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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
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出会い 2

この物語の構想見ましたけど長いっすね。

ヨルカがキゲツと出会っていたころ、ヤイチは汗だくになりながらヨルカを探していた。街の正門まで戻り、ヨルカがいないことを確認すると、次は東の方へと向かった。


街は相変わらず賑わっており、人であふれる通りを速度を落とすことなく駆け抜けていく。あまりに軽やかに駆ける様は風のようで、常人が追いつくことは無理であろう。


そんなヤイチであったが、さすがに疲れたのだろう。一度立ち止まり、天を仰いで息を切らす。大量の汗が地に落ちる。


「ああ…くそ、体力無いな私は…」


自身の不甲斐なさを嘆くヤイチであったが、彼女が移動してきた距離はおよそ15バロット(15km)。それを一時間のうちに移動したのだ。十分に化け物じみた体力である。


酒場が立ち並ぶ道の真ん中で息を切らす彼女は、行きかう人々の視線を浴びていた。彼らはみな不思議そうにヤイチを見るが、数秒もした後は何事もなかったように過ぎ去っていった。


そんなヤイチを、面白そうに眺めていた人物がいた。


雨避け用の傘の下、簡素なテーブルに肘をつきながら酒を飲むその女は、店員に追加の酒を注文すると、ヤイチのところへと近寄ってきた。


「なあ姉ちゃん、いい鍛えっぷりだねえ。全身の筋肉に無駄がない。君に興味があるんだ。あたしとお茶しないかい?」


頬を赤らめる女は、口説くような口調で話しかけてきた。ヤイチは整えた呼吸を、今度はため息として吐き出した。


「酔っぱらいなら勘弁してくれ。人探しで忙しいんだよ。失せろ」


そう言いながらヤイチがこの場を離れようと歩き出した時だった。


「あれえ行っちゃうの?木刀は置いて行ってもいいのかい?」


酔っぱらいは木刀を持った右手を振ってヤイチへ呼びかけていた。


「は?」


ヤイチは反射的に腰へと手を当てた。そこにあったはずの木刀は、確かに酔っぱらいの手にあった。


挑発するように微笑んだ酔っぱらいは、先ほどまで酒を飲んでいたテーブルにゆっくりと歩いていく。テーブルの上には先ほど注文していた酒がすでに置かれていた。


「あんた、何者だよ」


ヤイチは、木刀を全く気取られずに奪った酔っぱらいを警戒していた。普段ならば、木刀を奪い返すために即座に動いていただろう。


しかし、ヤイチはこの得体のしれぬ者に不用意に近づくべきではないと判断した。その代わりに言葉を交わすことにしたのだ。


「そう警戒しなさんな。久しぶりにスジのいい奴に出会ったから逃がしたくないんだよ」


「スジがいい?」


「ああそうさ。姉ちゃん、風の能力者だろ」


「…」


「はあ、口もきいてくれなくなっちゃったな」


頭をポリポリと掻いて、酒をグイッと飲む。油断しているように見えるが、そこには全く隙が無いように思えた。


仕方なくヤイチはテーブルに近づき、酔っぱらいと向かい合う。


「ふふん。何か飲むかい?」


そう聞かれたが、何も答えずにただ酔っぱらいを睨むヤイチ。「やれやれ」と首を振ると、杯の最後の一滴を飲み干した。


「あんたの目的はなんだ?てかなんだあんたは?こっちは人探しで忙しい。ここで落ち着いてる場合じゃないんだよ」


急かすヤイチに、それでもマイペースに鼻歌を歌う酔っぱらい。


「まず、”あんた”なんて呼び方はやめてくれよ。あたしはスミレ。姉ちゃんは?」


スミレという名前を、ヤイチはどこかで聞いたことがあった。「スミレ…」とつぶやいてみるが、思い出すことはできなかった。


自分の名前を呟かれたスミレは「ん?」とヤイチの顔を覗き見る。ヤイチはハッとして、今度は自分の名前を教えた。


「ヤイチ。あんたの言う通り、風の能力者だ。そして今は大切な人とはぐれたから必死に探している」


「かわいい名前じゃないか。やはり君に出会えてよかった。あたしの名前をちゃんと呼んでくれないのは悲しいけどね」


「さて…」と言って、スミレは傘の下から出ていく。そのついでのように、木刀を投げ返してくる。


「もういいのか?」


用はもう済んだのか?そういった意味を含ませてヤイチは聞く。


「いやいや、ここからが本題さ。あたしだって、ただおしゃべりしたくて引き留めたわけじゃないさ。まあ、ただのおしゃべりでもいいんだがね」


ヤイチは首を傾げながら、スミレについて行った。道の真ん中まで来ると、スミレはヤイチの両肩を優しくつかみ、そのまま腰まで指を滑らせていった。


突然のことに動揺して、そしてそのくすぐったさに頬を赤らめるヤイチ。


「うむ、やっぱりヤイチはいいなあ」


にへら、と笑いながら話すスミレに悪寒がしたヤイチは、転びそうになりながらも一歩後ずさった。


「な、なななな何してんだ変態!」


「んん??顔が赤いね。もっとしてあげようか?」


そんな言葉に、とっさに両腕で体を抱いてしまうヤイチは、本気でおびえているようだ。


「冗談さー。君がどれほどの能力者か目だけでなく、手でも測りたかったのさ。」


「は、測る?」


「うん。ヤイチはかなり強いよ。でももったいないね」


「何が?」


「ヤイチはさ、風を使うことで高速移動しているよね?でも、風を体にぶつけた反動で移動するのは…30点てところかな」


「な!?」


馬鹿にしているのか?そう言いたげに詰め寄ろうとするヤイチに、右手で「待った」をかける。


「ヤイチに落ち度はないよ。普通の使い方をしてると思う。でも、あたしに捕まった以上は()()()()()()()()()()()()()()


凄まじくなる。その言葉はカイナにも言われた言葉。ヤイチの拳に力が入る。その様子を見て、スミレが続ける。


「ヤイチがさっきあんなに疲れていたのはね、半分は力の使い方のせいなんだよ。推進力にしていると言っても、風の塊をぶつけているんだ。体への負担は大きいはずだよ。」


「…ちなみにもう半分は?」


「それは体力。まあでもこれは、そのうち付いていくものだから今は気にしなーい」


「力の使い方については今直せるってことか?」


「それはヤイチ次第かな」


相変わらずへらへら笑うスミレは適当そうだ。そんなスミレにため息をつくヤイチだったが、「ただ…」

とスミレが口を開くと、すぐに耳を傾けた。


「もし直せたなら、大切な人はもっと早く見つかるだろうね」


「じゃあ聞こう」


即答であった。気持ちのいい返答に、スミレはさらに気分を上げた。


日は傾き、オレンジ色の空がスミレの顔を明るく染める。ヤイチが眩しそうに目を細めるが、すぐに慣れたのか、しっかりと目を開いてスミレを捉える。


「風は常に流れ続けるものだ。一か所に溜まるものでも、人の意思で溜められるものでもない。だから、あたしたち風使いも、風のようにあるべきだ。そうは思わないかい?」


嬉しそうに、それでいてさっきの酔っぱらっている時とも違う。そんな不思議な印象をヤイチは受けた。スミレの目に吸い寄せられるように意識が集中していき、気づくと優しい風がこちらに吹いてきた。


一瞬、ほんの一瞬であったが、ヤイチは自分自身が風になるような、自分が溶けていくようなそんな心地よさを感じた。


意識が引き戻され、その感覚をヤイチがしっかりと自覚したとき、スミレはまたへらへらと笑った。


「その感覚を忘れんな。最初から同化するのは難しいだろうから…そうだな、吹く風に自分を乗せる感覚で力を使うんだ。それが出来れば70点あげよう」


(まあ、ただの人間が言われた直後にすぐできるわけないんだけどね。ここで時間使ってもらって、ゆくゆくは大切な人とやらからヤイチを奪っちゃおう)


邪なたくらみを巡らせ笑い続けるスミレであったが、ちらっとヤイチを見た際、その笑顔は凍ったのだった。


「これは確かに楽だ」


ヤイチは上空に向かって吹く風に乗り、優雅に浮遊していた。そして、さらに東の方へと向かってそのまま飛んで行ってしまった。


依然として固まるスミレ。夕日も沈み、辺りに夜が訪れると、膝を崩してその場に座り込むのだった。


「天才かよ!!」


そう一言叫ぶと、泣きながら道路に拳を叩きつけるのであった。


「あたしに興味持ってよ!そんなに他の奴が大事なのかあ!」


尚も地面をたたき続けるが、突如ピタリと動きを止めた。何かを思い出したかのように空を見上げるスミレはボソリとつぶやく。


「あたしが()()だってこと、言い忘れてんじゃん」

ご飯がおいしい。

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