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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第一章 燃える夕陽
31/63

その少女のおはなし

本当にお久しぶりです。体調を崩しながらなんとか生きております。今回と次回で第1章終了です。もう少しお付き合い下さい。

小さい頃に父と母が亡くなった。


2人はとても立派なお医者様で、沢山の人達に慕われていた。


だから、2人が亡くなった時は、その沢山の人達が涙を流してくれた。


私も冷たくなった両親にしがみつき、大いに泣いたのを覚えている。


そんな私を見て、掛ける言葉が見つからず立ち尽くす大人たちのことも覚えている。



失ったものを取り戻すことはできない。代わりを用意すればいいというわけでもない。


みんなはそれを知っていて、だからこそ何もできなかったのだ。


それ以来、私の中は空っぽで、そんな私にみんなが優しくしてくれる。私の空っぽを埋めようと心を寄せてきてくれた。


それが嬉しくて、温かくて…


でも、空っぽの中心、父と母のことは埋まらなくて…


みんなが気を遣ってくれているのは分かっていた。それがだんだん空っぽの中心を明確な穴にするための輪郭になっていくみたいで辛かった。


だから私は、そんなみんなのやさしさを苦にしたくなくて、みんなを安心させたくて、みんなのために笑うようになった。


それからは苦しくなかった。みんなを見ているうちは空っぽの中心を見なくて済んだから。


そんな生き方に慣れたころ、私に力が宿った。それを認識したのは、膝を怪我したヤイチを治療していた時だったと思う。


消毒をしている最中に緑色の光が、消毒液より先にヤイチの膝を潤したのだ。


あっという間に傷が癒えて、二人して驚いたのを覚えている。


みんなの力になれる!単純にそう思えた。


それからは、山に住む魔女レオル、お師匠の所に毎日のように力について学びに行った。


充実した毎日だった。


そんな日々が続き、力を自由に扱えるようになって、沢山の人達を安心させられた。


空っぽが埋まったような感じがした。


私はみんなの為に生きることが心の底から嬉しくなっていたのだと気付いた。


ユウヒと出会ったのは、そんな日々に慣れて暫くしてからだった。


ボロボロだった彼は、体だけでなく心も傷ついていた。町に来てすぐのユウヒは記憶が無く、空っぽだった。しかし、数日経つと名前を思い出した。その後、自身に何が起こったかを少しずつ思い出していった。


記憶が無い。それが一体どんなものなのか想像もできないけど、ユウヒの表情を見れば、それが苦しいものだということが分かる。


どんな風に苦しいのだろうか?当人じゃない私には理解してあげられない。


そう思っていた。


ユウヒが記憶を思い出そうとする姿を見ていると、何か、誰かが私を振り向かせようと肩を叩いているような、そんな気持ちにさせられた。


その()()が何なのか、すぐに分かってしまった。


ユウヒは、自分自身の空っぽの中心から逃げずに、向き合っていたのだ。それはもう鮮烈で、目を逸らす暇も無かった。


私の空っぽは完全に埋まった訳じゃなかった。逃げていたわけでもなかったけど、ユウヒのように向き合ったことは無かったかもしれない。


.....いや、やっぱり逃げかもしれない。


きっとユウヒは向き合う他なかったんだと思う。けれでも、そんなユウヒを心の底からすごいと思えた。


「もう大丈夫だから」


そんなことを口にして、彼を抱き寄せたのを覚えている。私が目をそむけたモノに、苦しくても一切止めることなく向き合い続けるユウヒをただ見ているのがつらかった。


きっと私に止める資格なんてない。逃げ出した私の言葉が無責任なことは分かっていた。それでも...


それでも、休んでいいんだよって伝えてあげたかった。



それから何年か経っても、ユウヒは変わらない。むしろ力の制御ができるようになってから酷くなっていった。


きっと彼は、いつか過去を追いかけてこの町を出ていくのだろう。そしてきっと目的を達成する。


町を出る時は笑顔で見送ろう。ユウヒを困らせないように。


結局私は、休んでいる時間、ユウヒが過去と向き合わない時間を大切だと思わせられなかったんだろう。


.....せめて


せめて....ユウヒがここにいる間は、ユウヒと一緒にいたい。ユウヒに現在(いま)も大切だったって思ってもらいたい。


我儘かな?逃げた私がユウヒに何をできるっていうんだろう。


()()()()()()()()()()()()




剣の大会の日、『月』が街を襲った。幹部らしい男が生贄として私を指名してきた。


私は街の人たちを見てきたつもりだった。いつも笑顔のおじさんが、いつも心配してくれるお兄さんが、お姉さんが、おばあさんが、奥さんが、男の子が、女の子が、変わらない温かさを向けてくれた人たちが、


あの瞬間、見たこともない人に見えてしまった。私を見る目には恐怖と罪悪感。湿った冷たさは、掴んだら離さないといわんばかりで、決意させるには十分だった。


私が行かないと、みんなが死ぬ。


けれど、私の足が動くよりも早く道は塞がれた。そこにユウヒが立っていただけで、不安や恐怖が一気に焼かれていった。


その時私は、こんな状況だというのに、ある事実に気付いてしまった。


あぁ、私はきっと...


()()()()()()()()()()()()()()





「あの日のこと、全部思い出したのか?」


扉の向こうから聞こえたのはお師匠の声だった。ユウヒと何を話していたんだろうか。もう少し早く戻ってこられていたら、話が聞けたかも。


........いや、盗み聞きは良くない。


ブンブンと首を横に振る。


...でも今の話、ユウヒが全部思い出したってことなのだろう。ってことはユウヒはそう遠くないうちにこの街を...。


唇を強く噛む。そうしないと泣いてしまいそうだったから。


今更何を泣くことがあるんだ。分かっていたことじゃないか。


今は一旦切り替えよう。


そう思って、扉を開こうと手を伸ばすが、その手に力が入らない。


大丈夫。いつも通り。いつも通り。


呼吸を整えなければ。


深く息を吸い込む。しかし、それが完了する前に扉は開かれた。


開けたのは当然私じゃない。向こうからお師匠が現れた。


「わっ?あ、お師匠?えっと…急に扉が開くから驚いちゃいましたよ。」


「ヨルカ…、いつからそこに?」



()()()()()()()()()()()()()()()()







「ヨルカ。その…、大事な話があるんだ。これからのことなんけど、お前には…、ちゃんと伝えないといけないと思ってだな」



驚いた。あのユウヒがそんなことを言うなんて。


それも真剣な顔だ。


何を言うんだろうか?これからのこと?


…そんなもの分かりきっている。きっとユウヒの過去に関係する話だ。


だと言うのに、少し期待してしまった。そうかもしれないと少しでも思ってしまえば、たちまち落ち着きが無くなってしまった。


だって私は…ユウヒのことが…。

.

.

.

.


「明日、この町を出ていくよ」


どんな言葉を交わしたのか覚えていない。ただ、その言葉はハッキリと聞こえた。明日。明日になったらユウヒはこの街を出る。


あまりにも突然だと思った。出ていく理由が明確になっても、暫くはこの街に居てくれると、そう思っていた。


どうして私は、「その時」がまだ来ないと思っていたのだろう。自分に主導権なんか無かったはずなのに。


仕方ないことなんだ。現状に甘え続けた私が馬鹿だったんだ。もうユウヒを止められない。


私には、笑って送り出すことしかできない。


「…今まで、ほんとにありがとな」


ユウヒはそう言って頭を下げた。あぁ、本当に最後なんだ。


私には、笑って送り出すことしかできない。


「そっかぁ…。ほんと、急なんだから」


やれやれといったように、呆れたというように、仕方なさを目一杯含んで話す。


後は笑うだけ。微笑んであげて、ユウヒを安心させてあげよう。


口角を少し上げる。これでいい。これでいいんだ。


眉が中央に寄る。辛い気持ちが顔に出そうだ。こんな筈じゃなかったけど、でも少しくらい許してよ。


ユウヒには安心して街を出て行って欲しい。けれど、ユウヒがいなくなって寂しいと感じる人だっているんだと、胸に刻み込んで欲しい。














そうやって諦めてしまえば、自分を見なくて済むものね。


()()()()()()


自分の気持ちを優先しちゃったら、周りに迷惑がかかりそうで怖いものね。


ユウヒみたいに、誰かを寂しがらせちゃうものね。


だから、現在(いま)が続くようにって祈ってたのにね。



()()姿()()()()()()()()()()()()()()()


ユウヒもヤイチも現在に満足なんてしてない。私だけだよ?ずっと変わらないことを望んでいるのは。


これは私に変化を望んで言っているんじゃないの。ただ蔑んでいるだけ。だって私だもの。私は私の期待しないものは期待しないもの。


だから私は泣くことしかできないわ。それでユウヒとはおしまい。私はきっと後悔すら出来ずに生きていくんでしょうね。


幼い私が心底楽しそうに笑う。そして私の手に指を絡めてくる。



私はこの先も私を見てくれないだろうけど、私はずっと見ていてあげるから、一緒に爛れてあげるから、ね?


酷く突き刺さるような痛みが、指を通して全身を回る。でも否定しようと思えない。


そうやって、これまで起きてきたことを受け入れてきたのだから。


目を閉じる。


死ぬことを受け入れたような、生きることを諦めたような、全て差し出したような…、そんな気分だ。


……。


幼い私は不満そうに睨む。


まだ何か言いたいの?


「本気で諦める気でいるの?」


え?


「ここまで言われてもまだ、自分を見ないつもり?」


何を言っているのか。私が言ったんじゃないか。変化は期待しないって。


今更手のひらを返すなんて、我ながらお粗末だ。


「…ユウヒが目的を達成したら、その後はどうするのかしらね」


そんなの想像できないわ。私なら分かるでしょ?私は現在が大切なの。未来なんて分からないわ。


「それは、これまでの私を客観的に見た結果に過ぎないわ。現在の状況じゃなく、今の欲求に忠実になるべきよ。私はどうしたいのよ。()()()()ユウヒを行かせてしまうことが私の要求なの?」


そんなこと言われても…、ユウヒに迷惑はかけられないわ。


「ユウヒは、迷惑なら迷惑って言うわよ。()()のこと大切にしてるもの。たった一歩でいいの。前に足を出してみなさいよ」


でも…


「…まあ、貴方の背中を押す人なんて沢山いるわ。私が言いたいことは全部言ったわ。後はみんなに任せるわ」


幼い私が離れていく。


「あぁ、最後に、言い忘れてたわ」


幼い私が真っ直ぐに私を見る。


「私はユウヒのこと大好きよ。ユウヒ以外の人なんて考えられないくらい…」


その言葉は、指を通して全身に伝わった痛みよりもゆっくりと心を満たしていく。





気付くと、ユウヒがポカンと口を開けていた。


それを見て、自分がボロボロに泣いていたことに気が付いたのでした。



幼いヨルカは途中から自分のことを別人のように認識していますね。彼女の発言も途中から「」付いてますね。ヨルカとユウヒはどうなるんでしょうか?僕には分かりません!

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