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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第二章 ハートの朝は少し眩しく
33/63

The start of

第二章開始です!

 「へぇ、魔獣って美味いんだ」


良く晴れた空には、その青さを際立たせるように白い雲が浮かんでいた。肌を撫でる風は心地よく、そのまま寝転がってしまえばすぐにでも寝てしまえるだろう。


そんな快適な空の下、ヤイチは一冊の本を読みながら歩いていた。


白いシャツに黒い短パン、腰には木刀、右膝には黒い布が巻いてある。布と言ってもただの布ではなく、中には硬い板が仕込まれている。その板はヤイチの運動を妨げないように加工されており、転んだ際にケガをしにくいという利点がある。


それならば、両の膝に着けていても良さそうなものだが、左膝にはそういった類のものは身に着けていないようだ。代わりに、太ももまである長くピチッとした衣装を身にまとっている。


曰く、左ひざに何かがあるのが違和感、とのことだ。


「お師匠の家に昔から置いてあったのに、二人とも読んでこなかったのね」


その隣でヨルカは苦笑していた。


店で働いていた時に身に着けていた三角巾は無く、髪は編み込まれておらず、長く垂れている後ろ髪を緑色のリボンで結んでいるだけのようだ。


体の線が出るような白いシャツの上から、大きめの水色の薄着を羽織っている。長い緑色のスカートには黄色い花のような模様が散りばめられており、全体的に優しい印象だ。


「読まなきゃ死ぬものでもなかったし、訓練を優先してたら存在すら忘れてた。まあ読んだら結構面白かったけど」


ヨルカ、ヤイチの少し前を歩くユウヒは空を見上げながら、さほど興味なさそうに答えた。


黒い七分丈に黒い半袖、その上にレオル特製の紺色のジャンバーを羽織っている。それを肘のあたりまで捲っているが、時折ずり落ちてくるのか、そのたびに捲くりなおしている。


ヌスの町を出発してから二日が経過。首都ハートまであと一日もあれば到着するというところで、彼らは本日の食料について先ほどまで話し合っていた。


この二日間、朝昼晩とヨルカが食事の用意を行っていたが、ハートに行ったことなどなかった彼らは、食料がどの程度必要になるのか分からなかったのだ。


加えて、彼らの移動手段は徒歩であり、運べる荷物にはかなりの制限があった。


結果、手持ちの食料は底を尽きかけていた。


どうしたものかと頭を悩ませていたところ、ユウヒは荷物の中に紛れていたソレイユの日記に気が付いたのだった。


そして、魔獣が美味であったという記述を思い出し、二人へ提案するが、ヤイチが猛烈に馬鹿にしたことによって軽い喧嘩が起こり、それが終わったのがつい先ほど。


今は、ヤイチが日記を読み終え、魔獣美味説に信ぴょう性があるということを認識したところである。


「…なんにせよ、納得してくれて何よりだ。問題は魔獣がどこにいるかだな」


見晴らしのいい草原にはユウヒたち以外の影は見当たらなかった。魔獣の多くは夜に活発に動くことが多い。


そのことを三人は知っていた。だから、彼らはハートへの道から少し外れた方向へ歩き、魔獣のいそうな場所を探していた。


「こっちのほうだよなあ?」


「ああ、たぶんな」


これまでヌスの町から出たことのなかった彼らにとってこの辺りは未知の領域であるはずだった。しかし、レオルの旅の話や、彼女の作る地図を幼いころから見てきた彼らには、周辺の情報がある程度頭に入っていた。


ユウヒは確認をしながら目的地を目指していた。


太陽が頭上から少し落ち始めたころ、その目的地は見えてきた。


三人の目の前には道は無く、しかし行き止まりでもない。仮に一歩踏み出せば、真っ逆さまに落ちていくことだろう。つまりは、崖になっているのだ。


ユウヒとヤイチは真下をのぞき込む。


「このまま落ちたら間違いなく一か月は動けないな」


「ま、そんな感じの高さだな」


そんな短い会話をしながら、準備運動をするユウヒとヤイチ。


「二人とも気を付けてね」


そう声をかけるヨルカに同時に振り返って頷くと、二人は崖から飛び降りたのだった。


先ほどユウヒが言った通り、そのまま落ちれば大けがは免れないだろう。しかし、彼らは能力者である。


地面が近づいてくると、ユウヒは両手をそちらに突き出した。衝突の直前、炎を噴き出すと、一瞬ユウヒの体が宙に留まる。そうして安全に着地したユウヒはふぅ、と一息ついた。


「本当にあった」


ヤイチの声がユウヒの背後から発せられた。


ユウヒが振り向くと、大きな穴の前に立ち尽くしているヤイチの背中が見えた。ヤイチの風の力は、移動手段としてもかなり便利に扱える力だということをユウヒは知っていた。


ほんの少しの差ではあったが、ヤイチのほうが先に下に降りていたことにユウヒは口を尖らせた。


「師匠の書いた地図って意外と正確だよな。私生活のだらしなさからは想像できないくらいには」


ヤイチのほうへ近づきながら、そんなことを口にする。


「何言ってんだ?仕事であちこち忙しく回ってんだから、家でくらいダラダラさせてやれよ。てか、掃除は弟子のお前がやれよ」


「本の位置とか変えると、あの人怒るんだよ。ほんと意味わからん」


それを聞いてヤイチは苦笑いしている。


「さて、ここなら魔獣の一匹や二匹いるだろ」


腰の木刀を抜き、暗がりに向かって歩き出すヤイチをユウヒも少し後ろからついていく。



五分後、洞窟から一頭の魔獣が全力疾走で飛び出してきた。イノシシのように見えるその獣は、口元から生える牙の禍々しさによって通常のイノシシと大きく異なっている。


そのあとを追うように二つの影が飛び出してきた。ユウヒとヤイチである。


「お前がでかい炎なんて飛ばすから、爆煙に紛れて逃がしちまったじゃないか!」


「一撃で仕留めろって言ったのはお前だろーが!」


「仕留めれてね―じゃねーかこの下手くそ!何が俺に任せろだ!正の状態だとほんとにポンコツだなバーカ!!」


二人は走りながらも言い合いを続けていた。


「ああもう分かったよ!自分の失敗は自分で取り戻す!」


そう言い放ったユウヒは手を背後に向けると、推進力として炎を吐いた。そんなユウヒの移動速度は、先を走る魔獣よりも速く、あっという間に追いついてしまう。


「これで終わらせてやんよ!」


勝ち誇った顔でユウヒは拳を握り、魔獣の後部に向かって突っ込む。


次の瞬間、魔獣は急に止まると、真後ろのユウヒめがけて跳んだのだった。


「!?」


驚愕するユウヒの腹部に魔獣の尻が突き刺さる。


「ぶぐらああ!!」


声、というより音に近いものを叫びながら、ユウヒは吹っ飛ぶ。それを存分に笑ったヤイチは、やれやれというように刀を構える。


背後に風を発生させると、それに押されてヤイチは加速する。先ほどのユウヒの失敗を踏まえ、魔獣の前方に回り込むと、魔獣を迎え撃つような構えをとる。


「ヨルカに褒められちまうなー。最高!」


タイミングを合わせ、魔獣が間合いに入った瞬間に刀を横で振る。しかし、その瞬間を見透かしたように魔獣は飛び上がり、刀の振られた軌道の上を滑る。


おまけでヤイチの頭を踏むと、そのまま向こうのほうに着地する。とっさにヤイチは振り返る。


本来理性などあるはずもないが、その魔獣は二人を振り返り、鼻をブフォと鳴らすと、そのまま走っていった。


その光景を見た二人は思考停止したのか固まってしまった。無理もない。ただの獣に足蹴にされたのだから。


だが、固まっていた理由は思考停止ではなかった。二人は、その魔獣が鼻を鳴らす光景に既視感があったのだ。



5年ほど前、ユウヒとヤイチは毎日のように喧嘩に明け暮れていた。


お互い力を求めていたのだ。最初はお互いの力比べであったが、それはエスカレートし、街のあらゆる場所であらゆる者たちと行われた。


その中で、自分たちよりも体が大きく、歳も6つほど離れた武闘家を相手にしたことがあった。それまで負けることを知らなかった二人は初めて惨敗というものを知ったのだった。


その時の男の声を彼らは覚えていた。


「弱すぎブフォ」


それから何度か挑んだが、一度も勝利できずに二年が過ぎ、その男は旅に出てしまった。




それを思い出した二人は拳を固く握った。


「「勝ち逃げできると思うなよ!!」」


吠えた二人は、先ほど同様に力を使って魔獣を追う。


少し遠くを走る魔獣に向かって、風の刃を数十本飛ばすヤイチ。それを必死で避けていく魔獣だが、規則性もなく数多飛ばされる攻撃のすべてを避けることはできず、とうとう攻撃に当たってしまう。


よろけた魔獣はそれでも蛇行しながら逃走を続ける。


そんな魔獣の背後から先ほどと同じようにユウヒが突っ込んでくる。それを感じ取った魔獣は先ほどと同じように急停止し、真後ろに跳んだ。


しかし、その攻撃をユウヒはかわし、魔獣の正面側へ跳ぶ。


すかさず拳を握り、そこに炎が発生する。魔獣は方向転換して反対側へ逃げようとするが、そこには木刀を腰で溜めているヤイチが。


両者は一斉に魔獣へとびかかり、重い一撃でこれを仕留めたのだった。


二人は息を深く吐き出し、今度は思いきり吸い込むと


「っしゃあああああああ!!!!」


と叫んだ。


崖の上で二人の帰りを待つヨルカは、遠くから聞こえるやまびこのような声に少し驚いたらしい。




夏頃から少し時間に余裕ができそうです。やったね。

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