星空を灯す都
肉は万人を潤す
「あの人とはどんな話をしたんだ?」
街へと戻る途中、ユウヒはあの白い女についてヨルカに聞いていた。
「ハートのこととか、私のこと。あとは、あの崖から見える景色のこととか。キゲツさん物知りだからとっても楽しかったわ」
「知らない人に自分のことをあまり話すなよ。不審者だったらどうしてたんだよ」
呆れながらも、楽しそうに話をするヨルカに語気を強くすることが出来なかった。ヨルカはユウヒの言葉に「ごめんごめん」と謝るが、その顔は楽しそうなままである。
「キゲツさん、不思議な雰囲気だったよね。何でも話したくなっちゃうような…魅力?みたいなもの感じちゃった」
「そうか?なんか底が知れなくて不気味さがあったぞ」
「不気味…とまでは思わなかったけど、近寄りがたさはあるかも。だけど話をしていると引き込まれちゃうの。不思議」
ユウヒの言葉に反応するヨルカは少し興奮気味である。ヨルカの興味の対象になっているキゲツに若干の嫉妬を感じたユウヒはつまらなそうにしている。
「やっぱ不審者だったんじゃ?誘拐されなくてよかった」
「悪い人には見えなかったよ?」
疑うことを知らないような、そんなまっすぐな瞳にユウヒは何も言えなくなった。少しの間、無言で道を歩く。さっきの噴水の水音はもう聞こえず、街の灯りが遠くでうっすら見えていた。
「ここはヌスとは違う。少しは疑わないと、大変なことになる…こともある」
ヨルカを傷つけないように言葉を選びながら、ユウヒは空を見ながら諭そうとした。そこには心配する意図が色濃く表れていて、ヨルカはそれが嬉しくて笑った。
二人はそのあともしばしば無言の時間を過ごしながらも、会話を楽しんで歩いていた。しばらくすると、自分たち以外の声が聞こえてきた。目をやると、中心街の賑わいがもう目の前に迫っていた。
通りには昼間のような出店だけでなく、バーやレストランが屋外用の椅子やテーブルを用意し、お客を迎えている。
漂う料理の匂いが、空腹の2人を満たすのに1分とかからなかった。休憩を挟むつもりではいたが、食事までしてしまえば、その後にヤイチを再び探すために立ち上がれる自信は2人には無かった。
もっとも、ユウヒはヤイチの心配などほぼしていないので、食事してしまってもよかったのだ。だが、ヨルカは空腹を堪えて街の人々に聞き込みをしている。
ユウヒはそんなヨルカを見て、ここにはいないヤイチにため息をつく。ヨルカが通行人との会話を終えたタイミングでユウヒが駆け寄る。
「場所を変えようぜ。ここは気が散る」
腹をぐぅと鳴らしながらユウヒが提案する。ヨルカはそんなユウヒに笑った後少し考えて返答する。
「そういえばまだ何も食べてなかったわね。歩きながら食べられるものを買っていきましょうか」
さすがのヨルカもとうとう耐えられなくなったようで、近くの屋台に向かって歩き出した。それはユウヒにとって願ってもないことで、目を輝かせながらヨルカの後をついて行った。
二人の目に留まったのは熱心に肉を焼く強面の店主で、屋台の表に書いてあるメニューのおすすめの品を二人分注文した。
大きく切り分けられた肉を炭火で豪快に焼いていく様は、見ているだけで二人の食欲を駆り立てた。やがて煙が立ち上り、その香ばしい香りに体内を満たされたユウヒはこぼれそうになるよだれを拭い、つばを飲み込む。
たっぷりのソースを塗った肉を柔らかなパンにはさみ、適当な大きさの紙で包んだ店主は二人を見てうっすら笑った。
手渡された品は紙をはさんでもその熱が伝わってきて、早く頬張りたいという気持ちに拍車をかける。
紙が口に当たらないように丁寧に包みを剥がし、二人は同時にかぶりついた。口にあふれる濃厚な肉汁、噛み応え抜群な分厚い肉、そこにアクセントとして加わるピリ辛いレモンソース、それらを同時に味わったとき、二人はこの店の虜になった。
「こんなに美味いのか。これがハートだってのか」
「昼に食べたものも美味しかったけど、これは別格かも…」
感動する二人を交互に見て満足した店主はどこからかジョッキを取り出し、おもむろに酒を注いだ。それを一息に口へ流し込むと、二人へ話しかけた。
「いつでも来な。ここは騎士団の団長も満足させた店だ」
その場でハンバーガーをすべて食べてしまった二人は、追加で一個購入し、それを半分に分けて二人で食べ歩くことにした。パブック通りを北へ向かうと、”展望台”と書かれた看板が見つかる。
坂を上り、通りの喧騒を遠くに感じられるようになったころ、ふと空を見上げたヨルカが「わぁ…」と声を上げた。
声につられて同じく見上げるユウヒも「すごいな」と感動を声に出していた。空には街に負けないくらいの星々がキラキラと散らばっていて、声も聞こえないのににぎやかに感じられた。
そんな星々の中を何かが横切っていった。最初に気付いたのはユウヒだった。鳥にしては大きいし、なにか意思を持って飛んでいるように見えたそれを、よく目を凝らして見てみる。
「…あんな高いところ飛べたのかよ」
呆れと驚きを混ぜた声を聞き、ヨルカはユウヒを向く。
「どうしたの?」
そう訊ねるヨルカに答えるように、”それ”を指す。ユウヒが示す方を向くと、何かが浮いているのが見えた。なんだか疲れたようにふらふら浮いているそれを凝視するヨルカはその正体に気付いた。
「えっ?ヤイチ??」
空を漂っていたそれは、二人のよく知っている人物であるヤイチその人であった。ヨルカは彼女に向かって大きく手を振って呼びかける。彼らの距離はそこそこ離れていたが、ヤイチは声の主にすぐ気づき、突風の如くこちらに突っ込んできた。
「ヨルカ!あぁ、無事でよかった。ヨルカほんと…」
無事を確かめるように強くヨルカを抱きしめたヤイチは数分間その体勢から動かなかった。その後、いつの間にか手に持っていたユウヒのハンバーガーを一口で食べてしまった。
自分の持っていたハンバーガーが手から消えていたことに遅れて気付いたユウヒが、口をもぐもぐさせているヤイチに当然キレた。
人のものを勝手に食べるヤイチも酷いが、半分の半分、四分の一ほどの大きさの食べかけを盗られて怒るユウヒも、大概酷いと思うヨルカであった。
短くて申し訳ない




