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十三話・マラドナと、会談と



 「ようタケフサ。良いプレーするじゃねえか。俺も久々にサッカーで感動したぜ」

 「どーも、マラドナ。みんながそう言ってくれると俺も嬉しいよ」


 俺たちは簡単な社交辞令から入った。

 けどマラドナの顔は本当に楽しそうで、少なからず人を喜ばせられたんじゃないかと俺は嬉しくなった。


 「それでな、お前がビジネスって言ってただろ? その話を聞こうと思ってな」 


 もっともお前がサッカーで醜態見せてたら外に放り出してやってたけどな。

 と言ってマラドナはカラカラと笑った。

 なるほど、それなりに信用はしてくれているようだ。やっぱりサッカーは偉大だなぁ。


 「それはありがたいな。それと、どこか話せる所はあるか? ちょっと落ち着いて話したい事なんだ」

 「ああ、そういうと思って一室用意しといたぜ? まっ、スラムの一室だけどな。………おい、デルピエッロ‼︎ 俺はこいつと話があるから、次の試合はお前が時間見とけ! 」

 

 遠くでさっきの試合で敵さんだったデルピエッロが右手を挙げるのが見えた。

 いつもこの調子で試合が続くらしい。一日七、八試合はするそうだ。


 「よし行くぞ」


 そう言うとマラドナは顎をしゃくって俺たちを促してから壁をよじ登って反対側に消えた。


 「ええ………扉から出ようよ」


 この壁、二メートルはあるんだよ?


 「スラムは複雑ですからね。扉から出ると遠回りなんですよ、多分」

 「多分、ねぇ……しょうがない、行きましょうか」

 「私は先に行くぞ! なに、安心しろ。不安要素は排除しておくからな!」

 「程々にね………」


 俺の言葉を聞いていたのかは知らないが、ひらり、と壁を越えてローズは行ってしまった。

 なんで甲冑着ながらあんな動けるんだ? 異世界七不思議に入りそうだな。


 「じゃあリリアさん、行きますよ? 俺が先に登るんでその後手を伸ばしてください」

 「お、お願いします」


 おや、リリアさんが珍しく素直だ。これはこれで良きかな。


 ともあれ、俺は軽く跳んで壁を掴み、そのまま一気によじ登った。そして壁にまたがって身体を安定させる。

 

 「っし。リリアさん、手を」

 「は、はい」


 躊躇いがちに差し出された両の手をしっかり掴む。

 初めて触れたリリアさんの手は思ったより柔らかく、そして温かかった。


 「それじゃあ持ち上げますよー、っと。ほいっ!」

 「わっ……」

 

 ひょいっとリリアさんの身体が浮いて、一瞬のうちに俺の隣に腰を降ろす格好になっている。


 「降りるのはいけますか?」

 「だ、大丈夫です。ありがとうございます」

 「ほいほい、お気になさらず」


 二人でストンと地面に降りた。


 いやー、素直なリリアさん、素敵だねぇ。

 なんか顔が赤い気がするけど、多分ここの熱気にあてられたんだろう。お大事に。


 「ご主人様? 早くローズ達を追わないと間に合わないですよ?」

 「あ、ごめんごめん」


 俺はトコトコと歩いていくリリアさんの後を追った。


 残念ながら、リリアさん素直.verは終わりを告げたらしい。いつもの飄々としたメイドさんに戻っている。もうちょっと可愛げのあるリリアさんでも良かったんだけどな……そういうところはやっぱりリリアさんだ。


 「おう、やっと来たか」

 「いやー、悪い。ここは歩き慣れてなくて」


 どうやって姿の見えない人間を追いかけたんだか、リリアさんの後ろにくっついてスラムの一角に入ったら、マラドナとローズがいた。


 マラドナは机を挟んで二つある椅子の一つに座り、ローズは壁際にすまして立っている。

 ……彼女の甲冑についてる赤いケチャップなんて俺は見てない。妙に液体っぽいケチャップなんて俺は見てない……!

 

 「ま、座れよ」

 「おう」


 そんな雑なやりとりをしながら、椅子に腰掛けた。


 「じゃあ早速俺の話をさせてもらおうかな」

 「ああ、面白くなかったらぶっ飛ばしてやるから安心しろ」

 「なに、絶対気にいるよ。サッカーが好きならな。俺のビジネスの話っていうのは──」




 長いから割愛。

 今後サッカーの布教をして数年後にプロチームを闘技場のある各都市につくることを話した。

 で、今はマラドナのリアクション待ちだ。


 「………もしそれが本当に出来るってんならすげえ話だな。お前を信用して良いのか?」

 「もちろん。それにもし俺が信用出来ないのなら王家を信じれば良い。……ここだけの話、近いうちにプロサッカーチームの開設を王家が発表する筈だ」

 「なに⁉︎ ……そこまで言われちゃ信用しない訳にもいかないな。よし、協力しようじゃねぇか」

 「よし! ありがとう!」


 ぐっと拳を握って、その後マラドナとがっちり握手をした。いやー、それにしても肝が座ってるな。まあリスクがあっち(マラドナ)にある訳でも無し、そりゃあ信じるか。


 「それで、俺達はなにをすれば良い?」

 「そうだな、まずはここに賭けにくる連中にそれとなく話しをしてくれ」

 「良いのか?」


 少し驚いたような表情をするマラドナ。


 「ああ。サッカーで金を動かすような奴らならきっと少なからず同意してくれる筈だ。今のうちに味方にしときたい。後は……平民にサッカーの普及を促して欲しい。そうだな、旅人の子供のフリして平民の子とサッカーすれば勝手に広がるだろ」

 「なるほどな。スラムの方には来なくてもそれならいけるかもしれないな。後は俺の方から他のスラムにも声をかけてみよう」

 

 へへ、流石はお代官様。話が分かりますなぁ。


 「ま、結局お前さんが行かなきゃちゃんと理解はしてくれないと思うからな。そこはサボんじゃねぇぞ?」

 「もちろん」


 自分の首を真綿で絞めるほど馬鹿じゃあ無いさ。


 「んー、取り敢えずこんなもんか。あ、後はここの奴らにサッカーのテクニックを教えてから帰ろうかな」

 「……へぇ、試合でお前がやったやつか?」


 それとなしに言っただけなのに、マラドナが食いついた。

 なんか今日一で興味深そうじゃないか。なんか釈然としないな。


 「ん、それ以外もね。ここの連中、みんな身体(フィジカル)は強いのに技術が無いから勿体ないんだよ。プロチーム作った時に俺の敵がいなかったら困る」

 「ふん、悔しいけどお前の言う通りだろうよ。王都のスラムは基本的に生活が苦しくないからな、みんなそこそこ体も丈夫だ。けどそれでお前の相手になるかって言うとそうじゃないだろうな」

 

 スラムで貧しくないとはこれいかに。


 「ま、そういう訳で練習はいるけどちょっとしたドリブル技術なんかを教えて帰るよ」

 「おう、すまねえな」


 気にするな、と言って席を立った。

 マラドナはまだこちらで野暮用があるらしい。それが何かは恐ろしくて聞けないけど。


 「やれやれ、やっとスタート地点かなぁ」

 「ええ、そしてここからが大変でしょうね」


 とはリリアさん。


 やっぱりそうだよなぁ。

 そもそもここの人達が裕福じゃなきゃサッカーに傾倒している暇もない訳で。商人やら農民やらは子供でも暇じゃなさそうだしなぁ。


 「……この国の国力を上げた方が早い気がしてきた」

 「国が豊かになっても仕事の虫は仕事の虫ですよ。それにそんなことしてたら数年はかかるんじゃ無いんですか?」

 「やっぱかかりますよねぇ。ま、たまに技術分野に口出ししてみますよ」


 水車の歯の数とか。


 「私はご主人様が国を滅ぼさない限り文句は言いません」

 「俺、そんな危険人物だっけ?」

 「少なくとも今日の密談では悪人に見えたぞ! 額に 皺のよった主君は極悪人に見えるぞ!」

 「確かに人相悪いですよね」

 「……………」

 

 なんでお付きの人にモラハラ受けなきゃいけないんだ。


 「ああご主人様、泣かないでください。私達が言い過ぎました」

 「泣いてませんよ⁉︎ ちょ、ハンカチ差し出されても拭くものないから! ……ああもう‼︎ さっさとサッカー教えに行きますよ!」

 「あ、待ってください」

 

 俺は二人に構わず、歩き出した。

 まったく、字面だけ見たらほんとに泣いてるみたいじゃないか。やれやれ、人をなんだと思ってるんだ。

 ………あれ? 目からよだれが。


 

急募、『部下に尊敬される方法』




 先日Twitterをはじめました!

 @uchiha0501 です。

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