第一章-6
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そこには巨人が座っていた。
俺と美沙希が鐘の音と共に体が空中に浮き上がったと思った後、立っていたのは周囲が真っ暗で、ただ壁のようにそびえる巨大な長いテーブルだった。
見た感じでは50メートルくらいはある。
そのテーブルには6人の巨人が座っている。
しかも門の街で見た巨人とは大きさが違う。ただ座っているだけでも100メートルはあるほどの巨人。しかも6人もいた。
抜けるはずもないエクスカリバーを前に突き出し、妹を後ろにして俺は必死に威勢をはった。脚は震えていたし、すぐに逃げ足したかった。
でも美沙希を置いて逃げることはできなかった。
すると目の前をなにかが通り過ぎたと思った時、俺は首に冷たいものがあたっているのを感じた。それがなにかはすぐに理解できた。ジャンヌとジェフが呼んでいたあの女子高生に突きつけられたあの感触と同じだったから。
刃の感触だ。
巨人たちから視線を目の前に下ろすと、金色の縁取りがされた白い学ランを着た、男とも女ともつかない、ただ綺麗な顔つきとしか言えない3人が武器を俺の首元に突きつけていた。
1人は西洋の剣。1人は中国の剣。1人は槍をそれぞれ構えて俺を睨んでいる。
「よさぬか。こやつはまだエクスカリバーを抜けてはおらぬ。我らに傷1つ付けられぬ」
真ん中に座っている巨人の声らしきものが、3人の攻撃態勢をといた。
白い学ランの3人はそれぞれ剣を鞘に、槍の穂先を下に向け、テーブルの前まで下がっていく。
「ようやく会えたなメサイア、救世主よ」
同じ巨人の声がした。
もちろんこの学園に来て以来ずっと救世主と呼ばれてきたのは、美沙希だ。
「あの~、あたし救世主じゃ……」
俺の肩から顔を出し美沙希は怖いものを見るように巨人たちを見上げていた。
「いいえ、貴女は間違いなく我らの救世主です」
と巨人じゃなく今度はさっきの学ランの1人が喋りだした。
真ん中で槍を持っている赤い髪の人物だ。
「ここに降臨なされたのはゼウス神、オーディン神、アトゥム神、シヴァ神、アメノミナカヌシ神、盤古神。東西の最高神であらせられます。間違いなどございません」
名前だけは俺も聞いたことがあった。どれもゲームにはお馴染みの神々の名前だ。
それが目の前にいるなんて、実感がなかった。
「そうです、メサイア様。神々に間違いはありません。これは運命なのでございます」
西洋刀を持った青い髪の学ランの人物が今度はニコニコと妹に声をかけてきた。
そして中国刀を持った緑色の髪をした学ランの人物が最後に、かけている眼鏡を上げて言った。
「神々は古より救世主の出現を待っておりました。この時がようやく来たのです」
学ラン連中に俺はエクスカリバーを突きつけた。
「な、なんなんだよ。俺の妹を救世主って。お前たちは何をするつもりだ!」
自分でも声が震えているのが分かった。
「黙れ人間。我ら天使長に馴れ馴れしく口をきくな!」
赤毛の人物が凄まじい眼光で俺を睨みつけた。
「て、天使長?」
赤毛の人物は言った。
「そうだ。我ら3名はここにおわす神々を守護する天使の軍勢を率いる天使長。わたしはミカエル」
青い髪の男がにこやかに続く。
「僕はガブリエル」
緑髪の男が最後にいう。
「俺はラファエル」
3人の名前もゲームやアニメでよく聞く名前だった。特に俺を睨みつけているミカエルというのは、有名も有名だから、俺は何も喋れなくなった。
「救世主よ。君が来るのを待っていた。覚醒する日が来るまで、エデンで守護する」
「いずれすべてを照らす太陽となるであろう」
「必ずや悪魔との戦を終わらせ、すべての世界に平和を」
「我らは信じておるぞ、メサイヤ」
「平穏なる日々が訪れることを願っておる」
巨人たちは次々に言葉を口にする。しかし顔が暗くて見えず、誰が何を言ったのかわからない。
「悪魔の生贄にしよってのか!」
美沙希が悪魔と戦うことになるのではないか。そう思った俺は叫んでいた。
「それは違う、人間よ。お前を含めすべての存在を守ってくれるのだ」
神の1人が言った。
俺はそれにも納得がいかなかった。
「じゃあ美沙希は、俺の妹は誰が守るんだよ」
学ランの天使長たちにまた刃を突きつけられるのを覚悟して俺は叫んでいた。夢中だった。
「救世主に守る者はいらぬ。自らの力ですべてを救い、悪しき者を薙ぎ払う」
俺の妹にそんな力があるはずがない。
口うるさくて兄貴の俺をいつもバカにしているところはあるけど、運動神経がそんなに良いわけでもない。その美沙希が悪魔と戦うなんてできるはずがない。
「ならばお主が守ってみよ。エクスカリバーに選ばれた人間ならば、あるいは救世主を守れるかもしれぬ」
神々の1人が俺に言ってきた。
それを聞いていた3人の天使長たちが笑っていた。バカにしているのはすぐに分かった。
「ああ、言われなくても守る。美沙希は俺が必ず守る」
エクスカリバーを掲げ、俺は叫んでいた。
駄目な兄貴なのは分かっている。だけど守れるのならこの手で。
眩しい光が俺と妹を包んだ時、また体が空中に浮かぶ感覚がした。
教室に俺たちは戻っていた。
「神々との謁見はどうだった?」
学ランのポケットに手を突っ込んだジェフが聞いてきた。
「こいつを、エクスカリバーを抜くにはどうすればいい。教えてくれ」
ジェフでもジャンヌでも良かった。俺は妹を守る力がほしかった。
第一章-7へ続く




