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第七話・からかい上手のリリアさん


 「ご、ごほん。取り敢えず分かったの?お主の属性は『無』じゃ。 これで目的は達成のはずじゃよ」


 グー◯ルマップなしでフィレンツェに行った時くらい道に迷った気がするが、下卑た顔のリリアさん(性悪メイド)は置いておいてソフィアの方はなんとか平生に戻った。


 「そうだな。しかもかなりの大収穫だったよ」

 「サッカーボールと言ったかの?もし訓練が必要ならここに来ると良いぞ。わらわが暇なら教えてやるのじゃ」


 無属性魔法は難しいからの、と言ってソフィアが朗らかに笑った。

 こういう笑顔は歳に引っ張られてないようで良かった。しかもちゃんと優しいし。

 

 魔法の使い方についてもう少し知りたかったけど、話を踏み込もうとしたらリリアさんに時間です、と耳打ちされた。


 むむ、いつの間にか仕事の顔をしていらっしゃる。こういう切り替えの速さはプロのスポーツ選手も顔負けだな。


 「それじゃあありがとう、ソフィア。また遊びに来るよ。今度は菓子折りでも持って」

 「ふふ、嬉しいのう。良いお菓子を頼むぞ?わらわはクリームのが好きじゃ!」

 「おう、楽しみにしてろよー」


 それを買う金、俺のじゃないけどな。


 そうやって少し話してから俺は席を立ち、リリアさんと一緒に研究所を後にした。


 これまで会った中で最高の人物との暫しの別れに、後ろ髪が引かれる思いだ。


 え、リリアさん? ……この人はちょっとヤバいってのが分かったよ。お仕事中との温度差が、ね……。って、あれ?俺のお供って仕事だよな?

 もしかして、リリアさんがとソフィアとしかいない時ってお仕事だと思ってないのか?


 じっ、と横を歩いているリリアさんを見たけれど、答えが出るわけでもない。


 「……なんですか?」

 「いや、別に」

 「さっきもこんなのありましたね」

 「そうだったかも」



 てくてく。



 今日は移動が多い。特に階段。今俺は王城の長い長い階段を歩いていた。

 エッフェル塔の階段かな?ってくらい長い。まあ外から見てあそこまで大きいならそりゃあそうか。

 軽く息を上げながらちらり、と隣のリリアさんを見た。息を上げるどころか平然とした顔でするすると上へと()()()いるリリアさんと目が合う。


 「どうかしました?」

 

 すました顔でまたそう聞くリリアさんは何か透明な板らしきものに座り、滑るように上へと昇っていた。小型エスカレーターみたいだ。すごい楽そう。


 「………いや、おかしいでしょ! なんで俺がへばりながら歩いてるのにリリアさんはそんなのに乗ってるのさ!? 一応俺って客なんだよね⁉︎」


 もう俺って客じゃなくて、どこか敵対国の使者くらいの身分なんじゃないんだろうか。

 あまりの扱いに泣きたくなる。するとリリアさんは相変わらず微笑をたたえ、言葉を紡いだ。


 「タケフサ様は()じゃないですよ?」


 あ、そうなの?

 もう客ですら無かったんだね、リリアさんの中では。……この国の総意じゃないよな?


 「……じゃあなんなんです?」

 「お客様です!」

 「言葉遊びしてるんじゃないんだよ⁉︎」


 敬語かどうかとかどうでも良いから! てか俺が自分のことを言ってるんだから()で良いんだよ。

 王国からどう思われてるのかってちょっと構えた俺が馬鹿みたいじゃないか。

 

 「楽しそうですね、リリアさん……」

 「ええ、そりゃあもう」


 くすくすと笑うリリアさん。俺は恨めしそうに彼女を見た。ちなみに階段は登り続けている。

 

 「こんなに楽しい方は王族にいなかったですから」

 「……案外王様とかお茶目そうでしたけどね」


 やらかしたことと会話の内容が。王女様も追加でいいかもね。


 「あら、あの人達は本当に馬鹿なだけですもの。からかいがいがあるのはタケフサ様ですよ?」

 「衛兵さん、不敬罪の現行犯ですよー」

 「残念、ここは衛兵いないんですよ。階段ですから」


 余裕綽々だ。……リリアさんって本当にメイドだよな? 実は王様とかじゃないよね?


 「惜しいですねー」

 「惜しいの⁉︎」


 なんてことを宣った。

 え、これ俺が不敬罪なやつ?

 

 「わたし、実は王族なんですよ。王弟の娘、今の王の姪です」

 「マジかよ」

 「マジです」


 なんでも、デキるメイドさんに憧れて王城付きのメイドになったらしい、王位継承権は剥奪で。

 そんなドヤ顔で言うことじゃないですよ?


 「王様よりも裏で暗躍するメイドの方が凄そうじゃないですか?」

 「見方によるってやつですな」


 凄そうだけどそれだけでメイドさんになるものなの?

 やっぱリリアさんて変な人だ。


 「あ、この階ですね。もう応接室に着きますよ」

 「……終わった後に詳しく聞いても?」

 「ええ、よろしいですよ」


 果てしない階段がやっと終わりを迎えて、今度は長い廊下をてくてくと歩きながらリリアさんにそう言った。

 

 「着きましたよ」

 「はいはい」


 木目の綺麗な扉の前に着いた。赤い絨毯といい高そうなアンティークといい、いかにもだなぁ。


 俺は人差し指の関節で扉を三回叩いた。ノックノック。


 「入って良いぞ」

 

 中から髭の声が聞こえた。


 「失礼します」


 神妙にそう言うと、扉をゆっくりと開いた。

 職員室に入る中学生気分だ。

 

 中に入って、昨日の召喚された部屋だというのに気付いた。

 王様と王女様がまた昨日と変わらずソファに座っている。


 「おお、よく来たの。座ってくれ」

 

 そう言って机を挟んだ反対側に手招きする。俺はぺこりと小さく会釈してからそこに座った。

 うん、柔らかい。


 「それでは今日はお主の──タケフサの──今後についての話し合いじゃの。この国の情報はいるかの?」

 「よろしくお願いします。あ、リリアさんに聞いたんで情報は要らんです」

 「左様か。では始めるかの」

 「はい」


 さて、正念場だ。


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