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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
第一章 燃える夕陽
28/63

そして灰は息を吹き返す3

よろしくお願いします!よろしくお願いします!……よろしくお願いします!

 少し冷たい風が窓から入ってくる。日はすっかり沈み、空は暗くなり、部屋を照らすランプだけが温もりを感じさせる。だが、部屋を明るくできても、部屋そのものの雰囲気を変えることは不可能であった。


ユウヒの口から発せられた言葉はレオルに緊張感を与えた。レオルだけではない。ユウヒ自身も、これから自分が言おうとしていることに対して緊張を覚えている。


「まず、母さんを誤って殺してしまったっていう話ですが、連中は複数人、しかもそのすべてが能力者で構成されていました。対して母さんは無能力者、そんな人間の抵抗がどれほどのものでしょうか?奴らは、殺そうとして殺したんです。そう考えるほうが自然です」


認めたくない


ユウヒは、包帯で覆われた右拳をギュっと握った。レオルはユウヒの話を黙って聞いていた。


「じゃあ、どうして殺されなければならなかったのか?逃げ出したからだと思います。でもそれは、誘拐されたから起こった脱走じゃない。母さんが…、母さんが『月』を裏切って逃げたからです」


いつの間にか、ユウヒの頬を涙が伝っていた。それを見せまいと俯くユウヒ。だが涙はベッドへ落ち、濡らし、ユウヒが泣いた証拠として残った。


認めたくない


「衛星の奴らと同じ月が…、母さんの左手にもあったんです…。あの人は『月』の幹部だったんだ。そんな人間が組織を裏切るんだ。そりゃあ隠れますよ。隠しますよ。探されますよ。殺されますよ…。くそっ」


「…あの日のこと、全部思い出したのか?」


レオルが静かに言う。ユウヒは涙をぬぐいながら首を縦に振った。


「そうか…」


レオルはユウヒの推測に対して、何も反論することは無かった。ただ目を閉じて、空気を吸い込む。


涙を拭き終えたユウヒは、そんなレオルを見て再度問う。


「師匠は、母さんが『月』の人間かもしれないって考えていたんじゃないですか?…昨日の推測は穴が大きすぎました。無理矢理に真相を隠そうとしなければ、あんな風にはなりませんよ」


レオルは腕を組み、そのまましばらく黙り込む。


「師匠?」


あまりの沈黙に耐えられず、ユウヒが答えを急かすように聞く。


すると、レオルはゆっくりと顔を上げる。薄く目を開き、諦めたように語り出す。


「俺はな、昔から推理とか作り話が下手だって周りに言われてたんだ。まあ、そんなものが必要になる状況にはあまり出会したことはないし、別にいいかって考えてたんだ。お前の母さんの事も最初はちゃんと話すつもりだったさ」


「なら、どうして…」


どうしてこんな嘘を?ユウヒはその言葉を飲み込んだ。言うまでも無かった。その答えを彼女がこれから話すことが分かっていたからだ。


それでも途中まで言いかけたのは、レオルが自分に嘘をついたことへの疑問が大きかったからだろう。


「…考えてしまったのさ。自分の母親が、復讐相手の関係者だと知ったらってな。そんな状態で『月』を追いかけた先で、お前は何を選択するのか…、まったく想像がつかなかったよ。だからせめて、母親が被害者だってことにすれば、お前の復讐は正しい復讐のままで済むと思ったんだ」


レオルが俯き、耳の辺りの長い髪が垂れる。表情は読み取ることができない。


「俺は、お前に普通に暮らして欲しかった。でも、それは叶わない。お前が一度決めたことを曲げない男だと知っているから。…俺の嘘はお前を傷つけないためのもののはずだったんだ。でも、そんな嘘は、『月』を追う過程でバレてたかもな。あー…本当に下手くそだよ俺は」


レオルは吐き捨てるように、最後にそう言った。


ユウヒは黙って話を聞いていた。何のために『月』を追うのか。レオルの嘘がバレた以上、純粋な復讐は生まれること叶わなかった。生み落とされたのは、色んなものが混ざり合って方向性を見失った盲目の復讐だ。


ユウヒはそんなものを抱えなければならない。だから彼は、黙って考え込む。


レオルは話を終えると、スッキリしたように椅子から立ち上がる。


「さて、ここからはお前次第だ。真相を知った以上、もう俺には止められない」


そう言って、廊下に続く扉へ進む。ユウヒに背を向けたままレオルは口を開く。


「ヨルカを見てくる。お前も考えるのは後にして、今はゆっくり休め」


途中、ほんの僅かだが、声が震えているような、そんなふうにユウヒは感じた。


レオルが扉を開けると、そこにはヨルカが立っていた。急に扉を開けられ、たヨルカはびっくりしたようにレオルを見る。


「わっ?あ、お師匠?えっと…急に扉が開くから驚いちゃいましたよ」


「ヨルカ…、いつからそこに?」


レオルも、扉を開けた場所に彼女がいる事に少し驚いていたようだ。


いや、彼女がいた事自体はごく自然な事だ。包帯の替えを持って戻ると言っていたのだから、何もおかしいことはない。


レオルの驚き、疑問をもう少し具体的にすると、「どこまで話を聞いていた?」である。レオルにとって先ほどまでのユウヒとの会話は、ユウヒにとっては当然辛いものであった。


しかし、その話がユウヒ以外にとって辛くない事ではない。実際、レオルは彼の意志を変えられないことを嘆き、部屋を出ようとしていた彼女の目は涙で覆われ、瞬きひとつで溢れてしまいそうだった。


もしもヨルカがこの話を聞いていたのなら、きっとレオル以上に悲しむだろう。


彼女は、ユウヒをずっと見てきた。怪我の具合だけではない。彼の過去の一端を知り、彼に寄り添い、共に笑い、時には喧嘩もした。


ヨルカが、誰よりも気兼ねなく、自分らしく振る舞える相手がユウヒだったのだろう。そして、誰よりも支えてあげたい人間でもあった。


そんな人物が辛い道を歩もうとしている。出来ることならこの話はヨルカには聞かせたくない。レオルはそう考えていたのだ。


「え?ちょうど今来たところです。お客さん来てたから遅くなっちゃいました」


そう話をするヨルカ、どうやら本当のことのようだ。レオルは少しホッとして


「そうか、すまないがユウヒの事は頼んだぞ。俺はちょいと用事を思い出したんでな」


と言うと、ヨルカを先に部屋へと通して、そのあとに廊下へ出て行った。


いつもと少し様子が違ったように感じたヨルカは首を傾げて、レオルが出て行った扉の方を見ていた。


「お師匠、こんな時間から用事だなんて何かしら?」


黙っていたユウヒが顔を上げる。


「あー、きっと酒でも飲みに行ったんじゃないか?仕事から帰った次の日にあんな事起こったんだ。師匠なら、飲まなきゃやってられないって思ってそうだし」


ユウヒの発言にヨルカはふふっと笑う。包帯を入れたカゴと水をベッド横の台に置き、自分は椅子に座る。


「じゃあ包帯替えるよ。痛い所とかない?今回は、完全に治し切れてないから、多分どこか痛いと思うのだけれど」


そう問うヨルカは穏やかで、ユウヒはそんな彼女の顔をボーッと見つめていた。


「ユウヒ?」


「あ?あっ、ああ、痛い所な。別に無いな。流石はヨルカだ」


(あれ?今見つめてた?何してんだ俺?師匠があんなこと言うから変に意識してんのか?)


「そっか。でも、あまりいいことじゃ無いよね。ユウヒは痛みに鈍感だから、体の痛い所、気付いてあげられてないかも」


そう言って、ユウヒの包帯を解いていく。そうして解いていく中、今回最も傷を覆ったであろう右腕は、出血は無いものの、未だに腫れが残っていた。


「やっぱり骨にも異常あるかも。でもごめんなさい。もう力が残っていないから治せないの」


謝りながら、包帯とは別に固い板のようなものを取り出す。


「いや、謝るなよ。元々俺のやったことだし、そんなに痛く無いし」


ユウヒはそんなふうに笑って見せた。


「明日になればまた治療できるから、それまではこれで固定しておくね」


右腕の固定が終わり、その他も包帯の交換が終わった。ヨルカが水をコップに注いで、ユウヒに手渡す。


左手で受け取ると、ゴクゴクと一気に喉を潤していく。


「ご飯食べられそう?もう少しで夕飯が出来上がるの」


「あぁ、ありがたくいただく」


「うん。じゃあ後で持ってきてあげるね」


「ヨルカの家でメシ食べるのも久しぶりだな。ばあちゃんの作る野菜スープ好きなんだよ」


「ふふ。おばあちゃんが聞いたら喜ぶよ。ていうか、私何度も誘ったよ?ここでの食事が久しぶりなのは、ユウヒが山から降りてこないからじゃない」


ヨルカが頬を膨らませて文句を言ってみる。


「そうだったか?」


「まったく、もう少し頻繁に顔を見せてくれてもいいじゃない。危ないことばっかりして、お師匠だって心配しているのよ?去年なんか一回しか降りてこなかったし、…死んじゃったかと思ったんだから」


最初は楽しげに、最後は寂しげに。ヨルカの喜怒哀楽が分かりやすく変わる。


「あぁ悪かったよ。これからはもう少し…」


そこまで言って、ユウヒは止まってしまった。これからとはいつのことだろうか?『月』を追うということは、この町を出るということである。一体いつ、顔なんて見せられるのだろうか?


ヨルカはそんな止まってしまったユウヒをじっと見つめる。


「ねぇユウヒ、何か悩んでない?もしそうなら教えて欲しいの。私も力になりたいから」


ヨルカの言葉は真っ直ぐだ。いつも人の為にある。しかし、その言葉に含まれているのは単なる献身などでは無い。


それはユウヒにだけ向けられたもので、ヨルカ自身も気付いていないものだ。ユウヒがヨルカを見る。


そして、ユウヒはもっと気付けないものだ。


「心配すんなよ。俺は何も悩んでなんかないぜ」


だから、こうなる。



そうして、『月』の襲来から1週間が経った。



寒いですね。ヨルカみたいな献身的な女性に暖められたい人生でした。

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