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五話・ゴルパフォでシャツ脱ぐのはイエローカード。

 前話にチラッと出てきた『血族魔法』ですが、これは貴族の血族のみが使える魔法です。(血族魔法にも色々あって、その家によって魔法も変わります。レーザーみたいなの撃ったりとか、亜空間に敵を飛ばしたりとか。)


 この魔法は非常に強力ですが繊細で、仮に貴族と平民の間に子どもが生まれても、決してこれは受け継がれません。

 貴重な血族魔法を廃らせないために、大陸内で人族の統治する国は貴族と平民の結婚は原則禁止とされています。それだけ人類や国の盛衰に関わるものなのです。


 


 「降りましょうか」

 「そうですね」


 リリアさんがそう言って、俺も頷く。

 降りようとして腰をあげたら、護衛の騎士の人が扉を開けてくれた。


 俺は軽く会釈をしてから馬車を降りて、辺りを見回した。

 

 まず目に飛び込んできたのは目の前の建物だ。

 俺たちが乗ってきた馬車のすぐ横に、赤いレンガ造りのお店があった。

 扉の上にある看板を見れば、『チャネル服飾店』と書いてある。


 「めっちゃパチモンくさいな」

 「なにかありましたか?」

 「……いや、なんでもない」


 何処かで聞いたことのあるような名前に思わず呟いてしまった。

 それにしても誰だよこの店作ったの。絶対ココ•シャ◯ルだろ。


 「入りますよ」

 「あ、はい」


 リリアさんは俺の複雑な思いなど知るはずもなく、堂々とその店の扉を開ける。

 重そうな木で出来た扉が小さく軋み、ドアベルがチリンとなった。

 

 リリアさんに続いて中に入り、お店を見渡す。

 シャ……ゴホン。チャネルの内装はまるでお洒落なカフェのようだった。

 絨毯のひかれた床板に、落ち着いた色調の壁周り。それに映えるアンティーク。服屋のはずなのに服は置いていなくて、離れた間隔で幾つかソファがある。よく見ればその奥に個室があるようだ。


 「いらっしゃいませ。本日はなにをご所望でしょうか?」

 

 周りを眺めていたら静かな語り口調の老紳士然とした人が話しかけてきた。歳は六十くらいだろうか。綺麗な長い白髪を後ろで一つにまとめている。


 「王家の依頼になりますが、この方に服を幾つかお願いします。礼服を二着、平服を三着以上です。既存のもののサイズを合わせていただければ、それで問題ありません」


 リリアさんがすらすらと答えてくれた。俺は分からないことが多すぎるから、やっぱり頼もしい。


 「かしこまりました、市販品の方をお待ちいたします。……それでは侍女様はこちらでお待ちいただけますか?個室の方で採寸いたしますので」

 「わかりました。ではよろしくお願いします。……タケフサ様、それでは行ってきて下さい」

 「はいはい、行ってきますねー」


 リリアさんに促されて、老紳士の後ろをついていく。


 うーん、話がまとまるのが早いなぁ。これだけ簡単に決めてくれるとこっちは楽でいいや。


 

 ──────────────────────


 「それで?なめてかかっていたらこのザマになったと」

 「採寸舐めてました……てか採寸されてからの質問の方が長かった……」


 俺は今、ぐったりとソファに座りながら横でお行儀良く座っているリリアさんに愚痴っている。


 ここまでなにがあったかと言うと、まず小部屋に入ると二人、メジャーを首から下げたいかにもな女の人がスタンバっていた。

 

 その二人の言われるがまま、俺は身体のサイズを測られまくり、次に関節の可動域を観察され、最後にはどういった体勢をいつもよくとるのかというようなよく分からん質問をされまくり、今に至る。

 

 いや、まさか採寸で一時間もかかるとは誰も思わないでしょ。二人の女性がきゃいきゃい話しているのに挟まれながら一時間は、流石にキツいものがある。

 

 「このお店はお客一人一人に合った服を選ぶことに全身全霊かけてますからね。オーダーメイドを頼んでいたら多分倍はかかっていたと思いますよ」

 「倍!?」


 リリアさんの衝撃の発言に、驚きつつもその過程を想像してみる。

 ……あれ、死ぬ気しかしないぞ?

 

 「……リリアさん、ナイス判断です」

 「お礼は現金でお願いしますね」

 「元の世界並みにお金が入るんならそれでも良いですねー」


 給料とSNSの広告代で数十億稼いでいたのが懐かしい。今は無職で、しかも所持金ゼロだからなぁ。

 ……王様に見放されてたら今頃のたれ死んでるな、俺。


 「お待たせいたしました、お客様。商品の方、調整が終わりました」

 「おお」


 俺のIfストーリー(悲しい末路)を想像していたらポニーテールおじさん(命名、俺)が商品を持ってきてくれた。

 と言っても、綺麗に組み立てられた木箱だ。多分中に服が入っているだろうから商品と買ったけど、衣装箱ってこういうのを言うんだろうか。

 そしてそれをするりとリリアさんが受け取っている。


 「今回は礼服を二着と平服を四着ご用意させて頂きました。 それぞれデザインを少しずつ変えてありますので、お客様のご気分で選んでいただければ幸いでございます」

 「わ、わざわざありがとうございます」

 「恐縮でごさいます」


 にっこりと微笑むポニーテールおじさん。動作の一つ一つが綺麗で、とても優美だ。俺みたいな成金(現一文無し)とは格が違う。


 ……あだ名をつけたのは良いけど、失礼すぎる気がしてきた。


 「それでは失礼します。タケフサ様、王城に戻りましょう」

 「あ、了解です。すいません、ありがとうございました」

 「いえ、ご利用ありがとうございました。またお越し下さいませ」


 ぺこりと頭を下げるおじさんと、挨拶もそこそこに歩いていくリリアさん。

 俺も軽く挨拶してから慌ててリリアさんに追いついて、店を出た。


 「あ、お帰りなさ〜い」

 「はい、戻りました。荷物をお願いします」

 「了解で〜す」


 のんびりとした御者さんに買った服を預けると、リリアさんは扉を開けて、俺に入るよう促してくれた。


 ……リリアさんがするより俺が先に行動するのって、馬車の乗り降りだけだな。


 優秀なこのメイドさんに、全て頼りっきりな気がしないでもない。

 うーん、精進あるのみ、なのか?


 「私の顔になにかついてますか?」

 「いーえ、ついてないです。何でもないですよ」

 「……?そうですか」






 ──────────────────────


 



 「あ゛ーー疲れたー」


 俺は今、部屋のベッドに倒れ込んでいる。


 ちなみに後ろではリリアさんが一つため息をついているが、俺には聞こえていない。そういうことにしておく。


 「タケフサ様、お若いんですからもう少し堪え性があっても良いのでは?この調子では貴族の人付き合いくらいで音を上げそうですが」

 「えー、貴族の付き合いって。俺貴族じゃないから関係なくないですか?」


 うーん、ため息は聞こえなかったけどお小言は聞き流せそうにないな。

 ……おっと、リリアさん。馬鹿を見る目とため息はやめてくれ。結構傷つくから。


 「まったく……それ本気で言ってるんですか? タケフサ様はサッカーのぷろりーぐ?をつくるのでしょう?貴族と話さないなんて絶対に不可能です」

 「……そんなに?」

 「土地、金、利権……貴族が全てに絡んでいるんですよ?当たり前でしょう」

 「うげー……やっぱそうだよなぁ……」


 リリアさんに呆れられたが、別に俺もそれくらいは分かっている。


 けどデブくて性格ねじ曲がった貴族──所謂ファンタジーあるある──に会いたくなくて渋っただけなのだ。

 だって絶対いるじゃん、そういうやつ。

 サッカー協会にも三、四人くらいはいたぞ。そいつらに限ってサッカー未経験で、しかも金のことしか考えてないんだよ。


 「兎に角、もっとぴしっとして下さい。着替えたら宮廷魔法士のところに行きますよ」

 「へ?きゅーていまほーし?」


 聞き慣れない言葉に、思わず俺は聞き返した。

 宮廷の魔法士。魔法使いのことだろうか?


 「モグリの魔法使いとは違う、王家お抱えの魔法使いですよ。タケフサ様の魔法属性を見てもらいます」

 

 概ね予想は合っていたのだろう。けど俺の属性が分かるとなにかあるのか?

 リリアさんにそう尋ねると、


 「色々メリットがありますよ? もし血族魔法が使えたら貴族として扱われることができますし、仮に使えなくても魔力の使い方を知れば自衛にも役立ちますから」


 との回答をいただいた。

 

 なるほど。

 確かに貴族相手に何かするにしても、俺が平民か貴族かでまったく扱いが変わってきそうだ。

 自衛は………うーん、体術系統には自信あるけど、魔法は魔法じゃなきゃ止まらないのかな?やっぱり覚えていた方が良さそうだ。

 

 「それに魔法使えたら楽しそうだな……」

 「そうでしょう?では早く着替えて下さい。平服でいいですから」

 「はーい」


 ぼそりと呟いた声をリリアさんに拾われて、取り敢えず俺も着替えることにする。

 

 服を入れた衣装箱(?)を開けて中を覗く。ご丁寧に、服の一つ一つに『平服』、『礼服』と書かれたタグがついていた。


 「よっ……と」


 『平服』と書かれたものの一着を取り出してみる。

 形は中世の簡素な服のようだ。変なフリルみたいなのはついていないし、色も落ち着いた黒に近い紺をしていて俺でも抵抗はない。

 コスプレみたいな服じゃなくて本当に良かった。俺にアキバデビューはまだ早い。


 「じゃあ着替えますねー」

 「はい」

 

 リリアさんに声をかけて、上着を脱ぐ。と言ってもクラブのウィンブレなのでチャックを下ろすだけだ。

 そして中にきたシャツも脱ごうと手をかける。と、そこで俺の手が止まった。


 「……あの、リリアさん?」

 「はい、どうかしましたか?」


 何故かリリアさんが部屋にいた。


 「いや、着替えてるんだから外にいて下さいよ!これじゃあ僕が人に裸見せつける変態みたいじゃないですか!」

 「あら、恥ずかしいんですか?それならそうと言ってくださらないと。それじゃあ出てますね?」


 違う、そうじゃない。

 てかゴール決めたらなぜかシャツを脱いでパフォーマンスし始める人種に、そんな羞恥心はないぞ。俺はあくまで倫理の話しをしているんだ……!


 そんな俺の心の葛藤も聞かず、すたすたと部屋を出て行こうとするリリアさん。

 

 俺の言い訳も聞かないで出ていかないで、リリアさん!俺の男としての尊厳が!


 「リリアさん話しを聞いて! ………行っちゃったよ、あの人」


 おかしい。

 リリアさんを出ていかせたかったはずなのに、何故か今は、彼女を引き止められなかったことに絶望している。これが魔法なんだろうか。


 「……さっさと着替えよ」


 俺はゴールを決められた後の口に出せない悔しさを振り払うように、今の悲しみを忘れることにした。


 ……切り替えって大事だね!

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