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六話・異世界ってあるあるで出来てんの?


 「──はい、着きましたよ。宮廷魔法士の通い詰める研究所です」

 「わー、あっという間」


 俺は魔法の属性を調べてもらうため、リリアさんに連れられて王城のすぐ横に併設された研究所にやってきていた。


 リリアさん曰く、魔法大好きな変人達が昼夜問わず自分の好きな研究を続けているらしい。

 王家のほうは成果が出なくてもやる気さえあれば特に口出ししないようで、割とみんな好き勝手にやっているらしい。

 つまりは……


 「マッドの集まりかよ……」

 

 そういう訳だ。

 今も、どこからともなくなにかが爆発した音が聞こえるし、俺の視界の端の方では変なメガネをした白衣の人が、狂ったように高笑いしている。

 

 「タケフサ様、どうかしましたか?」

 「いえ、なんでもないです……」


 なにも見ていないかのように平然とスルーしているリリアさんが怖い。

 ここじゃあこれが日常茶飯事なんだろうか。


 「今日は『鑑定魔法』を持っている、ここの所長に見てもらいます。信用できる腕の持ち主ですから安心して下さい」

 「それは良かったです」


 ええ、安心できてますとも。その方の魔法の腕前には。どうせならその人の人格にも安心したいところです。


 心の不安を隠しきれないまま、俺はのろのろと焦げ臭い臭いのする廊下を歩き、何故か所々の段差が欠けた階段を昇った。

 

 そして五階が最上階なのだろう。そこまで昇ると上へと昇る階段が消えて、大きな両開きの真っ赤な扉が目の前に悠然と立っていた。

 

 そのドアにはおどろおどろしい血を流したようなデザインのドクロがかかっていて、その額に小さく『ソフィア』と可愛らしい名前が書かれている。

 色々と意味が分からん。


 「なんなんですか、これ」

 「やはりお気付きになりましたか。この異様さを」

 「え?はい」


 やっと言葉を紡いでリリアさんに聞くと、リリアさんが何故か、流石だ、と言わんばかりに大きく頷いた。


 ……え、これって誰でも変だと思うよね?なんでリリアさん、こんなに大袈裟に反応してるの?


 「やはり階段の終わりに部屋の入り口があるのはおかしいですよね。 明らかな設計ミスなのに所長が認めないんですよ」


 ………………はい?


 えっと、確かに部屋が階段終わった後にすぐ来るのは珍しいけど……。そこじゃなくない?


 もっと扉のデザインとかさ!なんか無駄に可愛い所長の名前とかさ!もっとなんかあるでしょ!?

 なんでそこに目をつけるの⁉︎CL決勝でずっとボールボーイ見てるくらい頭おかしいよ!(知り合いで一人いた。)


 「──そういう訳でここの所長は少し偏屈張りなんですけど、気にしないで下さいね?」

 「よっぽど変な方なんですね……」


 常識人ぽいリリアさんが毒されるくらいには。

 まさかまともに見えたリリアさんまでこうだなんて……この世界には一癖二癖あるやつしかいないのか!?


 「では入りましょうか」

 「はい……」


 そう言ってリリアさんがドアノッカーを叩いた。

 うん、所長さんに会う前からくたくただよ。ここに入ってから色々と警戒してたけど、もうその元気もないや。


 「誰じゃー?」

 「リリアです。お客様を連れて来ましたよ」

 「おお!入るのじゃ!」


 ……ん?声が名前相応だ。ちょっとジジイ言葉な気がするけど。


 俺が少し戸惑っている間もなく、扉が勢いよく開いた。リリアさんと俺は言うまでもなく、中で誰か開いた気配もない。

 なんか魔法っぽいな。それかマジック。


 「おお……」

 

 部屋に入ってみると、その扉からは想像出来ないほど、ちゃんとしている。普通の執務室とでも言うべきだろうか。高校時代の校長室を大きくした感じだ。


 扉から向かって真正面にいかにもな机があって、後ろにある大きな窓から光を浴びている。


 「よく来たの、リリア。お客人とは隣の者かの?」

 「久しぶりですね。それとこちら、タケフサ様です」


 おおう?

 おかしい。声はするのに、姿が見えない。周りをきょろきょろと見回して見たけれど、それらしい人影はなかった。


 「くふふっ。わらわを捜しておるのか? ぬしの目の前じゃ、目の前」


 どこぞから聞こえる謎の声に言われて、俺は前にある机を見た。

 うん、どう見ても無人の執務机だ。

 首を捻って考えてはみたが、なにか出てくるでもない。さては声の主、透明人間なのだろうか。


 「くふふふ。やはり何回やっても楽しいのう。ほれ、すまんかったの。わらわはここじゃ」

 「へっ!?」


 特徴的な笑い声と共にガタリと音がして、机の下からにゅっと人の頭が出てきた。

 戸惑う俺を尻目に、大きな椅子に堂々と腰を下ろして高らかに名乗りをあげた。


 「はじめましてじゃ、タケフサ。わらわはソフィア。ここの所長、変人どもの取りまとめ役をしておる」


 そう楽しそうに喋る女性(ひと)は美しい容姿をしていた。金色の長い髪の毛と綺麗な青色の瞳、整った顔立ちに細くて色の白い腕。そして何より、120ないのではないかという低身長。


 「…………幼女?」

 「ぬ⁉︎ お主それは禁句じゃぞ!これでもわらわは百をこえておる!」

 「あ、そうなんですか。すみません」


 研究所の所長が、のじゃロリだった件。

 ここまで異世界要素を詰め込まれると俺はもうついていけない。次会うのは、くっころ系の女騎士さんだろうか?

 ……フラグか?これ。


 「ソフィアは妖精族(ピクシー)という種族です。寿命が千年くらいの長命種なんですよ」

 「あ、そうなんですね」


 ほえー、流石異世界。馬車の時、リリアさんの説明になかった気がするけど、こんなのもいるんだ。


 「えっと……遅れましたけど、異世界から来ました、タケフサ・オノです。よろしくお願いします」


 取り敢えず俺がそう挨拶すると彼女は椅子から降りて、てこてことこっちに向かっきた。

 

 なんだなんだ。なんかミスったか、俺。


 少し焦っていたら俺の前でピタリと足を止めて、その小さな手を差し出してきた。


 「……えーっと?」

 「む? 握手じゃ、握手! それと堅苦しいから普通に喋るのじゃ!わらわのことはソフィアと呼んで良いぞ!」

 「……そういうことなら、よろしく」


 うーん、フレンドリー。

 取り敢えず差し出された手を握って握手したけれど、正直どう相手すれば良いか分からない。なんせ百歳だからなぁ。


 「良かったですね。タケフサ様、ソフィアに気に入られましたよ?」


 俺がソフィアとの距離感を計りかねていると、リリアさんがそう声をかけてきた。


 あ、このすごいフレンドリーな感じ、デフォじゃないんだ。


 「うむ! お主はなかなか良いやつだとわらわは思っているぞ! ここまで人を気に入ったのはリリア以来じゃ!」


 ソフィアの方を見ると、彼女は大きく頷いて、そう尊大に言い放った。

 よく分からんけどリリアさんは気に入ってるんだ。確かに仲良さそうだしね。馬が合うってやつだろうか?二人のチグハグ感すごいけど。


 「ちなみにその根拠は?」

 「勘じゃ!」

 「あっ、そういうやつね」

 「そういうやつじゃ!」


 うーん、あんまり深く考えちゃいけないやつだろうか。確かに俺にもなんか嫌い、って奴いたし。


 「では今後またお話するとして。ソフィア、今はタケフサ様の属性の鑑定、お願いします」


 いいタイミングでリリアさんが話を進めてくれた。確かにこれが目的で来てるんだから、そっちを終わらせるのが先決だろう。


 「ふむ、その通りじゃのそれじゃあそこのソファに座るのじゃ」


 同じことをソフィアも思ったのだろう。彼女も頷いて、俺とリリアさんを部屋に備え付きの三人掛けのソファに座るよう促した。

 俺が柔らかいソファに埋まるように座ると、ソフィアは机にあったのとは別の、少し軽そうな椅子をずるずるとずらして持ってきて、俺の前に座った。


 「それではタケフサ、わらわが今から言うことを復唱するのじゃ」

 「わ、分かった」


 魔法を使うのに必要なことなのだろう。

 慣れないことを提案されて少し声が上ずったが、なんとか返した。


 「よし、いくぞ? ……『(おれ)は汝に監査を許可し、その一切を晒す』はい、復唱じゃ」

 

 どこの闇金かな?


 「………己は汝に監査を許可し、その一切を晒す」

 「うむ、ここまでで良いぞ。よし、『鑑定』」


 俺が胡散臭い誓約を復唱した後、ソフィアが俺の額に人差し指を当てた。そして『鑑定』と呟くと、その指先が暖かい光で包まれた。

 

 なんだかんだ転移の魔法以来初めて見る魔法を目にして、少し興奮する。俺はその光景を忘れないように、額で光るソフィアの指先を上目遣いで注視した。


 ……ちょっと眩しいかな。

 

 「ふむ、終わったぞ」


 俺の視界がちかちかと瞬いて見えるようになった頃、ソフィアが指を俺から離した。いつの間にか光は消えていて、もとの血色の良い指先に戻っている。


 「どうでしたか、タケフサ様の属性は」


 リリアさんが口火を切った。もちろん俺も気になる。


 「うむ、なかなか面白い結果じゃったぞ?さすが異世界人じゃのう」

 「と言うと?」

 「まず魔力量じゃが、中の上といったところかのう。まあ魔力が少なくて困ることはないじゃろ」

 「なるほど」


 中の上か。まあそこそこなのだろう。俺は魔法使えれば便利だなぁ程度の認識だし、問題はないだろう。


 「次に属性魔法だがの、なんと無属性じゃった」

 「あら、珍しいですね」

 「うむ。どうやら使えるのは結界系統の無属性魔法じゃの」

 「結界……?」

 

 結界というとぬらり◯ょんの孫とかで陰陽師がよく使ってたあれだろうか。なんか強そうだけど結局破られちゃうやつ。


 「結界の魔法はの、空間に盾を作り出せるのじゃよ。上手く使えば好きに形を変えて人を閉じ込めたりもできる、なかなか使いやすい魔法じゃの」

 「へぇ……ん?好きな形に変えられる?」

 

 そこそこ当たりらしいその魔法の使い道を聞いていたら、俺の頭に一つの可能性がよぎった。

 どくんと俺の心臓が脈打つ。

 

 「うむ。上手く使えばの……って、いきなりわらわの手を掴んでどうしたのじゃ⁉︎」

 「ソフィア!その結界って球体にもできるのか⁉︎」

 「う、うむ出来るぞ? とにかく一旦手を離すのじゃ」

 「それって重さを変えたり、硬さを変えたり出来るか⁉︎」

 「ど、どっちも可能じゃ!だから手を離すのじゃ!」

 「〜〜〜っ‼︎!きたっ!! ソフィア最高!」

 「ムグッ⁉︎  こ、こら、抱きしめるでない!」


 丸くて重さ、硬さを変えられる。

 つまりそれは、サッカーボールを作れることを意味しているのだ。


 こっちの世界では用意できないサッカー用品として一番懸念していたのは、サッカーボールだった。

 まず完全な球形は作るのが難しいし、主な原材料となる人工皮革はまず存在しないであろうから。

 

 それも含めて王様と話そうと思っていたのに、その悩みが一発で解決されたのだ。嬉しくないわけがない。


 「ムグー! 早く離すのじゃー!!」

 「あっ、ごめん」


 気が付いたら、いつの間にかソフィアを思いっきり抱きしめていた。

 ぱっと手を離すと彼女はなぜか頬を赤く染めて、息を荒げている。


 「タケフサ様……小さい子どもが好みだったのですね……」

 「はい?」


 おっとっと、リリアさん、それは誤解だぞ?

 

 「ソフィアをこんなに赤くさせてしまって。この人を異性に目覚めさせるのが目的なんでしょう?」

 「ええ? すごい冤罪かけられてるんだけど」

 「わ、わらわは息が苦しくて赤いだけじゃ! タケフサがどうとか関係ないのじゃ!」

 

 ソフィアさんや、まだ顔が赤いから、ちょっと休んでなさい。それじゃあ否定してても説得力ないから。

 ほら、ソフィアさんが今までに見たことないくらい下卑た顔してる。


 顔を赤くしてはあはあ言ってる見た目幼女と、下衆を極めたような顔をしたメイド。

 おかしい。魔法の適性を見てもらいに来たのに。これが迷走というやつだろうか。

 



なんか僕が迷走しましたね。


ブクマを恵んで下さい……!

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