十四話・サッカー教室
「あ、タケ! 話は終わったのか?」
コートに戻ると、剃髪のロナルドが目ざとく俺達を見つけて声をかけてきた。
「ああロナルド、なかなかいい話しができたよ」
「そりゃあ良かった! 俺達もタケみたいな凄いやつは応援したいからな! 」
にっこりと笑ってそういうロナルド。
なかなか真っ直ぐな性格をしていらっしゃる。
ちょっと俺の口元が緩んだ。こういう裏表のない人間に認められるのはやっぱり嬉しいものだ。
「あ、それでマラドナと話した後にさ、ここの連中にサッカーのテクニックを教えようって事になったんだよ」
そう言った瞬間、ロナルドが目を光らせた。
「ほんとか⁉︎ タケが教えてくれんのか⁉︎」
「お、おう」
食い気味に聞いてくる彼にたじろぎながら、俺は返事した。
「マジか! おい皆! タケがさっきのプレーを教えてくれるってよ!」
周りの連中にそう言って大声で伝えるロナルド。
彼の浅黒い肌が僅かに紅潮しているのが俺でもわかる。興奮してるようだ。
「おいタケ、今のはほんとか⁉︎」
こう聞いてきたのはソクラティースだ。
見れば、ロナルドの声を聞きつけた連中が続々と集まって来ていた。ネイマー、ジーク、ロヴィ・カルロスetcetc……三十人はいるだろう。
「ああ、俺が持ってるフェイント技術やらシュート技術やらを今から教える」
俺がそう言ったら周りから大きなどよめきが起こる。
ふふ、地元のサッカー教室に教えに行った時もこんな反応だったな。良きかな良きかな。
「じゃあ早速教えてく。ネイ、ボール借りていいか?」
「あいよ」
靴をリリアさんに預けて裸足になり、ネイマーからボールを受け取った。
「取り敢えず技を見せるから、その後真似してみてくれ」
少し広がってもらい、まずはドリブルの基本、ボディフェイントから見せる。
ボールを左右どちらかに蹴るような大袈裟な仕草をしてから素早く逆方向へと抜け出るフェイントだ。
一人をディフェンスにつけて実戦形式で見せると、周りから歓声が上がった。
ボールをネイマーに返し、二、三人グループで練習してもらう。
「コツはどれだけ体重移動をスムーズに行えるかだ! シンプルな技だけにこれが上手くできるかどうかで雲泥の差がでるぞ!」
皆成功させるだけならものの数回でマスターしてしまっている。苦戦する人もいるようだが、それでもからっきしダメだというほどのやつは居ない。
流石の身体能力と言うべきだろうか。だがやはりそれでも
「本当に綺麗なボディフェイントは難しいか………?」
このフェイントはただ大袈裟なだけじゃ相手を完璧に抜くのは難しい。相手が思わずつられてしまうようや動きをしなければいけないのだ。
しかしそこまでの動きはロナルドやデルピエッロでもできていない。ネイマーがそこそこ良い線いっているだろうか?
まあこれからいくらでも上達するだろうから大して気にしているわけでも無いけれど。
「お………?」
と、そんなことを思っていたら一人の少年が目についた。周りの連中に比べると小柄で、頭一つくらい小さいだろうか。
「おーい、そこのちょっと小さいしょうねーん」
手を振って呼んでみるとすぐに気付いたようで、ぱたぱたとこっちに走り寄ってきた。呼び方が良かったんだな、きっと。
「は、はい、なんでしょうか?」
少年がそう不安そうに聞いた。
物怖じしないやつの多いスラムでは珍しい。
「ちょっと今のフェイントが気になって。あ、俺はタケフサ。よろしくな」
「ア、アレハンド・ロゴメスです。よろしくお願いします」
俺が簡単に自己紹介すると、少年も少しどもりながら名乗った。
………聞いたことある名前だな、おい。
セリエAにいただろ、こういう選手。
「あの、僕のフェイント何か変でしたか?」
失礼ながらアレハンド君の名前に呆れていたら相変わらず不安そうにそう聞かれた。
うーん、そこまで自信がないと不安になるぞ。もしプロになってもそれじゃ困るだろ。
「いや、そうじゃない。逆に体の入れ方がほぼ完璧だったから呼んだんだよ」
「ほ、本当ですか?」
俺の答えに信じられない、と言った表情をするアレハンド。
自覚無しというのは残念だが、実際彼のフェイントのタイミングと、その動きは完璧と言って差し支え無い領域に達していた。
小柄なのが功を奏したのかもしれないが、体重移動が他のやつらよりスムーズで移動速度が速いのだ。
「多分アレハンドならもう一つ上のボディフェイントも扱えるかな、と思って」
「お、教えてくれるんですか⁉︎」
「そのために呼んだんだから」
おお、この食いっぷりはスラムっぽくて良いな。
「じゃあ早速教えるぞー」
「よ、よろしくお願いします!」
律儀にお辞儀するアルハンドからボールを借りて、実演する。今回見せるのはボディフェイントだけでなくそれにシザーズを組み合わせた、俺のオリジナル技だ。
シザーズはボールを体の外側に運ぶように見せかけてボールを跨ぐフェイントで、元祖ロナ◯ドやクリスティアーノなロナ◯ドが得意としてきた技だ。
何度かこれを行なって相手の身体を崩し、抜き去るものだが、それにボディフェイントを加えることでその効果を最大限まで上げている。
問題点としては並大抵の体幹では不可能で、体が大きすぎても上半身が下半身についてこれないことだ。
けれどアレハンドはどちらもクリアしていて、さらにセンスも良い。俺は彼ならきっと出来ると踏んだ。
「初めは難しいだろうから焦らずやってくれ。多分アレハンドならマスターできるはずだ」
「はい、頑張ります!」
肩で息をしながら嬉しそうに頷くアレハンド君。良い気合だ。
「僕、身体が小さいせいであんまりサッカー強くなくて……けどドリブルができればきっと活躍できる気がするんです!」
「なるほどなぁ」
そういうことか。確かに『身体能力』に重きを置いたサッカーでは身体の小さなアレハンドはかなり不利だろう。
彼はそんな現状の打破を、フェイント技術に見出したのだ。
「身体が小さくても出来ることはあるもんな」
「はい! 僕が証明してみせます!」
確固たる意思というのはこういうのを言うのだろうか。彼の将来が楽しみだ。きっとチームの柱の選手として活躍するだろう。
「俺が頑張ってプロ作らなきゃな」
と、ぽつりと呟いた時だった。
「ご主人様!」
「主君!」
リリアさんとローズが慌てたようにこちらに走ってきた。
二人とも表情が固い。
「どうしたんですか?」
リリアさんに聞いた。
「王から緊急の招集です。現在開かれている貴族会にてサッカーの有用性を説明せよ、と」
「は?」
一瞬言葉の意味が分からなかった。
貴族会で俺が説明………?
王様がしてくれるんじゃなかったの⁉︎
「それと王から言伝で、『いやほんと悪いと思ってるのじゃ』とのことです」
「あの髭………」
あんた王様だろ、ちくしょうめ。
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