八話・ラモス流のお話♡ ……じゃなくて普通にね?
「それではよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む。それから始める前に、儂とエリザベス王女から謝罪をさせてもらおう。この度は我らの手違いで召喚を行い、本当に申し訳ないと思っている。すまなかった」
「申し訳ございませんでした」
そう言って王様と王女様が座ったままながら、深く頭を下げた。
これには俺もびっくりだ。
よくファンタジーもので王族は謝ってはいけない、とか言うからうやむやにされると思ってたのに。
非公式っぽい場だから良いのかな?
「お二人の謝罪は受け取りました。頭を上げて下さい。わたしはこれから、建設的な話し合いで良い関係を築けたら、と思っています」
「そう言ってくれると嬉しい。我々王国も、タケフサには全面的な協力ができるよう配慮していきたいと思っておる」
「ありがとうございます」
おお、いい傾向だ。
「配慮」だろうがなんだろうが、言質を取った。これは期待できそうだぞ?
「それではわたしの方から、プロサッカーについての説明を少し」
「うむ、頼む」
まずはここからだろう。
プロチームがない国ではその説明が無ければ、そもそもが始まらない。
なるべく印象良く、王家が手助けしやすいように話すべきだ。
「プロと言うのはまず、客商売です。この国では何か見世物がありますか?」
「うむ、王都では年に一度、人々、主に冒険者の腕っぷしを競う大会が闘技場で行われる。他の都市でも同じようなものじゃな。民達は皆これをこぞって楽しむものじゃ」
へえ。冒険者ってやっぱりいるのか。けどこれは良いな。見世物はあって、しかも闘技場まで揃ってる。
「なるほど。では王様、何故彼らはそれを観るのですか?」
「む……? ……それは魔法や剣術、その他戦闘術に見応えがあるから、じゃろうか」
「ええ、大方その通りだと思います。人は大概、自分より遥かに優れたものに憧れ、それを観ることを娯楽にするものですから」
或いは非日常に憧れる、とも言えるだろう。古代ローマのコロッセオなどはこの例だ。
日々の生活ではあり得ない人殺しをローマ人達がストレス発散に好んだ理由だ。
自分が当事者になりたいわけではないが、それを観るのは楽しい。うん、矛盾はしてないね。
「つまり、これをサッカーに置き換えたものがプロチームと言えます。人々を高いレベルのパフォーマンスで楽しませ、金を使わせ、経済を回す。儲けた金でまたそのパフォーマンスを上げる。この繰り返しです」
「なるほどの。しかし金を使わせると言ってもどうするのじゃ? 確かに儲かると言っても市民達が使うのは精々食べ物代が良い所じゃろうに」
王様が単純な疑問を俺にぶつけてくる。
そしてその疑問も尤もだ。この世界、おそらく冒険者の大会で金をとっていないだろう。
ローマもそうだが、国民のストレスの捌け口に金を取るのは愚物だろうから。
だが俺は、敢えてその道を行く。
「考えがあります。まず、サッカーを人気のスポーツにするのです」
「ほう?」
「人々は非日常に憧れますが、それが自分達に寄り添えば、愛着を覚えるものです。ですから、一つの都市に一つ、プロチームを置くのです」
「なんと!」
そしてそのチームのユニフォームやらなんやらで金を稼ぐ。
難しいが、難しいことではない。日本のプロ野球チームがファン獲得のため、敢えて地方にチームを置くのと変わらないのだから。
「王様、この国にはいくつ都市がありますか?取り敢えず人口の多いところだけで」
「う、うむ。人がある程度集まったところとなると……十八かの。一応辺境伯以上の者に任せている大都市じゃ。どこも闘技場があっての、人がよく集まる」
なるほど、ある程度大きな都市は身分の高い人間に任せているのか。しかしそのどれもが闘技場持ちか。なら話しは早いな。
俺は一つ息を吸うと、俺の考える計画を述べた。そしてここでそれを言うのは、俺の決意表明に等しい。
「十八ですか。それでは三年……いえ、二年以内にこの全てにプロチームを置きます」
「に、二年じゃと⁉︎」
王様が驚く。隣りで王女様も目を丸くして口を覆っていた。リリアさんは知らん。
「はい、二年です。これ以上は俺の年齢的に待てませんから」
俺は今十八だ。
そしてサッカーは悲しいことに選手生命が長くない、できて四十が関の山だろう。魔法で何かできるならば別だが、カズでもなければそれ以上は無理だ。
「お、お主は若いと思うがの。しかしそう言うのであれば二年でやるのじゃな?」
「ええ。その間に問題は全て解決していきます」
「むう……それでは今のところの問題点を挙げて貰おうか」
難しい顔をしながら、王様がそう言った。
理解が早くて助かる、それに問題を聞いてくれるとは。
ここまで親身になって話を聞き、問題点を洗ってくれる一国の王がいただろうかいや、いない。(反語)
俺はこくりと頷いて問題点を挙げ始めた。
一つ、サッカーの人気が薄いこと。人気が無ければ観てくれる人がいない。
二つ、闘技場の整備。少なくとも70×100程度の広さで、地面が芝らしきものでないといけないこと。
三つ、その他の製品の規格のこと。一番面倒なボールはどうにかなりそうだが、ゴールやスパイク、ユニフォームまで必要なものは多い。
四つ、周囲の金持ち、特に貴族の助けを得なければいけないこと。闘技場の貸し借りとか。今は無理だろうが、人気になれば金儲けで食いつく貴族はいるかもしれない。……会いたくないなぁ。
五つ、選手とその他のスタッフがいないこと。
……頑張ろう!
「──こんな感じですかね」
「……前途多難じゃのう」
本当に。
だが頑張って解決していくしかないだろう。幸い、バックに王家がついていればどうにかなる筈だ。
「取り敢えず儂にできることはあるかの?」
「ええ、沢山。取り敢えず二年後にプロチームを作ることの説明を貴族と民衆に周知して下さい」
「お主、人使い荒いって言われない?」
「安心して下さい、わたしは基本使われる側です」
じとりと王様に見られた。本当だって、寮母さんとその娘にパシられる毎日だったんだから。
って、おい王女様。小さい声で嘘ですわ、とか止め「嘘でしょう」なんでリリアさんも言うねん。
「まあとにかくお願いします」
「面倒じゃのう。さっきお主がした説明をもう一回か……あ、そうじゃそうじゃ。先にお主のサッカーの凄さを見せてくれんかの?その方が儂のモチベーションも上がろうて」
「良いでしょう。今日は特別にタダで見せてあげます」
「金取るんかい」
「自分の安売りはあんまりしたくないですから」
お?ラ・リーグ見るのにファンの皆さん幾らかけてると思ってるんだ?
リアル・マドリーとのエル・クラシコなんて最低価格で九万超えるからな?
まあいい。言っても分からんだろう。
「なにかボールありますか?」
「うむ、用意してあるぞ。ほれ」
そう言って王様は座っていたソファの後ろからボールを取り出した。
「おお!」
ボールだ!王様から受け取って感触を確かめる。布製だけど空気もそこそこ入っている。サイズもあまり違和感はない。一昔前のサッカーボールって感じだ。
「ここで良いですか?」
「うむ、ものは壊すなよ」
壊さんよ、そんな下手じゃないから。
ソファから立って赤い絨毯の上で軽くボールを弾ませる。綺麗な球ではないので安定はしないが、問題無い。
足裏でボールを巻き上げて、軽くリフティングから始める。
「おお。鮮やかじゃの」
「わぁ。凄いです!」
順に王様、王女様。
こんなので驚かれちゃあな。お忍びで出たフリースタイル大会で優勝までした俺には、もはやリフティングなど呼吸に等しい。
「じゃあいきますよー」
「むむ!」
「わっ、わっ!」
取り敢えず簡単なアラウンドザワールド。
リフティングを続けながら、ボールを蹴った足を一回転させる。これを二回転にすればダブルアラウンドザワールドだ。簡単簡単。
さらに次はクロスリール。リフティング中に軸足でない方の足をクロスさせ、そこでボールをバウンドさせる。
この二つを組み合わせれば、既にちょっと技だ。
さらにさらに、全身を使ってリフティングを続ける。足裏、腿、肩、頭。
最後にボールを少し高く跳ね上げる。天井高いと当たらなくて良いね。ボールはくるくると回りながら、重力に引かれて落ちてくる。
俺は前屈みになりながら、それを背中で受け止めた。
「ほいっ、と。以上です。ご覧いただきありがとうございましたー」
ボールを背中に載せたまま、どこかのマジシャンよろしく、お辞儀した。
王女様が興奮したように手を叩き、隣の王様も楽しそうに笑っていた。
リリアさん?相変わらず微笑をたたえていますよ。後は知らん。
「いやー、思っていた以上だったのう!良いものを見れた」
「ありがとうございます。まあ室内でやるのでしたらこんなものでしょう」
賛辞に少し頭を下げて、俺はそう言った。
まあどれも滅茶苦茶すごい技では無いけど、組み合わせや見せ方次第でまさに魔法のように見えるものだ。
観ていた方は楽しいし、それを見た演技者も楽しい。うん、サッカー最高。
「タケフサ様、タケフサ様。さっきの技もっと見たいです!」
昨日は髭と一緒に震えていた王女様が興奮気味にそう言った。
「おお、それは嬉しいですね」
いや、掛値なしに嬉しい。調子に乗ってぽんぽんと技を見せる俺。調子に乗りすぎてシッティングの技まで見せてしまった。
滅茶苦茶安売りした気がするけど、王女様が喜んでくれたし、良しとしよう。
リリアさん? 相変わらず微笑んでるよ。俺のパフォーマンスを初見で驚かないとは。ちくせう。
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公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵
が、貴族の身分です。辺境伯以上がいわゆる大貴族で、騎士爵は平民が与えられる名誉貴族の身分です。よって血族魔法は使えません。
それと、辺境伯は左遷された人じゃありませんので。辺境を守れるほど優秀な人達です。多分。
感想いただきました、ありがとうございます!
いやー、ほんと嬉しいですね。自分が思ってた以上に嬉しいんですよ。最高です。嬉しくってもう一話書きました。
てことでこれからも読んでいただければ幸いです!