験のことで緊張しているわけじゃないと言いたかったが、「じゃあ何に緊張しているの?」なんて聞かれれば、本心を言わなければならなくなる。


こんな緊張した状態で言えば、自分がどうなってしまうかヤイチは分からなかった。言葉を飲み込んでヨルカに向き合う。


「…もう寝ようか。たしかに少し緊張しているみたい」


「そっか」


そうして二人は大きめなベッドに並んで寝転がった。ヨルカが体をこちらに向けるので、恥ずかしくなってヤイチは背中を向けた。


横になると、不思議と眠くなってきた。先ほどまでの緊張がほぐれ、自分の心臓の鼓動が心地の良いリズムで鳴る。


「おやすみヨルカ」


「おやすみヤイチ」


二人は短い言葉を交わし、眠りにつく。だが、しばしの沈黙の後、ヤイチの背中にヨルカが迫ってきた。


「こうやって一緒に寝るのってなんだか緊張しちゃうわ」


耳元に囁くようにヨルカの声が聞こえた。今度こそ二人の間には静寂が訪れ、どちらも口を開くことは無かった。


(なんだいまの!?え?かわかわわわ)


ヤイチはこの日、一睡もできなかった。


ヤイチは一応ノンケのはず

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