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十八話・締め切り前の漫画家気分


 



 「うう………」


 某日。

 俺はこんな呻き声をあげながら机に突っ伏していた。と言っても机の上に直接じゃない。机に積まれた書類の上に突っ伏している。

 俺の自室の机にはサッカー関係で必要になるものがこれでもかと並べられていて、無数の書類が積み上がり果てには闘技場の小型模型まで置いてある始末だ。机の天板部分なんて見えなくなって久しい気がする。


 「お疲れ様ですご主人様。紅茶を」

 「ありがと……」


 リリアさんの淹れてくれた紅茶をくいっと一飲みする。疲れた身体がぽかぽかと温まって心地良い。


 「うまーー……」


 俺は今、王都で書類仕事に追われていた。

 もともとスラムで協力が得られたらさっさと地方にいって布教するつもりだったんだが、そこに王様が待ったをかけた。


 『闘技場の、記録珠の設置場所を考えて欲しいのじゃ!』


 そう、俺がカメラのかわりに記録珠を使うことを提案したからだ。ソフィアに、その撮った情報を別のところへ送れるようにしてもらえば〜〜なんて言って、一年後には出来てれば良いな、と思ってた。が、なんとソフィアがその改良を三日で終わらせたのだ。優秀すぎん?


 それで俺が急遽、記録珠の設置場所やらテレビに近いような効果的な画面の切り替えやらを考えているわけだ。

 一度地方に出たら、王都に次落ち着けるのがいつになるか分からない。なるべく早く王都の施設だけでも整備しておきたい王様の気持ちもよく分かるので、甘んじてここで頭を捻っているのだ。

 

 「んー、十一カメがここで……ゴールポストにも二つ欲しいから……合計が十九カメか?」


 サラサラと書類に数字を書き込んでいく。はじめは少し苦労した羽ペンも、今ではお手の物だ。


 「随分と記録──カメラを使うんですね。こんなに必要なんですか?」


 隣で書類を覗くリリアさんが首を傾げる。確かに、使うカメラが無駄に多いように見えなくもない。

 

 「これくらいあった方が臨場感があっていいんですよ。例えばこれをどこかの広場で映すとするでしょう? そこで観る人達は闘技場に居ない訳ですから、周囲の高揚感が小さいんです。少しでも盛り上がるなら細かいところに拘らないと」

 「そういうものですか」


 いまいちピンとこないのか、リリアさんは微妙な表情をした。まあ実際見なければ実感が湧きにくいだろう。それはそのうち、ね。


 「闘技場のコートの改修はどうなってます?」

 「芝生がそろそろ定着する頃ですね。ゴールは樫の木を形状に組み立てるところまでは終わったそうですよ」


 後は塗装だけです、とリリアさんが言う。思った以上に進みは早いようだ。芝をコート全面に張るなんて地球でもアホみたいに大変なのに。さすが異世界。


 「スラム街の選手の育成も進んでいるようですよ。昨日、北のトツィさんが自慢しにわざわざ王城まで来ました」

 「ああ、あのオカマですね」


 一瞬背筋が震えたが、心をゆっくりと落ち着かせる。色目は使われたけど襲われてないからセーフ、襲われてないからセーフ………。


 ……ともあれ、順調なら結構結構。一番時間がかかるのが選手の育成だからな。早いに越した事はない。


 「そう言えば今日の正午に王が国民に発表するそうですよ」

 「おお、とうとう」


 なにを、と聞く必要もないだろう。プロチーム開設の発表だ。

 三年後に闘技場を持つ大都市一つにつき一つのチームの開設すること、その選手を少しずつ募ることなどを今回国民に伝えるらしい。それと、前に俺が東のスラムでサッカーした動画も。

 これが人気の底上げになれば良いなぁ。


 「リリアさん、あと決めなきゃいけない事はなんですか?」

 「えーっと……チームの設立ルールについて、メンバーの選定方法について、チームの練習場所について……残りはどれもチームの設立についてが多いですね」

 「うげー……面倒だけど適当に決めると後で困るやつだ」


 ぶっちゃけると、記録珠(カメラ)の設置については殆ど終わっているのだ。もともと地球でスタジアムにあったのを思い出せば良いんだから。

 けれど、チームの設立はそうはいかない。この世界に合わせて変えなければいけないことが山積みなのだ。正直、真面目にやっていたら過労死する。


 「取り敢えず選手の選定に関しては、『サッカーのできる、その都市か闘技場のない街に在住する者』を条件にしてください。後は地方を回ってから調整しないといけないものなので」

 「了解です。そう伝えておきます」


 リリアさんが『伝える』先は、王城に存在する『サッカープロチーム設立特殊班』だ。王様が先日作ってくれたチームで、俺の部下のように使っていいと言ってくれた。が、なにせプロチームを知っているのが俺だけなので、結局細かい指示をださないと動けない。仕事を減らすのも難しいものだ。


 「リリアさん。来週の頭、闘技場が完成したらもう地方にいきましょう。そろそろ限界です」

 「そうですね。私も書類仕事で疲れましたし、王に伝えておきます」

 「お願いします」


 最初からこれくらい強引に決めてしまえば良かったのだ。実は俺、王城に篭り始めて一月を数えている。この前リリアさんに月が変わったことを教えてもらったのだ。

 この世界の暦は太陽暦らしく、一年の概念も同じらしい。俺もよく一月も我慢したものだ。これがプラスもう一ヶ月とかになったら気が狂いそうだ。本当に限界。


 俺はまた一口、紅茶を啜った。この缶詰め期間、ずっと淹れてもらっていたものだ。すっかりお馴染みの味になって、喉の渇きどうこうの前に身体が欲するようになってきている。

 …………麻薬じゃないよな? カフェインだよな?

 少し不安になった。

 

 「あー、サッカーしたい」

 

 気晴らしに、プレーしたい。

 カフェインの魔の手に捕まった俺は、切実にそれを願った。






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