九話・リリアさんがちょっと変?
「取り敢えず今回の話しを纏めて貴族会で話すとするかのう」
「それでお願いします」
王様がさらさらっと紙に走り書きしてそう言う。
紙は以外とちゃんとしたやつで、ペンは羽ペンだ。烏かな?羽が真っ黒だ。
ちなみに貴族会とは王都にいる貴族家の代表が集まってお話しする会議だそうだ。
戦国時代よろしく、この国の貴族は人質として先代、当代の妻、後継ぎの誰か一人を王都に置かなければいけないらしい。そこら辺はしっかりしてるんだね、この国、能天気そうだけど。
「さしあたってお主はどの課題から取り掛かるのじゃ? 」
「……そうですね、取り敢えず王都にいるサッカー好きに会いたいです。そこを足掛かりにしようかと」
これが無難だろう。前途のある若いやつらに唾つけといて、選手にしたり啓蒙活動(?)の手伝いをさせる。王都でサッカーが人気になれば自ずと地方にも伝染する筈だ。
「なるほどのう。そこらはリリアに案内して貰えば良いじゃろう。……そうじゃ、護衛に騎士をつけようかの。これからの道中、愚かな者がいないとは限らんじゃて」
「良い考えですね、お父様! タケフサ様に何かあったら大変ですから!」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
俺が何も言わずに話が進んでくやつですね、分かります。
それにしても王女様の心証が凄い良くなった。リフティングで懐柔できるお姫様ってそれで良いんだろうか、これじゃあチョロインやん。
「それに関してはわたしも賛成ですね。わたし一人ではタケフサ様の身の回りの世話で精一杯ですから」
おいリリアさん。さり気なくディスるのやめて下さいな? 確かにこっちの常識には疎いけど! そんな手がかかる子じゃ無いでしょ⁉︎
「うむ、それでは護衛を一人、明日中に送ろう。なにか選定に要望はあるかの?」
「えっーと、じゃあ「からかい甲斐のある人でお願いします」リリアさんっ⁉︎」
そんなアホな選定聞いたことないよ⁉︎せめて一緒にいてもストレスじゃないとか──
「しょ、承知した。リリアが言うならそうしよう」
髭っ⁉︎
戸惑うくらいなら止めろよ! これ以上濃い人間くるのはゴメンだぞ⁉︎
「それでは今日はここまでということで。明日からタケフサ様と活動を始めます」
あ、ちょっ、俺の手首掴んで退出しようとしないで! 脈、脈が途切れちゃうから!
「承知した。今日は二人ともゆっくりと休むがいい」
「今日の、また見せて下さいねー」
「それではご機嫌よう」
「(声にならない声)‼︎」
リリアさんに手首を掴まれたまま、やっとこさ俺の部屋に着いた
「リリアさん、腕が痛いです」
「あら、失礼しました。てっきりこういうのが趣味だと思っていましたので」
「どうすればその思考に辿り着くのかな? 二十字以内で簡潔に」
「タケフサ様は変態だと思ったから?」
「ほんとにどういう思考してるの⁉︎」
「冗談です」
「俺、リリアさんについていけない!」
この世界、精神科医っていないのかな……診てもらいたいんだけど。
「医者に診てもらいたいのですか? 手配しましょう」
「診療してもらうのはリリアさんだけどね!!」
「ええ、冗談です」
「もう良いよこの下り!」
ああもう! 王様達と良い感じに話まとめられたのに何でここで躓くんだよ!
リリアさんはずっとうっすら笑ってるし、なに考えてるのか分からん!
「……ほんとにリリアさんどうしたんですか? 研究所行った辺りからちょっと変ですよ?」
ちょっと意地悪過ぎる。
少し表情が暗い気がしなくも無いし。
「あら心配してくれるんですか、ありがとうございます。けど何かあった訳でも無いですので。 夕食を食べたらタケフサ様もお休みになられた方が良いでしょう」
はぐらかされた。
そして待っていたかのようなタイミングで夕食を載せたワゴンを男の人が持ってきた。あ、朝にすれ違った人だ。
にっこりと俺に笑い掛けて、備え付けの机の上に食事を並べてくれた。
美味しそうだ。けど何かむしゃくしゃして味を気にせずばくばくと口に放り込んだ。
「あらあら、ゆっくり食べないと身体にも良くないですよ?」
「うるさいです! リリアさんのこと心配してるのにそうやって話しはぐらかして! そんなことも話せないほど俺は信用ないですか?」
リリアさんから返答はない。
やっぱり無性に苛立って、俺は無理矢理食事を水で流し込んだ。
「ご馳走様でした! リリアさんの顔明日まで見たくないです! おやすみなさい!」
俺はそう言うと、リリアさんがまだいることもお構いなしに平服からジャージに着替え、ベッドに潜り込んだ。
だが一向にリリアさんが出て行く気配はない。
「……なんですか、寝たいので火を消して明日まで顔を見せないで下さい! 」
「……怒ってても今日中に収まるんですね」
「うるさいです! 今日のうちに気持ちにケリつけるんですから!」
「……ふふ、分かりました、それではタケフサ様、おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
やっと蝋燭の火を消して、リリアさんが部屋を出て行った。
あー、むしゃくしゃする。なんか俺が悪いならちょっとは直せるかなと思ったし、そうじゃなくても相談くらいはしてくれても良いのに。
俺そんなに頼りないか?
それにどんなに今やるせなくても、明日には気持ちを切り替えなきゃいけない。
明日の朝また笑ってリリアさんに挨拶しなきゃ。
俺は必死に気持ちの落としどころを探して、そのまま眠りに落ちていった。
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コツコツと廊下を歩く音がする。
「……タケフサ様が悪いんですよ、あんなに他の人たちと仲良くなって」
メイド服姿の彼女は、小さくそう呟いた。