第一章‐14話
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子供の力とは思えなかった。
俺はエクスカリバーで倒れている美沙希と子供の前に入り、抜けないエクスカリバーの鞘で子供の拳を止めた。
子供は意外そうな顔をして俺の顔を見上げていた。
「お前が悪魔ってやつか」
子供の悪魔は離れて俺と美沙希を交互に見ていた。
「このアモンがたかが人間ごときに攻撃を防がれるとは、驚きですよ」
そういって子供の体は空中に浮きあがっていた。
何とか立ち上がる美沙希を背中に、俺は抜けないエクスカリバーをとりあえず構えた。剣道で覚えた正眼の構え。
どう見ても子供。ためらいがあるに決まってる。子供に剣を向けているのだから。
それでも子供の姿をしている目の前のアモンとかいう悪魔、どうしても子供に見えて、子供とは思えない雰囲気というか、オーラを発している。
空中に浮遊してるから当たり前なのだが。
アモンは俺を睨む。
俺の体は何かトラックにでもぶつかったように、すごい痛みと共に飛ばされた。
東京駅を後ろにしていた俺の体は、手足がちぎれそうな感覚になりながら、空中を飛ばされ、東京駅の外壁に激突した。
壁は砕け、俺は瓦礫の中に倒れた。全身が高熱を出した時のように、だるく、痛む。それでも不思議と歩けないわけではない。
立ち上がり瓦礫をどかして、俺はアモンを見た。
あの子供は俺を見て笑っていた。
悔しい。
こんな感情久しぶりだ。剣道の試合に負ける度に、昔は悔しかった。泣いた。それも部屋に居る時間が長くなるにつれて、消えてた。
それが久しぶりに感じられたことに、俺は少し嬉しかったらしく、口元が笑っていた。
アモンはそれが気に食わなかったらしい。笑った俺の前へ瞬間移動してくると、俺の頬っぺたを思いっきり殴ってきやがった。
俺の体はまた瓦礫の中に叩きつけられ、体中に瓦礫が突き刺さった。
痛い。
気づけば学ランはボロボロ、口の中は切れて、血が出ている。殴られた頬は感覚がない。
子供の姿をした化け物を前に、俺は無力だった。
「逃げろ、人間には無理だ」
「全員、アモンを狙え」
ジャンヌが美沙希の肩を抱えて俺に叫ぶ。
学ランの防衛隊はM4ライフルでアモンを狙い、先頭に居るジェフは、俺が逃げる隙を作ってくれようとしているのが分かった。
でも、この世界の弾丸はきっと特別なんだろうけど、アモンが体の周りに張り巡らせている見えないシールドが、弾丸を空中で受け止めてしまっている。
しかもアモンが視線を防衛隊へ向けただけで、防衛隊の隊列は空中に放り投げられた。
他の防衛隊、美沙希の近衛部隊はアモンが引き連れてきた化け物たちと戦っている。
ここでアモンを止めないと、美沙希が危ない。
神も悪魔も美沙希が救世主だって言う。
神はきっと美沙希を保護してくれるだろう。でも悪魔は美沙希の命を狙ってくる。
妹を救世主に持つ兄貴として、ここは俺がなんとかしないと。
ボロボロになった体を持ち上げて、俺に背中を見せているアモンの体に、思い切り鞘のままのエクスカリバーを叩きつけた。
硬い物に当たった感触はあった。俺はそれを強引に押し込み、アモンに届けと力を入れる。
エクスカリバーの力なのか、アモンのシールドを貫通して、鞘がアモンの体に届いた。
背中を殴られた子供の姿をした悪魔は、地上に屈した。
子供を殴るのはやはり抵抗がある。でも妹のためなら。
俺はもう一度、エクスカリバーを振りかぶり、アモンめがけて振り下ろした。
二度目のチャンスを悪魔はくれなかった。
エクスカリバーの鞘は小さいアモンの手でしっかりと受け止められ、背中を殴られたことに、そうとうな怒りを感じているのか、子供の顔がまさしく悪魔となって歪み、俺は何度もアモンの拳を体に受けることになった。
最初の一撃は痛かった。それが感じなくなるくらい、俺は人の力を超えた悪魔に殴り続けられた。
膝に力が入らず、倒れたかった。でもエクスカリバーを握られ、体の力が抜けても、立たされた状態のままだった。
きっとこのまま。
そう思った時、アモンの背中に無数の光の玉が飛んできて、爆発を起こした。
瞼が半分落ちて、意識を失いそうになった俺が見たのは、魔法陣を空中にいくつも作り、光の玉で攻撃をする美沙希の姿だった。
あいつ、泣いていた。
「お兄ちゃんから、離れなさい!」
俺の為に怒ってくれてるのか。いつもガミガミうるだかった美沙希が怒ってくれている。それが嬉しかった。
アモンがエクスカリバーの鞘を手放したことで、ようやく力を抜くことができた俺は、きっと雑巾のように倒れたように見えていただろう。
もう何も感じない。
ただアモンが瞬間移動して、美沙希の目の前に向かうのだけは見えた。
「み、美沙希……」
何度か声を絞り出したが体が動かない。
妹が、俺の大事な家族が。
何とかしないと、美沙希が。
第一章‐15話へ続く




