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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
34/63

The start of 2

ぼくは田舎者なので、都会にワクワクしちゃうのです。

 太陽が沈み、辺りには暗闇が訪れている。その闇の中で焚火の灯りだけがゆらゆらと揺れていた。


ユウヒはそんな炎の中へ、薪を放り投げた。放り込まれたことに驚いた焚火が一瞬燃え上がる。パチパチと音を立てる焚火を囲みながら、三人は先ほど捕まえた魔獣を調理して食べていた。


中々に大きな獣ではあったが、ユウヒとヤイチによってそのほとんどが胃袋へと消えた。


ソレイユの日記の通りに魔獣は美味であったらしく、三人は今日の食事に大変満足していた。


昼間はとても心地よく過ごせた平原であったが、夜はまだ冷えるようで、ヤイチとヨルカは毛布にくるまっている。


「ユウヒの上着いいよね。着ている人の体温に合わせて、常に一定の温度に保たれるんだっけ?お師匠はやっぱりすごいなあ」


ヨルカはユウヒのジャンバーに目を向けながら、師レオルの技術の高さに感心していた。


「あぁ、確かにすごいよ。…でもなぁ」


ユウヒはヨルカに同意しながらも、含みのある言い方をした。


ユウヒのジャンバーの左胸から前裾にかけて、まるでそこをキャンバスに見立てたように帽子をかぶった何者かが落書きされている。


いや、落書きというのには語弊がある。レオル本人はいたって真面目に自身の似顔絵を描いているのだから。


とまあ、上半身左にあるその落書きは19歳の青年が堂々と身に着けるには、さすがに年相応ではなかった。ユウヒはハートへ入った際に多少なりとも目立ってしまったらどうしようかと、心配をしていたようだ。


それならばいっそ脱いでしまえばいいのだろうが、機能性が充分なだけに脱ぎにくく、さらにはレオル本人から「間違いなくお前の助けになるから失くすな」と言われている。


脱いでどこかに落としてしまえば、レオルの怒りに触れるのは明白であったため、ユウヒは渋々着続けることにしているのだ。


「私は好きだけどなぁ。かわいいし、ハートの人たちも受け入れてくれるわよ」


ヨルカは心の底からそう思っているようで、その言葉に悪意は感じられない。こんな時に真っ先に何か言いそうなヤイチはえらく静かである。


ユウヒがヤイチのほうへと目を向けると、彼女の顔まで覆った毛布が規則正しく上下に揺れている。どうやらすでに二人の会話など聞こえてはいなかったらしい。


普段の騒がしい様子からは想像できないくらい静かで穏やかな姿は別人、いや、嵐の前の静けさであろうか。


そんなスヤスヤと眠りにつくヤイチを見て、ヨルカはあくびをした。


「私たちもそろそろ寝よっか。明日はいよいよハート。どんな素敵な街なのかしら」


楽しそうに向こうの空を見つめるヨルカの目はキラキラと輝きながらも、瞼をゆっくりと閉じている。


「そうだな。楽しみだよな。だからってそうはしゃぐなって」


ユウヒが薪を焚べながらヨルカを制す。


「ユウヒは寝ないの?」


「ああ、まだ眠くないからな。お前らが寝てる間の警備でもしているさ」


「そんな、獣避けの香は焚いてあるからそんなに気を張る必要ないのに」


野宿する際の必需品、獣避けの香。一度焚いたら100メートル圏内にほとんどの獣は寄り付かなくなるという優れものである。


「それはそうだけど、本当に眠くないんだよ。気にせずゆっくり休めよ」


穏やかな口調でヨルカに話すユウヒに、ヨルカもこくりと頷き、次の瞬間には深い眠りに落ちてしまった。


眠る2人の静かな呼吸。遠くに聞こえる虫たちの鳴く音。パチパチと弾ける炎。


それらに囲まれたユウヒは空を見上げて浅く息を吐いた。


そのあと、胸に下げている指輪を手に取る。


炎に照らされながら暗く光るそれは、熱に近いながらも、冷たい母親の記憶を呼び起こす。


一瞬、眉を顰めるユウヒであったが、深く息を吸い込み、空へと吐き出した。


その時見えた星々の煌めきがあまりに綺麗で、ユウヒは呼吸を少し忘れてしまった。


「父さんもこんな空を見たことがあったんかな」


月を追って、あちこちを旅していた父。きっと彼も、ユウヒ達と同じように野宿をしたこともあっただろう。


そんな父に、星を見て綺麗だと思える余裕があったのか、ユウヒはそんな疑問がふと浮かんだのだった。




翌日


昨日かそれ以上に澄んだ空には白い鳥が高く飛び、その行く先に希望すら感じてしまう。


そんな空を、目を細めながらユウヒは見ていた。


早朝の澄んだ空気は、まだ眠気の残る彼らの意識を確実に覚ましていった。


「この調子なら昼前には着きそうだね」


「着いたら何か美味しいものを食べよう。ハートには色んな国の食べ物が集まっているって聞いたことがある。騎士団の本部に向かう前に、そいつを楽しませてもらいたいな」


ユウヒとヤイチにはハートでの明確な目的があった。


ユウヒは、人に対して能力を使うことを騎士団に認めてもらうために、本部へ試験に向かわなければならない。


ヤイチも本部へ向かうのだが、こちらは正式に騎士団へ入団するための試験である。


ユウヒはこれまで、試されるといった経験が少なく、すこしばかり緊張している様子。対して、ヤイチはハートの食に目を向けるだけの余裕があった。


実際、ヤイチの実力はヌスでの剣の大会の時点で既に合格の基準を大きく超えていた。


そして、ヤイチはそれを直感的に理解していた。それゆえの余裕である。


だが、その余裕のせいか、若干の油断があるのは事実としてあるのだが。


そうして歩いていると、遠くにうっすら門のようなものが見えてきた。


「あれってもしかして…」


ヨルカが目を大きく輝かせる。


ヨルカだけでなく、他の2人も、その門が何のためにあるものなのか察しがついていた。


さらに歩くと、大きな木の板が見えてきた。そこには「ようこそハートへ」と書かれている。


3人の歩く速度は少し上がり、門は思いのほか早く近づいてきた。


「門だけじゃなくて、周りの壁も高い。中の様子がちっとも見えないな」


先ほどまで緊張していたユウヒは、その大きな門を目の前に、ワクワクを抑えられないようだ。


「それじゃあ、行きますか!」


ヤイチの元気な声に2人は頷くと、3人一緒に門へと進む。


これまで外の街を知らなかった彼らにとって、ハートの街は発見の連続だろう。


世の中には、知らないモノに対して恐怖を覚え、何もできなくなってしまう者もいるが、彼らは違った。


今、ユウヒたちは本当の意味で外へ足を踏み出そうとしている。向かうのは門の中ではあるが…。


門番が近づいてきた。


「止まれ」


まあ、本人の意思だけで物事が進むことは珍しい。この世界はいつだって他者で溢れている。


最近寒いですね。みなさん体調に気を付けて。

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