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第一章‐16話

16


 このまま気絶できたら、どんなに楽だったろうか。


 体の感覚はもうとっくにない。俺は子供に殴られて瓦礫の中に倒れている、殴られすぎて頭は痛いし、目もかすんでいる。


 瞼を閉じたい。閉じて楽になりたい。そう思ってた。


 でもかすむ視界の中で美沙希が悪魔に殴られている。子供の姿をしてるってのに、なんて力なんだか。


 魔法陣を立てに防いでいるけど、悪魔の拳も黒く光っているように見える。美沙希がこのままだと危ない。


 それでいいのか、


 俺は自分に問いかけた。妹をこのまま見捨てて気絶して。それが俺の本心なのか?


 気づいた時、俺はエクスカリバーの柄を握り、感覚のない手足で瓦礫の上で踏ん張っていた。


 立つんだ、立って美沙希を守る。


 そう自分に言い聞かせ力を入れた。


 その時、俺も驚いたのだがエクスカリバーが急に軽くなった気がした。


 まさか! 


 そう思い何とか立ち上がった俺は、エクスカリバーの鞘を握り、柄を一気に引き抜いた。


 あれだけ何度、力を入れても抜けなかった刀が、嘘みたいに抜けた。しかも本物の刀だというのに、軽い。


 驚いていた俺はでも、美沙希の魔法陣が砕けるのを見て、慌てて走り出した。


 すると体が軽い。力が入らず、感覚すら消えていた手足が軽く、思い通りに体が動く。


 悪魔が黒く光った拳を美沙希の顔に振り下ろそうとしている、その拳に向かて、エクスカリバーを突き出す。刀身には炎がやどって、俺にまで力を分けてくれているように思えた。


 エクスカリバーは悪魔の拳を止め、美沙希を守ることができた。


 俺は美沙希に逃げろと言った気がする。それよりも目の前の子供の姿をしながら、黒く濁った怒りの顔をしてる悪魔に集中していた。


 美沙希が何かをしてくれたのか、また体が軽くなった。


 それを見て俺を恐怖に感じたのか、それとも俺を罠に入れようとしたのか、悪魔は俺から離れて行く。


 逃がさない!


 俺はジャンプすると軽くなった体で悪魔にエクスカリバーを振り下ろす。剣道は基本。習っていた頃、よくそう言われたことを思い出した。


 正面にいる子供に向かって炎を吐き出すエクスカリバーを何度も振り下ろし、横払いする。


 それでも真剣を悪魔は黒く濁った光を手から放ち、エクスカリバーを防ぐ。


 エクスカリバーなんてゲームでしか聞いたことのない、聖剣を振っても、悪魔はそれを素手で受け止める。しかも子供が。


 俺は改めて目の前にいる異常な存在に、恐ろしさを感じた。


 俺の体は18年間生きてきて、こんなに動けたことがないほど、軽々と、イメージ通りの動きができた。


 剣道をやっていたころも、こんなに動けたことはないし、体育の時間も、遊んでる時も、こんなに動けたことはなかった。


 もっと速く、もっと強く。


 こんなに体が動くのに、エクスカリバーは悪魔に届かない。だから願った。もっと、もっと。


 その願いをエクスカリバーは叶えてくれたのか、赤かった炎が白くなり、光に変わると、エクスカリバーから、なにか分からない力としか表現できない物が、柄から伝わってきた。


 地面に着地した俺は、自分でも驚いていたが、空中で戦っていたのである。


 そんな驚きも一瞬でなくなり、正眼に構えたエクスカリバーの切っ先を、悪魔に向けた。


 子供の顔が少しだが焦りを感じる顔になっていた。それと同時に子供の手に黒い光がどんどんと大きくなっていく。悪魔も本気なのだと分かった。


 次の一撃で決めないと、俺も美沙希もやられる。


 そう感じた俺は改めて柄を強く握った。


 大きく息を吸い込み、一瞬止めたと同時に、軽い足を前に出した。体は悪魔との間を一瞬で縮め、俺はエクスカリバーを渾身の力で降りぬいた。


 悪魔も拳を後ろへ引き、体をねじって俺に向かって拳を突き出してきた。


 俺と悪魔はすれ違う。


 後ろで、ドサリッ、と音が聞こえた。


 それと同時に俺はまた全身の感覚を失い、エクスカリバーの光も完全に消えてしまい、目の前が真っ暗になった。


第一章‐17話へ続く


 


 

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