第一章‐18話
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目の前が暗かった。確か戦っていたと思うけど、気付くと目の前が真っ暗になった。そこまでは覚えている。
すると暗闇に光が一筋入り、それが刀の形になる。エクスカリバーだとすぐに俺には分かった。
柄を握ると、不思議と暖かかった。
「……お兄ちゃ、お兄ちゃん」
美沙希の声がする。
すると暗闇が一瞬で白くなり、俺は声のする方を見た。
開けた目には太陽の光がまぶしく感じた。まだ俺は戦ってるのか?
今どこにいるのかさえ分からなかった。体はいたいし、動くことができない。ただ包帯の感触はする。
「あら、起きましたわ」
甲高い声が俺の耳元で叫ぶのが聞こえた。何だ、と横を見ると俺を興味深く見る女の子がいた。
「お市、静かにしなさい」
この声の主はすぐに分かった。美沙希をかばって戦っていた、ジャンヌというあの俺を見下している女性の声だ。
ヒールが床板を歩く音がベッドに横になっていると思う俺のところに近づいてきた。顔を向けるといかにも気が強い女性らしい視線を俺に向けてくる。また人間ごときが、というんだろうな、と思った。
でも、ジャンヌはベッドの横で片膝をついて頭を下げた。
「先日の言動、申し訳ありません。ここにわたしジャンヌは、訂正させていただきます。あなたは人間の領域を超えております。今現在、天使長様たちも調査されているようですが、分かりません。ですがこれだけは断言いたします。あなた様は救世主メサイア様の兄上です」
急な態度の変更に、俺はきっとひきつった笑いをしていたと思う。
「あ、ああ。俺は確かに美沙希の兄貴だ」
そう返すと、部屋に駆け出す足音が響いた。
「起きたんだ。よかった、本当に良かった」
そういって妹が抱き着いてきた。
痛い。全身に突き抜ける痛み。俺はなにか声にならないものを口から出したのだろう、美沙希ははっとして、俺から離れた。
「ナイチンゲールが言うには、怪我はひどいですが、命に別状はないそうです。やはり人間の領域を超えております」
頼もし気に立ったジャンヌは俺を見つめた。
「お前は大丈夫なのか」
あれだけ悪魔と戦った後だ。平気なはずはない。
「全然。あたしは救世主よ。回復力だって尋常じゃないんだから」
平気じゃなかったのは、俺だけだったらしい。
「お兄ちゃんはしばらく安静にしてね。それとあたしを守ってくれてありがとう」
妹は珍しく俺に頭を下げた。どんな顔をしていいのか分からなかった。でも嬉しかったのは確かだ。
それから一日、俺はベッドの上で過ごした。不思議と痛みが消えていき、翌朝には歩けるようになった。痛みも嘘みたく消えていた。
「元気そうじゃないか」
部屋に戻ろうとする俺が学園の石畳の外を歩いていると、ジェフ・アーガーが声をかけてきた。
「なんとかな。生きてはいるよ。あれが悪魔か」
俺はあの子供の顔をまだ忘れることができなかった。
「そう。お前が気絶した後にもベルゼバブが現れた。天使長たちが追い払ったがな」
「まさか東京で悪魔と戦うことになるとはな」
俺は門が締まっている学園の壁を見た。
「そう。あれが学園都市エデンの全容。東京の街を全部再現している。現実の東京に応じて、都市も指導で変化する。この学園は街の中央にある。まあ神々の意図は俺たちには分からないさ」
そう言って、ジェフはポケットに手を入れた。
その後、ジェフと別れた俺は部屋に戻り、立てかけられているエクスカリバーを手にした。本当に抜けたのか確認したかった。
柄を握り、一瞬ためらった。でもあの光で現れたエクスカリバーを思い浮かべる。すると自然とエクスカリバーは抜けた。
これが選ばれたってことなのか。
戦えってことなのか。
俺はそういわれているように感じた。
嬉しくもあったが、不安もあった。あんな悪魔と戦わないといけないのか。そう思うだけで、不安に落ちていきそうになった。
すると部屋をノックする音が聞こえ、俺はエクスカリバーを鞘に戻し、部屋の扉を開けた。
そこにはニコニコしているヤタが立っていた。
「スサノウ様がお呼びです」
もう始まるのか。
そう思い心が重くなった俺はスサノウが引きこもる、訓練場へとやってきた。
スサノウは凛然と立って俺を待っていた。
「聞いたぞ、悪魔を退けたそうだな」
「ええ、まぁ」
やる気満々のスサノウに俺は苦く笑った。
「甘えるなよ。お前はまだまだだ。これから稽古だ」
ほらな。
俺はそこからどれだけの時間、スサノウと稽古しただろう。変わったと言えば、エクスカリバーでの真剣で稽古したことだ。
もう動けなかった。
砂利の上に倒れた俺を、満足げに見下ろすスサノウは、満足したのか帰っていった。
俺はスサノウのところから帰る途中、痛む筋肉で歩きながら、学園の中を楽し気にジャンヌやお市と歩く美沙希が見えた。
あの笑顔を俺は守らないとな。
改めて俺は決意した。
こうして学園都市エデンでの日々は続くのだった。
第一章 完




