Go ahead 2
お久しぶりです!生きてます!仕事にも慣れてきて、これからまた投稿できるかと思います!(確約はしない!)
山道をゆっくり歩くユウヒ。目指すはヌスの町。彼は明日この町を旅立つ。そのために、世話になった人々へ挨拶しにいくのだが…
「照れ臭い!」
照れ臭い!「ヨルカには人一倍礼を言え」というレオルの言葉を思い出す。あのときは照れ臭さのあまりに頷くことしか出来なかったが、ここに来て一層照れ臭い。
いままで当たり前に接してきた人間に別れを告げるというのはユウヒの経験の外にあるものだった。故に、初めて触れるその体験を前に、多少臆病になってしまっているのだ。
そんなことを考えているうちに、町が見えてきた。
遠目に見る闘技場は、あの一件の日の朝と同じように見える。実際は、以前の面影を感じさせるだけの、似たような形に修復されているだけの箇所が多い。
近くで見れば、尚のこと顕著に感じられるだろう。
だが、今日はそこまで行くつもりはない。ヨルカに別れを告げたらさっさと明日の準備のために帰るつもりだ。
別れを告げる。それがユウヒにとって悲しみよりも恥ずかしさを多分に含む行為だったために、早く済ましてその場を離れたいのだろう。
街の入口付近に差し掛かり、ユウヒの足取りは急に重くなり、歩く速度も家を出た時より大分遅い。
ヨルカがいるであろう店を目指す。場所は分かっている。しかし、ユウヒは敢えていつもとは違う道から行くことにした。そちらの方が遠回りだったからだ。
少しでもヨルカの元に辿り着くまでの時間を伸ばしたかった。まだ、決心がついていないのだろう。
時間稼ぎをしたとはいえ、ユウヒの遠回りは大したものではない。顔を上げ、向こうを見てやると、そこにはいつもの白い建物が見えてきた。
騎士団や街の人々がこの数日、薬屋を出入りすることが多かったために、ヨルカとはあれ以来話を出来ていなかった。
「なんて言えばいいんだよ…」
ユウヒは額に手をあてると、その場で立ち止まった。
ユウヒが傷ついたとき、それを癒してくれたのはヨルカだ。自分勝手に傷を作ったというのに、彼女は一度だってユウヒを見捨てた事はない。
感謝してもしきれない。
きっと、これからする別れの言葉だけでは彼女への感謝を伝えきることはできない。
本来ならば、ヨルカの側で長い時間をかけて恩返しすることが正解なのだ。
だが、ユウヒにそれは出来ない。それはユウヒの目的を達成しないことを意味するのだから。
「…無理だ」
ユウヒは諦めの言葉を口にする。道ゆく人々に聞こえないくらいの小さな声。
そんな声で、頭を巡る様々な思いを見捨てようとする。
「何が無理なの?」
道ゆく人々には聞こえない。だが、目の前に立っている人間には聞こえるのだ。
いつからそこにいたのか。顔を上げたユウヒは目の前の少女を見ると、5秒程硬直した。
「…ナンデモナイヨ」
絞り出した声は棒読み、というより頭が真っ白になっているが故に出たものだった。
ユウヒは、ヨルカと遭遇するなら薬屋の中だろうと決め付けていた。それ以外の場所は自分の心を整える事のできる安全地帯、そう思っていた。
だが相手は静物ではなく生物。その場から一歩も動かない訳がない。
「その時」の主導権は自分だけのものではなく、相手のものでもあるのだとユウヒは知った。
斯くして、ユウヒの目的の人物ヨルカはユウヒの目の前に現れた。
「ほんとにぃ?」
ヨルカがユウヒの顔を覗きながら首を傾げる。
「さっきから声かけてたのに全然反応なかったし、こんな道の真ん中で難しそうな顔して突っ立ってるし…」
「え?」
(声をかけられていた?)
全く気付かなかったといった顔のユウヒ。そんな彼の顔を見て、ヨルカは可笑しそうに笑うのだった。
「変なの。珍しく考え事でもしてたの?街に下りてくるのも珍しいし…、明日は雨…いや、雪かしら?」
嬉しそうに、心から楽しげに彼女は話す。そんな彼女を見て、別れを告げることを一層躊躇うユウヒ。
しかし、ここで引き返すことはありえない。月を追わない理由はもちろんある。目の前の彼女や師匠、町の人々との生活だ。それはきっと、師匠の望んだものだろうし、ひょっとすると父や母が望んだものでもあるかもしれない。
だから、追わないことも正しいのだ。だが、それ以上に、ユウヒにとって月を追うことは正しい。母を正しく知るためにも、自身の正しい復讐のためにも。
深く息を吸い込み、長く吐き出すユウヒ。楽しげだったヨルカも、彼のそんな様子を見ると、心配の色を顔に浮かべるのだった。
「ねぇ?やっぱり変よ?具合でも悪い?店に行けば、丁度いい薬が見つかるかもしれないわ」
そう言って、ユウヒを店に連れていく為に彼の手をつかもうとする。
その時、ユウヒは真っ直ぐにヨルカの目を見つめる。ヨルカはそんな彼の目に注意を奪われた。何かしらの決意を感じた彼女は、伸ばした手を引っ込めていた。
「ユウヒ…?」
囁くように、本当に小さく、内側から漏れるような声がヨルカから発せられた。
「ヨルカ。その…、大事な話があるんだ。これからのことなんけど、お前には…、ちゃんと伝えないといけないと思ってだな」
ヨルカの目を直視できなくなったユウヒは顔を逸らした。決意を鈍らせない為だろうか。それからは、伏せ目がちにヨルカを見ずに話をした。
そのため、ヨルカの表情をユウヒは見ていない。顔を赤らめ、目線をあちらこちらに向けて余裕をなくしているヨルカにお構いなしである。
「この町に月の連中がやってきて、副団長と一緒に敵と戦って…、正直言って、今の俺は弱いなって思った。もっと強くならないと月を追っても敵わないと思った。…あ、えーっと、もしかしたら俺の母さんが月と関係があったかもしれなくてな。そもそも母さんを殺したのはあいつらかもしれなくて、だから、あいつらを追えば母さんのことが分かるかもしれなくて…」
ユウヒの言っていることは散らかり放題で、相手に伝えるという能力が低いように思える。まあ、この場においては緊張やその他の感情の影響もあるかもしれないが。
そんな散らばった言葉を丁寧に拾い集めるかのようにヨルカは口を開く。
「…つまり、お母さんの事を知る為に、復讐をする為に月を追うってこと?その為の力が足りないから修行もするって?」
ユウヒに聞き返すヨルカは、なるべく簡潔に言葉をまとめる。ヨルカの表情はもう冷静さを取り戻していた。
「あ、ああ、その通りだ。めちゃくちゃ分かりやすいわ」
ユウヒは顔を上げ、ヨルカに感心するように頷く。
「はぁ、それで?どうして私にその話を?」
浅いため息を吐き、そう聞き返す。何かを期待していたのだろうか。頬を赤く染めていたヨルカはユウヒの言葉を聞いて完全に冷静さを取り戻した。
「ヨルカには世話になりっぱなしだったからな。ちゃんと伝えておかなきゃならないと思った。…その、今までありがとな」
真っ直ぐにヨルカを見る。先ほどのように言葉が散らかる心配は無い。その単純な言葉が純粋な心に乗せられて贈られたのだから。
「なっ!?」
そんな言葉を受けたヨルカは驚愕してしまう。これまでも感謝の言葉は受け取ってきただろう。しかし、今回のユウヒの言葉に、何か思いのようなものを感じたのかもしれない。
「や、やめてよ。そんな今すぐ別れる訳じゃないんだし。まぁ、気持ちはとっても嬉しいわ。えっと…、その、どういたしまして」
ペコリとお辞儀をしながら、そんな言葉を発する。「どういたしまして」の声が小さくなっていたのは、彼女自身に照れがあったからだろうか。
「それで?いつ町を出るのか決まってるの?」
照れ隠しのために話題を少し変える。ユウヒは「あぁ」と答え、少し間を置いてから話す。
「明日、この町を出ていくよ」
「え?」
ヨルカの口から出た声は、疑問と驚きを絵に描いたように表したものだった。
「とりあえずハートを目指すよ。力を使って戦うには騎士団の認可が必要みたいだし」
ヨルカに構わず続ける。
「その後は、…あー、騎士団が情報提供とかしてくれるといいんだけどなぁ」
ユウヒは「ははは。」と笑った後、改めてヨルカを見る。
ヨルカの表情は変わらず、口をポカンと開けている。
そんなヨルカを見て、少し間を置く。
「…今まで、ほんとにありがとな」
感謝のためではなく、別れのために、ユウヒは2度目のありがとうを口にする。
深く頭を下げるユウヒに声をかけられないヨルカ。
2人の間に沈黙が訪れる。
他人の為に泣ける女の子。
他人の為に微笑むことのできる女の子。
人を支えることが誰よりも得意な子なのだと、ユウヒは納得していた。
「そっかぁ…。ほんと、急なんだから」
いつもの、微笑む時と同じ声色。
ユウヒはそれを聞いて顔を上げた。
他人の為に泣ける女の子。
他人の為に微笑むことのできる女の子。
人を支えることが誰よりも得意な子なのだと、ユウヒは納得していた。
実際に彼女は他人を1番に考えられ、また、他人の行動を応援できる女の子だ。
そんな女の子だったからこそ、顔を上げたユウヒは驚いたのだ。
ボロボロと涙を零し、それでも必死に笑顔を作ろうとしてぐちゃぐちゃになっているヨルカ。
今度は、ユウヒが口をポカンと開けたのだった。
投稿頻度の少ない私の作品を読んでくださる皆様本当にありがとうございます。この作品は何が何でも完結まで書きます。時間はかかるかもしれませんが、生温かく、湿った目で見守ってください。今後もどうかお付き合いください。よろしくお願いします。




