十二話・決着
「っしゃあ! もう一点取りに行こうぜ!」
「おう!!」
ロナルドが声を上げてチームを盛り上げる。残り時間はあと十分程度。俺のゴールで周りの士気も上がってきて、十二分に逆転を狙えるタイミングだ。
「再開ー!」
相手チームがセンターマークからプレーを再開させた。今度は低い位置でボールを回す気は無いようで、全体的に選手が高めのところにポジションを取っている。
「ロナルド、ネイ、積極的に詰めてこぼれたのを狙うぞ!」
「おう!」
「りょーかい!」
いわゆる『オフェンス』になる二人にそう言って、プレッシャーをかけに行く。
相手は先程の俺のゴールで下手に後ろには戻せない。
少ない人数で敢えて自陣に攻め込ませ、味方がボールを奪いやすいようにする作戦だ。
「デルピエッロ! そのまま行け!」
「おお‼︎」
案の定、敵チームのデルピエッロと呼ばれた選手が一人で切り込んでいった。
中盤のソクラティースをスピードで強引に抜き去っていく。
身体能力が高いからか、年齢の割に上手い。地球でもアマチュアトップクラスだろう。
「いいねぇ……!」
俺はパスを待って高めの位置を取りながら、少し嬉しくなってそう呟いた。
これだけの選手がゴロゴロいるならプロ開設もそう遠くはないだろう、これは期待大だ。
「おっけ、ナイス‼︎」
そんなことを考えていたら、DFのマルセッロがボールを奪っていた。デルピエッロとボールの間に身体を強引に入れて、無理矢理奪ったようだ。正直ファールギリギリだが、身体能力の強さで攻めてくる相手には一番効果的だろう。
「上がれ上がれ!!」
声をかけてマルセッロが左サイドをドリブルで駆け上がる。パスを出しやすい位置にいたダニ、ソクラティースにはマークが行っていたので妥当な判断だろう。
……それにしてもどっかで聞いたような名前で、そいつに似てドリブル上手いな。
マルセッロが一人抜いて、飛び出していたロナルドにスルーパスを送った。
相手を振り切り、なんとかボールに追いつくロナルド。俺もマークについてきたやつと競り合いながらラインを上げた。
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◯・タケチーム
●・敵チーム
⇨・ボールの動き
→・人の動き
ゴール
┌────────┐
●
◯ ●
● ◯
↑
⇧ ↖︎ ↑
⇧ ↖︎
⇧ ◯ ● ◯
⇧ ロナ タケ
⇧
⇧ ●
⇧
⇧
◯
↑
↑
◯
マルセッロ
──────────────────────
ロナルドが完全に相手を速度で置き去りにして、一瞬フリーになった。
ゴールを確認する彼と目が合う。中に詰めているのは俺だけ、相手のDFは二人。GKも入れれば三人だ。
「ロナルド、上げろ!」
それでも、迷わずそう告げた。
ロナルドは少し驚いたような顔をしたが、軸足で切り返し、右足を綺麗に振り抜いた。
硬くて重いボールがカーブ回転しながらスローでゴールへと迫る。しかし、俺が合わせられなければキーパーが手を伸ばして捕球してしまうだろう。そんなギリギリのクロスだ。
俺は相手DFと競り合いながらボール目掛けて走った。相手の服を握って前に出さないよう、お互いを引っ張り合う。
それでも、止まらない。
走る勢いを殺さずに、そのまま走り幅跳びの要領で空を飛ぶ。
唐突だが俺は背が高くない。もちろんサッカー選手として、という意味でだが、180に届かない身長しかない。けれども、そんな矮小な身体でも空中戦にはほぼ負けたことが無かった。
駆け引きの巧さ、落下点の予測、そしてなにより、190近い身長の選手が目を剥くほどのジャンプ力。それらが俺を空中戦の王者へと誘った。
それはここに来ても、なにも変わらないのだ。
相手DFが遅れて跳んだ。けれどもそれじゃあ俺には敵わない。身長差は無くてもジャンプ力だけで空は支配できる。
「なっ⁉︎」
相手が驚いたように声を上げた。
当然だろう、俺は彼の頭二つ分くらいは高いところにいるのだから。
それに丁度良い、肩を少し借りよう。
ボールはもう俺の目の前だ。
いつも通り、額に掠らせ、コースをずらすだけ。
チリッと音がして、俺の額が少し痛んだ。
俺は遠くで響く歓声を聞きながら勢いそのまま、ゴールネットに突っ込んだ。
ピピーーッ!
審判はいないが、そんな笛の音が聞こえた気がした。
「やったぞタケ‼︎ 逆転だ!」
「ナイスゴール‼︎ 愛してるぞー!」
上がってきていたネイマーとソクラティースが興奮しながら倒れ込んでいる俺に抱きついてきた。
熱気がすごいが、そんなものは抜きで素直に嬉しい。
「あー、サッカー楽しい……」
「お前さっきも言ってたな‼︎」
「ははは‼︎そんなこと当たり前だろ!」
ぽつりと呟いたら、答えが返ってくる。気分がとてつもなく良い。
「時間だ! ここで試合終了‼︎ 2対3で黄の勝ちだ!」
そして気付けば、マラドナが試合終了を告げていた。それを皮切りにわあっ、と観客、選手問わず俺の周りに人が集まってくる。興奮気味に俺の肩を叩くやつや、ハグを求めてくるやつ、様々だ。
もみくちゃにされながらなんとか人の団子を抜け出して、リリアさんとローズのところへ駆け寄った。
「どーも、観戦ありがとう」
「主君お疲れ様だ! いやー、なかなか感動したぞ‼︎」
「お疲れ様です。素晴らしい試合でした。……ルールしか知らなくても面白いものは面白いんですね」
「はは、サッカーの良さが分かったなら良かった」
二人とも喜んでくれたみたいで、少しほっとした。サッカー嫌いなんじゃ付き合わせるのも申し訳無いしね。
「もしサッカーが普及したらこんな試合がたくさん観られるんですか?」
「ええ、俺はここの世界のサッカーを地球のサッカーを越すくらいのレベルにしたいんですよ。つまりはみんなが俺と競えるくらいに」
「ご主人様の域に、ですか」
「素人目に見ても無茶なのが分かるぞ!」
二人は目を丸くした。
確かに今の彼らのレベルでは難しい。だが、『難しい』では駄目なのだ。
「そのため俺らはにここに来てるんだから」
「…ふふ、そうでしたね」
「主君ならどうにかしそうだな! ………おお、こっちにくるのはマラドナ殿ではないか?」
「ん?」
ローズが指差す方を見れば、確かにマラドナがいる。そしてその步は俺へと確実に向かっていた。俺が試合の前、話があると言っていたのを確認しにきたのだろう。
「……こっからが交渉ですよ、リリアさん、ローズ」
「フォローはお任せください。王家の権力というものを見せてやります」
「私なら拳でお話するぞ!」
……取り敢えずローズは島流しかな?
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・サッカー用語の簡単説明
FW・オフェンスを主に担うポジション。さらに分けるとCF、ST、RWG、LWGなどがあるが、覚えなくてもさして問題はない。
MF・オフェンス、ディフェンスをバランス良く行うポジション。
OMF、CH、SH、DMFなどがある。
DF・ディフェンスを主に行う。ただサイドのポジションは攻撃に転じる際、起点になる事も多い。今作ではマルセッロ。
CB、SBなど。
GK・ゴールの要。フィールド全体を見渡せるため、客観的な指示が出しやすい。このポジションがしっかりしていないチームは、内部崩壊の危険性を常に秘めている。
『(左右)サイド』・コートの端のこと。自陣から見て右側が右サイド、左側が左サイド。
『クロス』・サイドからコートの中心へ、ゴールを味方に決めさせるために蹴るボール。高いボールの場合が多く、選手はだいたいヘディングで合わせる。
『ラインを上げる』・DFを全体的に相手陣地方向へ進めること。相手陣地を上とみなして考えれば、『上げる』の意味が分かりやすい? この逆は『ラインを下げる』。
※ ポジション名については呼び名が幾つかあるのでこれが全てではありません。
おねだり。
内葉「三、二、一、…アクション!」
(効果音)
タケ「続きが早く読みたい?なら高評価しようよ!」
リリ「男は黙って!」
ロー「ブックマーク!!」
内葉「……はいカット!」
リリ「『男は』ってそれ性差別じゃないですか?」
タケ「まずまずこんな文章読んでくれてる女の人がいるのか分からないんだろ。そういう舞台だし」
ロー「安心しろ、私は嫌いじゃないぞ!!」
内葉「どーもー」
……皆さん評価とブックマークお願いします‼︎