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『七行詩集』

七行詩 121.~140.

作者: s.h.n


『七行詩』


121.


耳鳴りは いつでも僕に 訴えかけ


“全て奪ってしまおう”と 


“いいえ、触れてはいけない”と


警笛は 鳴り止むことなく ぶつかり合い


ただただ胸を 疲弊させる


欲しいのは 純粋に響く 軽やかな


君からの ほんの一声なのに



122.


愛情も あなたは脱ぎ捨て 部屋を出た


ほつれてしまったセーターを


長い夜を数え 編み直しても


再びあなたに 着せることなど


もう叶わない 夢なのだと


涙にぬらし 顔を埋めれば


過ぎし日々の香りは そこに染み着いていた



123.


片割れの 不完全さに 心惹かれ


二つが出会って 円になる


上弦の月 夜半(よわ)の頃には


ようやく向かい合えたのに


壁を挟んで 隠れるような


その距離も 形を変えて ゆくけれど


約束は 巡り巡って 今満ちる



124.


雨のカーテン 薄く水を張る 石畳


ヒールを鳴らせば 波紋を作り


飛沫を上げて 舞う姿は


ひとつの幻想のように 胸を奪った


雨上がり 虹が架かれば 残された


大地の鏡は 映すだろうか


光差し 頬に滴る 輝きまで



125.


手を繋ぎ 途切れ目のない 輪の中に


割って入るなど できようか


満員電車 自ら選んで 端に立てば


冷たい壁に もたれていた


けれど 君は世界の中心にいながら


もたれる相手が 居るのを見ると


その違いに 堪えることなど できようか



126.


どこにでも 美しいモノは 在るもので


人が気づくか 気づかないかの


ほんの少しの違いだけ


目を凝らし 僕を見定める 視線さえ


僕が奪ったものならば


偽りはせず 灯のもとに


光にさらし 差し出そう



127.


君が好き勝手 言ったって


今日はどこでも ついて行くよ


その気まぐれに 地図はなく


小さな旅は 並ぶ口実に なれば良かった


雨上がり 泥濘のみちを 辿るとき


お気に入りの靴が 汚れても


君は笑っていた



128


約束は 縛るためには 結ばない


離れた場所で はぐれないよう


糸を繋いで おくために


表紙には “理想”と書いた 手帳にも


僕らの未来を 写しておいたよ


そして 貴方が生きる あの町へ


一筆に線路を 延ばすんだ



129.「The affection tastes」


これもきっと 度々重なる 偶然が


いたずらに見せた 悪い夢


散らばるガラスの上に立ち


冷たい足場は 氷を纏い


愛情とは何か 僕は学ぼうとしている


辺りには 霧もなければ 壁もなく


まるで 君の前に一人 放り出されたようだ



130.


手を振って 駅のホームで 別れては


僕らは行き違う電車の


窓をはさんで 向かい合わせ


喧嘩を厭う こともなければ


無闇にぶつかる こともない


そして “いつかどこかで また会おう”と


小鳥を空へ 逃がしてしまう



131.


相見え 心に花が 咲きました


その花を活けた 花瓶は今


雷雨のような 悲しみに


突き落とされて 割れてしまった


その欠片を この心臓に 突き立ててください


そうして私は 胸を蝕む この愛から


解き放たれるのでございましょう



132.


足は冷え 震える心は 泣きました


指の先から 暖めるような


二人に芽生えた 優しさも


暖炉にくべて 燃え尽きてしまった


その灰を 私のお墓に まいてください


そうして私は 星空を望む この丘から


旅に出るのでございましょう



133.


愛が為 覚える心が 在りました


木を隠すなら 森の中


しかし 神は貴方を 人波に隠したが故に


魂は惹かれ 遭ってしまった


その人を 感じるうちに 逝かせてください


そうして私は ひと息つかん、と とこしえの


眠りにつくのでございましょう



134.


あの日から 一時たりとも その声を


忘れていたとは 思わないで


それはもう長い 時間だった


愛しさを 思いしたため 耐え忍び


きつく結んだ 襟元を


自分の手では 解けない


さぁ、今は その御心の 成すままに



135.


この身にも 然したる違いは ありませぬ


流れた日々の 長さだけ


伸びる爪を研ぎ 髪を結い


たとえ何時 帰って来らしても 良いように


女とは 自分を磨く ものですから


結んだ髪を 帯を緩めてくだされば


張り詰めた その御心を 解きましょう



136.


この場所に 捨て行かれるよな 前触れに


愛しても 今まで気づかなかったくせに


立てた爪 這いつくばるよな悲しみに


刻んでも 痛むことのないであろう胸に


名を残し 心は揺れる 草舟に


寄せましょう 抗う術なき 奔流に


任せましょう それでも貴方想う故に



137.


疲れ身に 揺られるがまま 仕事終え


家までの距離は 長く感じる


同じ道でも 真隣に


君が居る日は 代えがたい時間


僕は先に降りることになるから


手を振り別れを 惜しむ前に


感謝の言葉を いつ伝えよう



138.


追いたくて こらえるために 震える手


どんなに別れが惜しくとも


旅立とうとする 小鳥の羽を 縛るなど


誰にできるというのだろう


せめてその足に 糸を結び


辿ってゆきたいものだけど


再会したって 君はどんな顔をするのだろう



139.


手にすくい 転がす砂は こぼれ落ち


再び拾い上げることなど 出来はしないよう


貴方が行ってしまうなら


足跡も 霧に霞んで 溶ける闇


これが最後になるのでしょう


貴方の一番 優しい声が


今もすぐ傍で 聞こえるのに



140.


いつからか 貴方が私の 光になり

 

照らされ続ける為には


貴方を追わねば ならなくなりました


暗闇の中 探しに行くには 灯りが要ります


しかしその蝋燭に 火を灯すのも 貴方です


今もまだ 出逢わなければ 求めずに


窓から差す 光の中で 眠っていられたのに





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