Go ahead 1
お久しぶりです!諸事情で今まで投稿していませんでした。これからまたお世話になります。よろしくお願いします。
街は『月』襲来による被害を少なからず受けていた。闘技場及びその周辺の建造物は破壊されたものが多く、その復元のために街中の男達が総出で駆り出される…はずであった。
実際に復元作業をしていたのは騎士団の団員達である。街への被害を最小限に抑えるべく、闘技場周辺で戦いを繰り広げていた訳だが、その努力も虚しく、街の住民達には被害が出てしまっていた。
その被害というのは、闘技場から溢れ出たあの霧によるものであった。霧は、闘技場周辺で止まる事はなく、市街地の方まで漂っていってしまったようだ。
霧は、触れた者から魔力を吸い続け、衰弱させてしまう。この街の住民のほとんどは魔力の扱い方を知らず、能力に対する耐性も無い。
そのため、多くの民が活動不可能となり、復元、復旧作業は予定よりも時間がかかってしまっていた。
とはいえ、騎士団員の活躍により、当初は2週間かかるかもしれないと言われていた闘技場の修復は1週間で完了したのであった。
これで街は元どおり!とはならなかった。先述した住民達の衰弱は、本来なら魔力を補充することで回復できるものである。魔力の補充の方法は一般的に三つ。食事や呼吸によって、空気中や食べ物から得る方法。休養によって自身の生命が魔力を生み出すことで得る方法。そして、他者から分け与えてもらう方法である。
これら三つの方法のうち、彼らが実践可能なものは二つ。休養による回復と、食事などによる回復である。なぜ三つ目の方法が実践できないのか?簡単な話である。この街には、他者に魔力を与えられるだけの余裕を持った人間はヨルカとレオルだけだからだ。
今回の霧による被害者はおおよそ1000人。レオルが魔女だとはいえ、そんな人数に魔力を与え続けていては体がもたない。魔女でもないヨルカならばなおのことである。
さて、残った二つの方法だが、魔力をまともに扱えない彼らにとってはとても時間を要するものとなった。大量に魔力を消費し、体中ボロボロになったユウヒは、魔力が完全に回復するまでに三日かかった。その後にヨルカの治療を受けて、事件から五日後には動けるようになっていた。
魔力に心得のある人間でも完全回復まで三日かかるのだ。一般人ならそれの倍以上かかってしまうだろう。よって、事件から一週間経った今でも、街には人が多くない。活気のない街は、昼間であっても、夕方のようなもの悲しさを漂わせている。
そんな街から離れた山の中、小さな家の前には、手紙を持ったまま立っている青年がいた。ユウヒである。朝早くに騎士団から届けられたその手紙には、今回の事件の顛末が綴られていた。
ユウヒへ
本来であれば、騎士団の外部へ情報を提供する行為は許されるものではない。しかし、共にあの場で闘い、街を守るために力を尽くしてくれた君には、今回の件の顛末を報告するべきだと判断した。迷惑だと思ったなら、今すぐ捨ててくれても構わないがね。まあ、読んだからといって、君が連行されたり危険な目に合うようなことは無いから安心してほしい。
さて本題に入ろう。
今回の事件、なぜ『月』の連中はこの町を標的にしたのだろうか? 奴らの目的はこの国を破壊し、自分たちの支配下に置くことだと我々は考えている。そのためには、この国の防衛機能である騎士団の無力化というのはとても効果的だ。
半年ほど前から、ハート周辺や騎士団の任務地で『月』の連中が目撃されていた。その中には、騎士団に対して攻撃を行っていたものもあったらしい。ヌスの町で毎年行われる剣の大会には、近くに駐屯している騎士団が人材発掘のために赴いていたようだね。我々は、この大会にも奴らが現れるのではないかと予想した。加えて、ハートの騎士団がヌスに向かうことで、「衛星」の人間を引っ張り出せると考えたのだ。
結果、今回の事件の首謀者であろう「衛星」のレインを確保できた。…とはいえ、それのためにヌスの民が被った被害は大きかった。まさか「月喰」があれほどの規模のものだったとはな。民に一切傷を負わせるつもりはなかったのだが、完全に油断した。我々の、いや、私の失態だな。
ここで後悔しても仕方ないな。民への被害が取り返しのつかないものでなかった、それを幸いと思うことにしよう。
今回の一件、残党たちは上に間違いなく報告する。レインが捕らえられたという損失。ハートの騎士団がいる状況でも、混乱を招くことができたという成果。
奴らはこれから一層積極的にこの国に混乱を招くだろう。
ユウヒ、もし「月」を追うなら、ハートで正式に認められなければならない。あの日に少し話をしたが、許可の無い者の戦闘及び力の使用は本来許されないことなのだ。
君には素質がある。だが、君の力は己の身を滅ぼす。だからよく考えることだ。
君が傷つき、血を流すことを望まぬ者がいるはずだ。
君が笑って明日を生きることを望む者がいるはずだ。
だから、よく考えるのだ。戦うことが、平和を投げ捨てることに見合うかどうかをな。
手紙を読み終えたユウヒは空を仰ぐ。カイナの手紙には、首謀者のレインを捕らえたことは書かれていたが…
「もう1人はどうなった?」
ユウヒがヤイチと共に倒したハゲ…、衛星の1人であるスノウのことが書かれていない。
衛星だというのは嘘だったのか?いや、あのとき、あの男の手には確かに月の模様があった。
ユウヒは手紙を畳みながら自室へ向かう。
ベッドの上には、1人用のリュックが置いてある。その横には、およそ5日分の着替えと食料、地図やタオルなどが広げられていた。
それを適当にリュックへと詰め込みながら、スノウについて考える。やがて、荷物を詰め終えたユウヒはベッドに腰掛ける。
「…逃げたのか。あの状況に陥ったっていうのに」
スノウが衛星の1人ならば、月喰がどういったものなのか知っていたはず。
対処も、他の奴らよりは容易だったろう。
「次に会ったときは、絶対捕まえてやるよ」
ベッドから立ち上がり、部屋を後にする。
ちょうどその時、家の扉を開ける者がいた。外の光が微かに差し込み、ユウヒは一瞬目を細める。
「師匠…おかえりなさい」
レオルはどんよりしながら、ユウヒの言葉に頷く。レオルが疲弊した様子なのは、ささやかながらも魔力を人々へ分け与えていたからである。
「うぅ、酒ぇ、ユウヒー、酒ぇ…」
終わってる。ユウヒは素直にそう思った。とはいえ、人々のために動いていた彼女を労うのは弟子である自分の義務だとユウヒは思った。
溜息を吐きながら素早く酒の瓶を用意する。グラスも用意するが、目の前に酒瓶が運ばれるなり、それを口に運ぶ。
グビグビと酒を飲むレオルはたっぷり喉を潤した後、ぷはぁっと、瓶を口から離す。
その幸せそうな顔を見て、呆れた顔のユウヒ。
「師匠…、俺がいなくなった後が心配ですよ」
「はっ、そう思うならこのままここに居てもいいんだぞ?」
ほのかに顔を赤くしたレオルがユウヒを見ずに答える。
「…ほんとに行くんだな」
ユウヒは「はい」と一言発して、家の外へと向かう。
出発は明日。これから町に向かい、世話になった人たちに別れを告げる。黙って出ていくことは出来ない。
「ユウヒ、ヨルカには人一倍礼を言うんだぞ。あの子はお前のことを誰よりも心配してるんだから」
ユウヒは何も言わない。その代わりにこくりと一度頷く。
ユウヒが家を出て行った後、半分くらいまで減った酒瓶を見つめながら、レオルは鼻歌を歌う。そのリズムに合わせて、ゆるやかに瓶を揺らす。
彼女の飲酒を抑制してくれる青年はもうすぐいなくなる。この久しぶりの孤独に、いずれ慣れなくてはならない。
「あぁ…、ったく、面倒な感情だよ」
頬を伝う涙は
愛する子を思う温もりを抱いて
次回は早めに投稿したい!早めに投稿したい!したい!
…がんばります。




