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あの月を灼くユウヒがノボル  作者: 上戸 シカロ
序章
1/63

火種

序章その一に当たります。本日中に序章は全て掲載の予定です。ぜひ読んで感想をお聞かせください。

 とある家族の話をしよう。


 オモンの森と呼ばれる、自然豊かな森の中の、開けた場所に住んでいる。昼は太陽の光が優しく照らし、吹き抜ける風は強すぎることはなく、常に心地いい。


夜は、虫たちの声と、風に揺れる木々が、健やかな眠りに導いてくれる。そんな美しい場所で、ユウヒとその母親は暮らしていた。


ユウヒはよく、日が暮れるまで外で遊び、泥だらけになったり、水浸しになったり、毎日楽しそうであった。毎日のように太陽の光を浴びる彼の肌は日に焼けやすく、夏は顔や腕を真っ赤にして家に帰ってくるため、とても痛々しく見えるが、しかし、それがかえって健康な証にも見えてくる。


 そんな健康の権化、太陽の化身、子供は風の子という言葉の体現者である少年ユウヒとは対照的に、彼の母親が家の外で過ごす時間は、ユウヒの半分もなかったようだ。


そのせいというわけでもないが、彼女の肌は透き通るように白く、ユウヒが雪を見て


「母さんの肌とおんなじだね」


というほどである。そんな雪女の肌よりも、真っ白な手袋を一年中左手にはめている。そして、その上から真っ赤な指輪を薬指にはめており、彼女と対面した場合に、一番目立つものとなっている。


ユウヒが以前に、その真っ赤な指輪について訊ねたことがある。母親は珍しく頬を桃色に染め、亡き夫から貰った指輪の話を聞かせてくれたのだった。


「あなたのお父さんがね、『君が月に照らされて、白に塗りつぶされても、自分を見つけられるように』って言って渡してくれたのよ」


 その話をユウヒが覚えているのかはわからないが、桃色に肌を染めた母の表情は印象的で、その時の顔だけは、記憶に深く焼き付いているに違いない。


しかし、現在のユウヒが彼女を思い出すなら、普段の白い肌を染めた桃色は、指輪同様、




 真っ赤に見えるのだろう。


 

自然豊かな森の中で暮らす親子。昼は太陽の光が優しく照らし、風が心地いい。そんな美しい場所だった。というのも、ほんの数分前までのお話だ。


 目の前を埋め尽くすのは赤色の炎。目の前だけじゃない。あたり一面真っ赤である。そんな赤一色の中に、まるで染まることを許されなかった異物のように、ユウヒは茫然と立っていた。絶望の色に染まりながら。太陽が、お前のせいだと言わんばかりにユウヒをジリジリと照らす。


 熱い。アツイ。


 吹く風は、かつての心地よさを失い、ユウヒの呼吸を、その熱風で阻害する。


 クルシイ。苦しい。


 そうして、炎、太陽、風に溶かされた異物はようやく染まることを許され、ゆっくりとユウヒの体は炎に侵されていく。


「どうして…」


 どうしてこうなったのか。誰しもが抱く疑問だ。しかし、その疑問に答えてくれる者はどこにもいない。


すべては既に、灰となってしまったのだから。














お読みいただきありがとうございます。皆さんの印象に残る作品になってくれると嬉しいです。ではまた。

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