二話・王様とお話し合い
「ねえ、これちょっとやばくない?」
「お、お父様、どうしましょう?」
「王、なにかありましたか!?怪しげな物音と光りが──」
「な、なんでもない!呼ぶまで外で待っておれ!」
ふと気付いたら、声が聞こえた。
どうやらあのよくわからない魔方陣的なものに巻き込まれて、意識がとんでいたようだ。畜生め。
俺はスポーツバッグの上に倒れていた身体を起こした。どうやら荷物も一緒に来たらしい
そして辺りを見渡す。目の前に広がっているのは宮殿だった。
語彙が小学生?しょうがないだろ。実際バッキン◯ム宮殿みたいなんだから。
強いて言うならそこの応接室みたいな感じだ。無駄にセンスのいい綺麗な家具が揃っている。
そうそう、赤い布地の張った高級そうなソファに座った、怯えた様子の茶髭の男と、その娘らしい、少し雰囲気の似たブロンドの髪の毛の女の子──っておい!
「……すいません、ここは?」
「ひっ!お、起きましたよお父様!」
「お、おおおお落ち着くのだ娘よ。話せばきっと理解してくれるはずじゃ」
「……」
……はじめからここまで慌ててると大体なにしたのか分かるぞ。てか一番落ち着いてないの父親の方だろ。
「すいません、ここは?」
「ご、ごほん!ようこそ異界の人よ!ここは西ゴウト王国、大陸の最西端じゃ。そして儂はこの国の王、テウデベルト二世、そして娘のエリザベスだ」
「……取り敢えず、俺がここにいる理由を聞かせて貰えますか?」
聞いたことのない国の名と、王と名乗る髭の男。こいつが言うようにおそらくここは異世界なのだろう。
一発その髭面にサッカーボールキックをかましたいところだが、俺は冷静だ。
この自称王様が異世界転移の原因かもしれなくても、話しは聞かないといけない。
「う、うむ。実は娘と今魔術勝負をしていての?儂らの得意な魔法が転移系の魔法だからその……」
「その、なんですか?」
尻すぼみになる王様の声に、つい声が大きくなった。試合後の疲れのせいか、いつもより短気な気がする。
落ち着け、怒っても良いことなんか無いんだと心を落ち着かせる。
よし、凪いだ海のような心で王の説明を──
「相手よりも遠いところのものを取り寄せられたら勝ち、的な……」
「てめぇ舐めてんのか!?」
ブチ切れた。
「ひいっ!? ほんとにすまん!娘が適当に転移魔法掛けたら異世界と魔法が繋がっちゃったのじゃ!」
「お父様!?そこは隠しておくのが親の優しさでしょう!?」
「この人怖いからしょうがないじゃろ!」
「やかましい!」
「「ひいっ!」」
おっと、なけなしの敬語が。
落ち着け。落ち着くんだ俺。
セレヒオ・ラモスの殺人タックルとドヤ顔よりよっぽどマシだ。
ゴールを決めてパフォーマンスする俺、ドリブルであっさりと相手を抜き去って余裕な俺、コンディション最高の俺!
「……よし」
ふう。なんか虚しくなった気もするけど、取り敢えず落ち着いた。
「えっと、王様? 取り敢えず俺はここに手違いで来たんですよね?」
「そ、そうじゃ。ちなみにもとの世界には帰れんぞ?なんせ適当だったからの。失敗したらバラバラ死体じゃ」
察しよく聞きたいことを答えてくれたのに、無駄にイラッときた。
自分の眉間にシワが寄っているのが分かる。
あーあ、エリザベス王女?様が涙目だ。俺の顔、怖いよな。チームメイトにも人相悪いって良く言われたし。
「……つまり俺はもとの世界に帰れない訳ですね?」
「う、うむ」
「……俺って生きていけます?」
「すまんて!ちゃんと責任持って保護するからそんな目で見ないでほしいのじゃ!」
「それは失礼しました」
おじさんの、のじゃなんて聞きたくもない。
……それにしても怖がられるなぁ。確かに人相悪いって良く言われたけど。しかもラ・リーグ制覇と得点王が目前だったのに、いきなり転じてヒモ生活か。はは、笑える。
ファンの皆さんご免なさい。捜しても見つからないからほっといてね?
「サッカーともおさらばかぁ……」
「ん?サッカーがどうかしたのかの?」
「え?サッカー知ってるんですか!?」
「う、うむ。子ども達に人気での。広場でみんなやっておる」
まじか!
異世界だからサッカーなんて存在しないと思ったけど、そういう訳でもないのか!
絶対王政期のヨーロッパみたいなテンプレな雰囲気だから、勝手に知ってる異世界ネタと重ね合わせていた。
正直ヒモ生活になるのを覚悟していたけれど、そんなことは無さそうだ。
興奮で一気に俺の身体が熱くなった気がする。
「それじゃあサッカーのプロチームとかもあったり?」
一気にまくし立てる。プロチームがあるなら俺はスタープレイヤーとしてこっちでも名を馳せられるかもしれない。そう思うとわくわくしてきた。
「プロチーム?な、なんじゃそれは?」
「サッカーの上手い選手が対戦して、お客に見せるものですよ! えーっとなにかな。……そう、闘技場みたいなものです!」
「闘技場……サッカーを見せて客が喜ぶのか?子どもがチームを作っているのは聞いたことがあるが……うーむ、プロというのは聞いたことがないのう」
「む、そうですか。そこまで上手い話ではない、と」
少し興奮しすぎた。
それにしてもプロチームが無いのは残念だけど、子どもがチームを作ってるのは面白いな。大人よりよっぽど進んでるぞ。
これはチャンスかもしれない。
「王様、もし俺がサッカーのプロチームをこの国に作ると言ったら賛成してくれますか?」
「え、適応速くない? てかサッカーチーム作るの?」
「そりゃ日本人ですから。テンプレには馴れてます。それに王様に養ってもらうより十倍楽しそうですから」
「ええ……まあ自立してくれるのなら儂も嬉しいけどの。それなりの支援ならできるはずじゃ」
「よっし。パトロンげっと!」
ほわほわと頭のなかで妄想が膨らむ。
スタジアムの中、沢山のお客に囲まれながらはつらつとプレーをする俺。強豪の集まるリーグ戦を勝ち抜いて名誉ある優勝を飾る。
「お、お父様、あの方、すごく気持ち悪い顔してますわ……」
「しっ!機嫌が良さそうだからそのままにしておきなさい」
……おっと。なんか引かれてしまった気がするぞ。
きっと俺に対するエリザベス嬢の株価はUU◯M並みの低さだろう。知らんけど。
「こほん。取り敢えず、詳しいことは明日話すってことで良いですか?この世界の常識とか聞きたいんですけどちょっと疲れが凄いので」
「そ、そうなのか。それはすまなかったのう。そういうことなら直ぐに部屋を用意させよう」
チリン、と小さなベルを鳴らした王様。すると程なくして一人のメイド服を着た若い女性が部屋に入ってきた。
ちなみに、スカートはちゃんと膝下だ。
「国王様、お呼びでしょうか」
「うむ。この方の泊まれる部屋を用意して欲しいのだ。なるべく急いでな」
俺は威厳のある王の姿に少し驚いた。
さっきまで娘と震えていたヒゲとは大違いだ。いや、同じ人物なんだけどね。
「かしこまりました。……先程から騎士団長が外で歯軋りしていますが大丈夫ですか?」
「ギクッ!……ついでに呼んで参れ」
「かしこまりました」
口で言うな、口で。
感心した俺の気持ちを返して欲しい。さっきも言ったけどそんなの需要ないぞ。せめて王女様にやって貰いたい。
おっと不味いな、眠気がすごい。深夜テンションになりつつある気がする。
「王!何事だったんです…………か?」
……ん、メイドさんと入れ替わりに入ってきた女の人が固まってる。重そうな鎧を着込んでいて、ボリュームのある赤毛の女性だ。
結構美人だけど脳筋の気配がする。
てかそんなことより女性率高くない?この王様大丈夫かな。これが原因で国が乱れてるとか勘弁──
「………ぐう」
「ね、寝た!? 王、この男は誰ですか!」
「疲れてる様子だったからの……。やれやれ、恐ろしかった。こうして寝ていれば普通の美男子なのに、勿体ないのう」
「確かに怖かったですけど寝てればそんなにですね……」
「王!答えになっていないですよ!」
「分かった分かった。取り敢えず寝床に運んでくれるかの?その後説明しよう。丁重に扱うんじゃぞ?」
「く、分かりました。……くそ、わたしの警備をすり抜けるとは。起きたら覚悟しておけよ」
意識が途切れたあとになにか聞こえた気がしたが、空耳だと思いたい。
なるべく頑張って投稿したいと思います。
これからも読んでいただけると嬉しいです。