第一章-7
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巨大な鳥居を抜けるとそこは広い境内が広がるお寺のような場所だった。
エクスカリバーを妹のために抜く。そう決めてジェフにエクスカリバーを抜く方法を聞いた。
ジェフがなにか少し考えてから俺を、ある場所につれていくといって、いつものように本館を出て別館に向かった。
霧で先の見えないいつもの扉を通り、辿り着いたのがここだった。
いきなり巨大な鳥居があり、最初は驚いたが、このエデンでは何でも起こる。さっき神に会って俺は覚悟した。もう何があっても驚かないと。
境内に入ると真正面に七重の塔が建ち、その両脇に五重の塔が建ち、周囲にもお寺を思わせる瓦屋根の建物がいくつも並んでいた。
こんな建物、見たことがない。そもそも日本には五重の塔があるのは知っているが、七重の塔なんて聞いたことがなかった。
ただ圧倒されていると、突然、声が聞こえてきた。
「ご用向をお伺いいたしましょう」
驚いた俺は体に鳥肌をたてて振り返る。
横に立つジェフは俺よりも慣れているらしく、ゆっくりと振り返った。
俺たちの後ろに立っていたのは、長い髪を腰の部分まで伸びた、前髪がきっちりと切りそろえられていた。
服は紺色の着物を着ているけど、どこか着物とは違う、独特の服装だった。
「主に会いにきたのだが機嫌はどうだ?」
男に聞くジェフ。機嫌を気にするということは、どんな主なのか、俺は心臓がドキドキしていた。
すると男はニコリとして、ジェフと俺を交互に見た。
「主に機嫌の良いときはございません。おわかりでございましょう」
機嫌の良い時がない? ますます俺の胸は締め付けられる不安に押しつぶされた。
その時である。七重の塔の巨大な門のような扉が開き、建物の中から突風が吹いてきた。
突然の風はあまりに強く、踏ん張っていないと俺は飛ばされるほどの風であった。
すると風の中を黒く巨大なものが飛び出してきたと思うと、空中を3回回転して、俺たちの前に凄まじい振動と共に着地した。
灰色の皮膚に5メートルはある巨大な体。日本の甲冑みたいなものを腰に巻いているが、上半身は筋肉がむき出しになっている。白髪に赤い色が混じった髪の毛は背中の中程まで伸び、少し天然パーマがはいっている。眉毛は太く、その下の眼光は本当に体がしびれて動けなくなるほど、鋭くて人間の目でないことはすぐに体が分かった。
腰には3本もの俺にとっては電柱ほどもある太さの日本刀をぶら下げている。
俺たちの胴体ほどもある頭をぐっとジェフに近づける。
「貴様がここに来たとなれば、ろくなこどではあるまい」
眉間にあるシワはいつもあるのか深く刻まれていた。
「この前きた時は、あんたに援軍を頼んだ時だな。あの時はたすかったけど、エデンの再生機能が追いつかないほど破壊されてたな」
「俺を誰だと思っているか! 俺は『スサノウ』ぞ。破壊するは俺の本能よ!」
自慢げにスサノウと言った怪物。俺にも聞き覚えはある。日本神話の英雄で、ヤマタノオロチを倒した神である。でも荒々しい神なのはどんな本のキャラクターでも同じであった。
それでもこうして目の前にすると、人間というよりも化け物という言葉のほうが正しいと思った。
スサノウはジェフへの言葉のあと、ふとなにかに気づいたらしく、巨大な鼻を動かしてなにかを探るように顔を動かすと、俺を睨んできた。
体に寒さが走って俺は動くことすらできなかった。本当は逃げたかったのに。
化け物はゆっくりと俺に顔を近づけてくると、その巨大な口を開いた。
「人間? なぜ俺の家に人間んがおる。誰が許可して人間がこの敷地に入った」
明らかに怒っている口調で、俺はジェフについてきただけだ、と言いたかったけど、口も一切動かすことができなかった。
しかもスサノウは俺の持っているエクスカリバーにも興味を示した。
「人間がエクスカリバーを持っておる! 一度、人間の手に委ね、失敗したのにまた委ねたのか! どこの馬鹿がそんな愚かなことをした!」
「エクスカリバーが自ら彼を選んだんだ。まあそう怒るな。あまり怒りすぎると、お気に入りの家も全部破壊しちまうぞ。ここを追い出されたらもう行くところはないんだろ?」
ジェフがまるで挑発するように言っているのを、俺はこわごわと横目で見ていた。
唸るように顔を俺から話して、刀に手をかけたスサノウはとうとう激怒したように俺には見えた。
「まあ、話を聞けよ」
ジェフはそれでも平然としていた。
「この人間はメサイアの血族だ。エデンにとうとうメサイアが降臨された。だがまだ覚醒するには至っていない。エクスカリバーが形を変えて血族の手に渡ったのは、運命なのかもしれない。でもこいつはまだ人間。エクスカリバーを扱うことはできない。意味はわかるな?」
スサノウは察したのだろう、俺をその巨大な瞳で睨んだ。
「俺にこいつをなんとかしろと、貴様はそう言っているのか」
ジェフは軽く頷いた。
その瞬間、風が吹いてスサノウは刀を抜いて振りかぶり、刀を一気にジェフに振り下ろした。
俺は無我夢中だった。ジェフの前にエクスカリバーを差し出した。抜けない。でも鞘であの巨大な刀を受け止めないと、ジェフが斬られると思った。
全身が凄いしびれに包まれ、刀とエクスカリバーの鞘がぶつかりあった衝撃が俺に伝わってくる。
不思議と巨大な刀だというのに、スサノウのそれを俺は受け止めていた。
スサノウは自分の刀を受け止められたのを、静かに見つめていた。
俺は喉が乾いて、体から汗が噴き出していたのを感じた。
きっと一瞬だったんだと思う。それでも俺には長い時間に感じられた。
スサノウは刀をエクスカリバーの鞘から離すと、納刀した。そのいちいちの動きが地響きとなる。
「部屋を用意せよ」
召使いらしき髪の長い俺たちの後ろにいる男にスサノウは言うと、俺を睨みつけた。
「人間、人間。人間ではエクスカリバーは扱えぬ。古えではエクスカリバーを扱った者もおったが、今のエクスカリバーはただの剣ではない。人間を超えねばならぬ」
それだけを言うとスサノウは筋肉が盛り上がった背中を見せ、ズシン、ズシンと七重の塔の方に砂利を踏みしめて歩いて帰って行く。
疲れた。俺は学ランの下にひどい汗をかいてその場に座り込んでしまった。
「主が部屋をとの仰せですので、滞在を許可されたということです」
召使いの男もそう言うと頭を下げ、ゆっくりと建物が並ぶ境内の奥に歩いていった。
俺がジェフを見上げると、彼は涼しい顔をしていた。
「人間であることを超える。難しいことだがそれしか道はない。メサイア様を守れ。メサイア様の行く道は茨の道。俺たちも全力でお守りするが、一番そばにいるお前が守ってさしあげろ」
俺はそのためにこの剣を、エクスカリバーを抜く決心をした。
後戻りするつもりはなかった。
第一章-8へ続く




